作品タイトル不明
第1333話 精霊と会議⑧箱
わたしは仲間たちに向かって手を合わせた。
「わたしは、もう〝答え〟をもらっちゃったから、いつか誰かにあげようと思ってたんだけど。今、使ってみるべきだと思うの!」
みんな不思議そうな顔。
わたしは小箱を収納ポケットから呼び出した。
「あ、それ、何だっけ?」
「なんでち?」
『なんだ?』
『なんだなんだ??』
もふもふ軍団はくんかくんか匂いを嗅いでる。もふさまだけは小箱に興味を示さず匂いを嗅がなかったけど。
「それは、希望の箱?」
兄さまはわかったみたいだ。
『希望の箱?』
低めのいい声、地のテールさまかな?
「ダンジョンで出たんです。ご褒美に。その時の一番の希望が入っていると鑑定されました。わたしは小箱を開けました。そこには〝希望〟が入ってました」
わたしはもう使ってしまった。
それで誰かが希望を欲っしたときに渡そうと思っていたんだけど。
今が使う時だと思うんだ。
「この中に希望が入っています。レイヨンさま、開けてみてください」
わたしは小さな小箱を差し出す。
大きな精霊にすると米粒にも届かない小さな小さな箱。
わたしはレイヨンさまが差し出した指の上に小箱を置いた。
レイヨンさまの指を、他の精霊の方々が覗き込むようにしていた。
『不思議な匂いがするのぉ』
『その中は我の力も及ばぬ』
やっぱりそうか。さすがダンジョン産。
ダンジョンはきっと創造神が作ったものだろうからね。人智も箱庭の神も聖なる一派も、そして精霊も侵せない領域の何かとなるんだと思う。
『これは貴重なものなんだろう? 良いのか?』
「はい。わたしはもう使いましたから」
メモの文言はしっかり書き写したしね。
『……これは無制限のものではないぞ、おそらくあと2回』
わたしの鑑定よりレベルが上だ。そこまでわかるなんて。
でもそういう制限があるんじゃないかと思ってた。3回まで使えるものなんだ。
1人1回で、3回機能するもの。
精霊さまの今の希望は悠さまを取り戻すこと。きっとそれに関する希望が得られるはず……。
レイヨンさまは緊張した面持ち。爪を使い器用に小箱の蓋を開けた。
『何も入ってない?』
覗き込んでいるエトワルさまの声。
え? 入ってない? 精霊はノーカウント?
『いや、済まぬ。声が聞こえた。我だけにだったようだな』
『レイヨン兄さま、なんと聞こえたんですか?』
精霊たちはちょっと興奮している。
精霊にとって珍しい不思議ごとが起こっているんだろう。
『我は小箱。万能小箱。何でも入れることができる。外部とは一切遮断できる万能小箱。ただし使えるのは一度きり』
レイヨンさまが聞こえたことを教えてくれた。
小箱だけに……そーきたか。
疫病神の遠ざけ方とか教えてくれてもよかったんだけど。
まぁ……でもこれで、悠を疫病神にバレずに運んでくることができる。
あとはどう悠を、集落のことを含め説得するか、だな。
というか、それが難関!?
悠は現実にたどりついても、精神を保っていられるだろうか?
『……感謝する』
え?
『悠のことに親身になってくれて。我たちの問題に向き合ってくれて』
急にレイヨンさまから感謝の言葉をかけられ、少し困惑する。
だって何かできてからならわかるけど、悠さまがどうなるかははっきりいってわからないから。
『うぬらはわかっていて、付き合ってくれたのだな』
わかっていて?
『うぬらの目的。一定量を割ると瘴気が溢れる。溢れるは確かだが、生命の危機が訪れるほどではないはずだ。
我は正確には伝えなかった。うぬらが焦っていたのに、その事実は伏せた。
悠を探して欲しかったからだ。済まない』
わたしたちは目を合わせた。
やっぱり、そうだったか。それならよかったとちょっとホッとしたけど。
でも、悠がパニックを起こしたり自我がなくなったらどうなってしまうんだろう?
『そして頼まれて欲しい。もし悠が自我をなくして暴走しそうになったら、この小箱に入れてくれ』
! あ。……あ。悠を疫病神にバレないよう運べる小箱だと思ったけれど……それは一度きりなら、外部と一切遮断できる万能小箱。
暴走するとどうなってしまうかわからないけど、どんなことになっても、どんな現象となったとしても、おそらくその小箱に入れることができる。
その小箱がわたしの手元に戻ってきた。
レイヨンさまの希望だからレイヨンさましか使えないんじゃと思ったけど、レイヨンさまが頼むことだから大丈夫だろうと確信しておっしゃられた。
本当は自我のあるまま悠を連れてきてくれって言いたいところだろうけど、わたしたちの負担にもなるし、大雑把に見積もってもかなり難しいと思われたのかもしれない。
わたしたちは秘密基地に戻ってきた。
絶望の中にいて、夢を見るか幻影を作りなんとか精神を保っている。そこに現実を突きつけるなんて、酷いなと思う。でも……それはまやかしには違いなく。悠は成り行きとはいえ、〝外〟に助けを求めた。かなり不安定なところまでいってるってことだ……。できることなら少しでも絶望から遠ざかって欲しいけど、その方法もどうしたらいいかも、ちっとも思い浮かばない。
「何かいい方法があればいいんだけど……」
「いい方法って振り返って後から定義づけられることで、未来に向かってはきっとないんだ」
イザークが言うと、ルシオもうなずいた。
「僕もそう思う。行動ってそれがいいと思ってやることだよね?
思いつくことを体当たりでやるしかないんだよ。だって未来はわからないし。
それしか僕らは知らないんだから」
そうだね。わたしたちは悠と向き合うしか、できない。
なんでそうするかって、精霊さまたちに頼まれたのもそうだけど。
知ってしまって。そして傷が見えてしまったから。
辛くて誰かに助けを求めているのが見えてしまったから。
そうしたら、できるだけのことはしたいから。