作品タイトル不明
第1320話 13番目を探せ㉖結論(後編)
息をのんだ。
『どうした、リディア?』
「姉さま、どうしたの?」
「リディー?」
驚いたのが伝わったのだろう、みんなに声をかけられる。
禁忌の神話が間違って伝わっていたの?
いや、だって、精霊が言った。
悠は真っ黒のものに覆われていたと。
……でも、悠のことを知りたがったら、本人じゃないから伝えられないって言われたんだよね。ただ見かけは真っ黒いものに覆われていたってことで。
それに女神さまのせいだからこそ、女神さまは瘴気を回収する命を受けることになり、聖女を遣わしたり、瘴気を持たせるための存在である魔物を作ったんじゃないの?
ええっ? 瘴気が生まれたのは女神さまのせいじゃないの?
頭がこんがらがってくる。
兄さまがわたしの両手首を持つ。
「リディー?」
名前を呼ばれて、兄さまの目を見た。
わたしは今聞いたことを、困惑しながらみんなに話した。
みんな口を開けて驚く。
兄さまがわたしの肩を叩く。
「悠さまの話を聞こう、ね?」
そうだ。まだはっきりとしたことはわかっていない。
「女神さまの祝福がなかったから、瘴気が生まれたのではないのですか?」
『女神さまの祝福がないまま地に降りたは事実。ゆえに神力がないのも事実。が、聖力しかないからとて、それが瘴気にはなるまい』
た、確かに。聖力しかないもふさまが力を使って瘴気になるとかあり得ない。
聖なる者は聖力だけを持ち、みんなそうだろう。
わたしはだって魔力を抜いて聖力を使っても、瘴気にはならなかった。っていうか、そんな可能性思いついてなかったから普通に使っちゃったんだけど。
考えると、そうよね。たとえば何かと何かが合わさって化学反応のように別物が生まれるのはわかる。でも片方しか無くなってしまったもので何かしようにも、そこに変化は生まれないはず。
でも、それなら、どうして瘴気なんてものが?
「では、瘴気はどうして生まれたんですか? あれはなんなのですか?」
『……お前たちの理解している〝瘴気〟とはなんだ?』
「瘴気……ですか?」
個人的には苦手なものだ。苦しくなる。一般的には……。
「枯らせていくもの。そしてそれが多くなったとき、生き物は生きていられないもの」
『そう。とても曖昧であるのに具現化されたものである』
わたしは悠の言葉を通訳する。
「具現化された?」
兄さまがおうむ返し。
『そうだ。〝瘴気〟と名づけられたものは我の絶望の中の一部だった』
ふと横を見ると、わたしたちを案内しジョギさまとの繋ぎ役をつとめてくれた腰蓑の集落の人はいなくなっていた。
フクロウは目をつむり、そこから懺悔にも聞こえる長い話が始まった。わたしは聞こえたことをみんなにそのまま話した。
悠は他の精霊たちと同じく、とても嬉しく誇らしい思いで地上に降りた。そして気持ちは高揚していた。女神の祝福がないことを、なんとも思わないくらいに。
天上にいる神や聖なる者たちが地上に憧れているのは知っていた。降り立てないわけも。羨まれているのも知っていて、神力も聖力もある自分が誇らしかった。
夢にまで見た地上は色に満ち溢れていた。希望という未知の欠片に彩られキラキラと輝いて見えた。
命のあるものは精霊たちの力を巡り成長する。末である13番目の自分の役割は見通し、そして挑戦・〝次のステージ〟へ飛び出す心を支えること。
が、それがうまくいかなかった。
他の兄姉たちは、力を使い、生き物たちを成長させていく。次のステージに行けるものも出てきたが、悠はその役割を果たせなかった。〝進化〟できたものはいた。けれど自力でのし上がったが正しい。悠はどんなに力を使おうとしても聖力しか持っていないゆえに、聖力のみでは次のステージへと導く力にはなり得なかった。
それは悠の存在意義を激しく傷つけた。兄姉を見ているのが辛くなり、何もかもが嫌になった。兄や姉たちは女神の祝福がないからだと言った。言われて思い出す。自分には祝福がなかったことを。自分には女神の祝福がなかった。
結界を通り抜けるために、神力をカラに近い状態にする必要があった。完全に抜きとってしまうと地上に降りてから神力を得られなくなるためだ。神留の結界は結界を解いても神力には反応するという。生まれたてに近い我らではその反応が身に辛いとのことで、結界を外すにしても神力を極限まで減らす二重措置をとったと知のコネートル兄上から聞いた。そのまま地に降り立ち、自分には神力がなかった。
神力がみなぎるはずの器には、いつしかどす黒いモヤのようなものが育っていた。
神と聖霊の子。創造神から地上に降りることを許された特別な者。
生きとし生きる者たちの成長を見守り、次へのステップアップを支える存在。
神力の代わりに嫌な気を発する黒いものを育てている。
自分は女神さまの祝福があったなら、兄姉たちのように精霊の役割を全うできたのか? 黒いモヤを育ててしまうような自分だから、祝福を得られなかったのでは?
手を差し出してくれる兄姉の優しさが痛かった。何もできない自分も、ずっとそのままの自分も、何もかもが嫌で忘れたくて、見たくなくて、自分なんか滅びてしまえばいいと思った。
兄姉の優しさが辛くて、悠は棲み家を離れた。そしてますます、わかりやすく病んでいった。