軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1314話 13番目を探せ⑳実験

テントに背を向け、細い月を見上げる。

心細い二十六夜。月が出ている分だけ明るくはあるのだけど。

「兄さまも眠れないの?」

「興奮してるのかな? あの黒い触手、何もしてこなかったけど、実態のあるものだと分かったら、怖くてさ」

そう言って横に並んだわたしの手を握った。

言葉に違和感。怖いと言ってるけど、ちっとも怖がってなくない?

「リディーは何か感じた? あの黒い影」

「……怖かった。前は大きさと得体のわからないところで怖かったけど、わたしたちの中を通り過ぎたじゃない? そして何もしなかった。だから映像だけのような実態のないものだと思ったの。

だけど今日はそれが赤い木を折ってた。木をつかんで折るって、つかめるんだと思ったら、とても怖くなった」

兄さまはわたしから視線を外しまっすぐ前を見た。

「……ジョギさまが悠さまだったら話は早かったけど、そう単純なことではなかったね」

と残念そうに、けれど軽い調子で言った。

「わたしも思った。次はあの影が悠さまだったらって思ったよ」

「それは私も思った」

わたしたちは少しだけ笑い合った。

「悠さまは、どうして逃げたんだろう?」

「逃げた?」

悠さまとは会ったことないよね?

「〝瘴気〟を纏ったとき。どういう状態だったかはよくわからないけれど、言葉を交わしたみたいだった。ということは、完全モヤになったとかそうではなく、今までの精霊の悠という器はそのままだったんだと思う」

ふむ。確かに〝真っ黒な何かを纏い〟出て行ったと言ってたね。黒いモヤみたいのを纏っていたとしても姿はそのままだったんだと思う。

「でも精霊たちの棲み家から出て行った、逃げ出した」

ああ。出て行ったのを逃げたと言ったのか。

「居づらかったんじゃない?」

みんなは力を使えたけど、自分は何もできない。その思いは、とてもよくわかる。わたしがよく思ったことだから。

「そう。だけど、居づらくても、他にも道はある。

たとえば助けを求めるとか。

兄弟たちは同じ立場かもしれない。

けれど神は地上に降りてこられなくても、神獣は地に降りることができ、神獣は神と繋がりがあるようだ。

神獣を頼り、天界に助けを求めることもできたろう。

だって元々の原因は女神が祝福の時間に遅れたことなのだから」

なるほど。

「道は一つではなかった。でも仲間のいるところから悠は逃げた。私はね、悠のそういうところは、変わることなく、今もそのままだと思うんだ」

え?

「悠が第一大陸そのものなら、何をしているんだと思う?」

「……大陸に擬態していて隠れてたら、大陸になっちゃった、とか?」

「隠れてた、いいね。私は逃げて潜んでいた。逃げて眠っていたのかなと思った」

「そっか、兄さまは悠は今何をしているかって考えてたんだね。わたしはそんなことちっとも思いつかなかった」

「大陸に擬態するのはどんな意味があるんだろうと思ってね。でも、何か生産的なことは思い浮かばなかった」

確かに非生産的な、眠るとか逃げるとか隠れるの方が合っている気がする。

「そうだよね、未だ兄弟たちに連絡を取ろうともしてないわけだし。そうする理由はあるんだろうけど」

「理由なんかあるかな? 逃げているだけのような気がするけど」

……どうしたんだろう、兄さまが攻撃的だ。

「逃げなくちゃ自分を守れない時もあるし」

「それってどんな時?」

「え?」

「だって、ただ待ってれば自分を守れる何かになれるの? 対外的な何かを待つだけ? それならせめて助けを求めるべきだ。逃げて待ってるだけなんて、虫が良すぎる」

「……兄さま」

テントからみんなが出てきた。

兄さまもわたしの前に出て、細身の剣を構えていた。

いつの間に?

その兄さまの前にはふっとい触手。地面から生えた黒い影。

エリンとノエルが交差して剣で切りつけたけど、不発に終わる。

アリが氷をお見舞いした。氷は影を通り抜け、地面に落ちる。

クイの雷も同様だ。

レオとベアがタッグを組んで蹴りをお見舞いしたけれど、当たらない。

アオが魔法を振り撒く。そこをもふさまが蹴ったら、少しだけ当たったようだ。

わたしもすかさず短剣で切りつけた。魔物だったらかなり深傷を負わせる16斬りだ。アオの魔法をかけたその付近だけ、ダメージを与えられた。

なんでわかったかというと、そこだけ透過できなく、なんていうか透き通った感じとは違く見えるから。

「アオ、今の魔法を広範囲に」

兄さまが指示する。

「わかったでち!」

アオが真剣な顔で一瞬目を閉じる。

目を開けた時には、白い細かい結晶が影に振り撒かれていた。

兄さまが飛び上がって、その部分に神斬りの剣で切り込んだ。

大地を震わすような恐ろしい音!

黒い影は地面に入っていって、静けさが訪れた。

「リディー、みんなをルームに」

兄さまに言われ。みんなにテントに入ってもらい、簡易ルームにそのまま招き入れた。

「あいつ、あたしたちを追ってきたのかしら?」

エリンが気味が悪いと言いたげな顔をしている。

「実は今、テントの外で実験をしてたんだ」

兄さまが真面目な顔で言った。

実験? え? 今?

テントの外にいたのは兄さまとわたし。

え? 実験してたの、今? わたしも?