軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1315話 13番目を探せ㉑仮説(前編)

「どんな実験?」

ノエルが食いつく。

「手がかりがあまりにもないから、仮説を立ててみた。

もしそれが釣り上げる材料となるなら、反応があるかな?と思ってたら、効果絶大だったな」

と兄さまは笑うのだった。

「どんな仮説?」

双子の目がキラキラしてる。

「ふふ、当ててごらん。リディーはヒントを出しちゃダメだよ」

と兄さまはわたしにウインク。

わたしに、わかってるよね?モードをぶちかましてくる。

え? わからないんですけど。そもそも実験だったことも全くわかってなかったんですけどっ。

「反応があったのが、あの影の触手だよね?」

そう言いながら、ノエルは親指の爪を口に当てて考え込んでいる。

釣られてきたのは、影の触手だ。

兄さまと触手の話をした。実態があったから怖かったと。

そう言って兄さまがわたしの手を握ってきた。

アダムの話で少し気まずい何かを感じたのはわたしだけではなく、それを払拭するスキンシップなのかと思っていたんだけど……。

実験と思っていたということは、何かあったらすぐわたしの手を引いて逃げるための対策だったのね。唐突だとは思った。違和感があった。だからこそ、怖くて手を伸ばしてきたのではないと思った。そこまでは合ってる。そこから先いいように解釈していたのが恥ずかしい。

「あれ、姉さま。顔が赤いわ。熱でも出てるんじゃ?」

「え?」

両頬を押さえると、ちょっぴり熱い。

「な、なんでもないわ」

わたしは手で煽いで風を自分に送った。

『少し動いたからか? でもあの速さで動けて、よかったぞリディア』

レオに褒められた。

「うーーん、ジョギさまや集落の人たちから聞いたことを集めても、あの触手の話は出なかったのよね。……でも仮説なら」

エリンは何か思いついたのかな。考えを巡らせてまとめているようだ。

そういえば集落で触手の話は出なかったな。

見たことがあるのはわたしたちだけなのかな?

「集落といえば、前に使っていた灯りの魔具見た?」

ノエルがみんなの顔をうかがう。

『明かりとりあったっけ?』

もふもふ軍団たちは腕を組んで思い出そうとしていた。

集落でまかなえないものが、石鹸、油、布、魔具のようで、魔具は灯りとりが多いって聞いたから、お礼は明かりの魔具にした。

話で聞いただけで、それまで使っていた明かりの魔具は見たことがない。

「私は見ていない」

「わたしも」

兄さまに続けてわたしも軽く手をあげる。

「今はほぼアディッシュの実の薄い殻を使っているでしょ? それが何か他の実の、すごく分厚い殻を使ってた。だからあまり明るくないし。……ちょっと興味が湧いてもう使えないという魔具の中を見せてもらったら、術式も古かった」

「ああ、第一大陸は他の大陸と接点を持たなかったから……術式も古いままなのかもしれないね」

「でもおじさま、物々交換をしたっていうベクリーヌの明かりとりはアディッシュの殻を使った明かりで、ちゃんと明るかったよ?」

ノエルの答えを聞いて、記憶をたどる。

確かにベクリーヌで明かりが暗いと思ったことはない。集落は薄暗いなって思ったけど。

ということはぶつぶつ交換で、今は使わないような古いものを渡したのかな? それはちょっと嫌な感じだ。

「……また別の話だけど、子供たちもちょっと変よね?」

「どう変なの?」

驚いてエリンに尋ねる。

「変とは言い過ぎかもしれないけど。風魔法を見せたらすっごく喜んだのよ。手のひらの上の竜巻にはしゃいで。で、昨日も同じことをしたら、初めて見たときのようにまた喜んだの。あたしのことは覚えてるのよ。みんなのことも。でもね、その他のことは忘れちゃっているんじゃないかって思えた」

エリンは人差し指を立てた。

「それで思ったの。あの影が人を撫でていくと、その人たちは記憶を無くしてしまうの。えっと記憶といっても全部ではない、一部で、影はその記憶が大好物なの!」

どう、合ってる?と言いたげにエリンはかっとんだ発想を披露してくれたけど、わたしの腕が見事に鳥肌たった。

「それなら僕たちも記憶がなくなって良さそうだけど」

「だから一部って言ったでしょ? それは無くなっても気にならないぐらいの記憶なのよ」

「明かりとりのほかに、僕は、前に手伝いをしたときの粉が残り少なくなったのに、昨日行ったときは補充されていたのが気になった」

「誰かが足したんじゃない?」

エリンがもっともなことを言う。

「僕、集落のみんなの物っていう蔵の中を見せてもらったんだよ。そしたら、ガランとしてて全部残りが少ないんだ。みんなの暮らしていけるぐらいあるっていう貯水池も気になって行ってみたんだけど、水もそんなになかった。これじゃあみんなが暮らしていけないって思った。

だから次来た時もこのままだったら、水は絶対に足していこうと思ったんだ。

でも昨日行ったら、各家の水瓶はいっぱいになっていて、粉も補充されている。

だけど、集落の貯水池も蔵も、残りが同じ量だったんだ。ちゃんと測ったわけじゃないから記憶違いかと思おうとしたんだけど。各家に足したように減ってはいなかった。

それでこっそり水だけは足してきた……」

わからないけれど、わたしの鳥肌はおさまらない。

「今エリンの仮説を聞いて僕も思ったんだ。あの影は人の記憶を辿って、あの集落の足りないものを補充をしているんじゃないかな?」

双子で、同じような〝喪失〟を感じ、導き出す答えは180度違うのね。

「影よ? 薄暗いことしてるに決まってるわ。何かを取ってるのよ!」

「ジョギさまの使い魔かなんかで、集落を守っているんだよ!」

「「ねぇ、おじさまと姉さまはどっちの言ってることが合ってると思う?」」

ふたりして、そう声を合わせた。