作品タイトル不明
第1294話 13番目を探せ⑧夜の顔
とりあえずその魔物は兄さまの収納袋に入れた。
ぽよん、ぽよんと、ゴムボールが弾むような音がする。
ゴムボールから連想して昼間のイガイガを思い出した。
あのイガイガが突き出してなければ、よく弾みそうだったから。
というか、器用にイガを使いながら飛んできてた。
そのイガの先はそこまで尖ってなかったから痛くもなかったし。
なんかね、あのイガイガが飛びながら駆け寄ってきたらこんな音を出すんじゃないかと思い。なんとなくそっと振り返ると……ビンゴ。
当たってほしくなくて、わざとおちゃらけた言葉を選んでみたけれど、虚しく心に響くだけ。
イガイガは昼間より凶暴かつ意識がないように見えた。
ううん、目に映る動くものは全部殲滅する、そんな思いだけで構成されているような。そして生き物であるわたしたちを〝敵〟と認識してる。
「リディー、後ろに下がって」
「わたしも戦えるわ」
「じゃあ、気をつけて」
魔法は使わず剣を構えた。
ぽよんぽよんと、た、大量だ……!
兄さまが手を突き出した。
そこから風の刃が繰り出される。それと同時にノエルが走り出てぽよんイガイガに切り込んだ。エリンがその後を追う。次々にイガイガを屠っていった。
わたしも。
昼間の子たちとは似ても似つかない。
あれは意思の通じない魔物なのだから!
剣を振るう。
わたしも何体にも剣を振るった。
目をいからせたイガイガに。
「姉さま、大丈夫?」
「大丈夫」
朱色の団体の残骸。これも兄さまが収納した。
「悠の役割はなんだったんだろう?」
「え?」
兄さまは聞き取れなかったのか、わたしを振り返り、エリンはちょっと考えてから言った。
「ああ、闇が安らぎ、火が好奇心。水と光はそれらしいこと言ってなかったんだっけ?」
エリンはアラ兄から聞いたようだ。
「風が自由。地は礎。時が記憶。空が寛容。鉱は創造。氷が神秘で知が見極める。星が希望、だよね」
「ふたりとも聞いた話だろうによく覚えたね」
わたしなんか映像付きで見せてもらったのに。12の精霊の役割を思い出すには時間がかかりそうなのに。
二人は顔を合わせてる。
「アラン兄さまが物語みたいに教えてくれたんだ」
「アラ兄が?」
「世界に光が届き、私たちは〝見る〟ことができるようになりました。光があるからこそ闇に安堵して身を休めることができました……」
こんなふうにね、と言ってノエルがウインク。
「そっか。アラ兄と会った時に、わたしも聞かせてもらおうっと。
その役割と別に、精霊の火、水、地、風は属性魔法の元なんじゃないかと思った」
「属性魔法は本当は精霊魔法っていうこと?」
「本当のところはわからないけど。
火、水、地、風は精霊の属性のまま使えるもの。その他は無属性となっているけれど、本当は13の精霊の属する魔法と、スキルとギフト。それが魔力で使えるものではないのかと思ったの。
わたしは無属性となっていて、不思議な名前のスキルがあるから、できることはそれらでやったと思っていた。
けれどスキルでできることは、精霊属性魔法も持っているんじゃないかと思うの。
魔具をわたしは作れる。アラ兄とロビ兄はギフトとスキルで出来ることがあって、その一部を使って魔具を作っていた。
わたしはね、たとえば魔具作りなら、鉱、時、地を使うんじゃないかと思うのよ」
みんなが真剣に聞いてくれるものだから、わたしは嬉しくなってトクトクと語ってしまった。
ワサっと音がして。
「ただいまでちー」
みんなが帰ってきた!
「大丈夫? 怪我はない?」
『私たちに何かあると思うのか?』
あ、自尊心を傷つけてしまった?
「そうは思ってないよ。怪我してないか心配だっただけ!」
レオは鼻を鳴らす。
『こちらは大丈夫だったか?』
もふさまに聞かれる。
「オレンジ色のカメレオンみたいなのと、昼間きた朱色のイガイガがきたよ。敵意があったから倒した」
『こっちも昼間見向きもしなかったやつが襲ってきたよ!』
クイが教えてくれる。
「ねー、ひとまずテントに帰らない? あたし疲れちゃった」
え? エリンが〝疲れた〟?
わたしとノエルは驚いてエリンを見る。
あれ、なんだか顔色が悪い。
「エリン、具合が悪いんじゃない? すぐに光魔法を」
「姉さまはだめ、僕がやる」
とノエルに怒られた。
「いいわよ、そんなの必要ない」
ノエルがエリンに向かって光魔法をかけた。
光の膜がエリンを覆おう。
「ありがと、ノエル」
そう口にしたエリンだけど、ふらっとして揺れて、倒れ込む前にノエルが捕まえた。
「エリン! エリン!!」
「そんな、僕の光魔法が効かない?」
「じゃあわたしが」
「リディー、聖なる力を使ってみて」
兄さまに言われて驚く。
「エリンの手の甲、赤い引っ掻き傷がある。さっきのイガイガに当たったのかもしれない」
そっか。イガイガは大量にいたから試さなかったんだけど、浄化が効かないのなら、聖なる力がいいかもしれない。
わたしはエリンに向かって聖力を注いだ。
エリンの辛そうに歪んでいた顔に、赤みがさし、口元も穏やかになってきた。
まだ気を失ったままだけれど。
兄さまがエリンを抱え、わたしたちはテントに戻った。