作品タイトル不明
第1285話 精霊からの招待⑤氷と知と星
『我は氷・グラス。氷の神秘をお見せしよう』
ピシャリとして言い方だけど、怒っているんじゃないんだよね。きっといつもこんな感じなんだろう。
おお、ダイアモンドダスト!
氷晶の形のまま、時がスロー再生されているかのようにゆっくりと動く。
アリがその結晶をパクンと食べた。
『冷たくない!』
アリの出す氷はまさしく氷で冷たいのにね、そこは違うのかな?
するとみんなもパン食い競争のように結晶を食べ出した。
これは見て楽しむものだと思うけど……。
止んだと思ったら、目の前に氷の宮殿が現れた。
それも原寸大!
わたしたちは中に入っていく。
冷気が漂う。
中もほんっとお城みたいに細部にも手を抜いてなくて、飾りが美しい。
氷の光に当たってキラキラしているのもきれいだけど、こうやってじっくり見られる氷細工ってのもそれだけで美しい。
『リー、こういうの好き?』
アリに尋ねられる。
わたしはアリを掬い上げた。
「きれいだよね。うん、こういうのも好き」
アリがわたしの頬に頬を寄せる。
少し寒かったのか、その暖かさにも安心した。
『いつでも作るよ、リーの好きなもの!』
ふふ、かわいい。
「ありがとう。わたしもアリの好きなもの作るよ」
『ズルい! 雷でリーの好きなの作る』
え、それは難しいかなと思いつつ、気持ちは嬉しい。
肩に乗ってきたクイの方向に首を傾けて頬で挟む。
もふっとしてる。クイもあったかい。
「クイの好きなものも作るよ」
ハッ。視線が突き刺さってる。
「もちろん、もふさま、レオ、ベア、アオの好きなものも作るよ」
そのまま歩いて階段をのぼる。
氷のお城なんてすごいねー。でもちょっと体が冷えてきたな。
一室は武器庫になっていて、その武器も全部氷でできていて感動した。
だってそれも持てるんだよ? 氷の剣とか弓とか。へぇー。って。アリがまじまじと剣を見てた。
そして最上階には舞踏会にもなれそうな広い部屋。その真ん中にテーブルと椅子。
こちらは座っても寒くはなかった。椅子に座ると本物の食べ物が出てきた。
あったかいお茶とお菓子だ。
みんな大喜びで食べ出す。
氷じゃない。精霊はものを食べない気がするから、わたしたちのために用意してくれたんだろうな? ど、どこからだろう??
『体現すると供えてくれるもの。人族の食べ物だ』
な、なるほど!
第二大陸ではあまり聞かないけど、他の大陸では精霊信仰が根づいてるんだね。
『物質の女神が新たに生まれし精霊が 一(いち) 、氷に祝福する』
……物質の女神さま。
『我は知・コネートル。 己(おの) がたちの知りたいことの真髄を伝授しよう』
おじいさんの声がする。
氷の部屋ではなくなった。
最初と同じように、何もない空間にわたしたちはただ浮かんでいる。
知りたいことの真髄?
『知とは何か。己を知り、他者を知り、そしてまた己を知ること。
其方らの知りたいことは全て歴史に刻まれている。
知るべきことは心の中にある。
知らざるべきことは未来。不確かなものに惑わされるな。
何を大切にするかは己が決めること。
それが、知なり』
何を大切にするかは自分が決めること。それを見極めることこそが〝知〟。
ガガっと脳を刺激するノイズ。
「ありえない!」
その声はよく知っている。
「証拠はあるのですか? あるのなら、とっくに……見逃されるはずはない!」
強く言い切っているけれど、その動揺が声だけなのに伝わってくる。
ハッとする。やっぱり周りには聞こえてないみたい。
静かに穏やかに祝福する声。
『 古(いにしえ) の女神が新たに生まれし精霊が 一(いち) 、知に祝福する』
周りが宇宙になる。
真っ暗な世界にいくつもの星が蠢く。
『我は星・エトワー。星は知の書なりけり。ゆえに希望のごとく輝いて見える』
可愛らしい女の子の声だ。
星は知の書……。歴史という意味?
星が輝いて見えるのは希望だから? 歴史が?
うーーーーん。
『戦いの女神が新たに生まれし精霊が 一(いち) 、星に祝福する』
ええっ?
星を祝福したのは戦いの女神さま?
『末の弟、13番目の 悠(ゆう) はここにはいない』
光の精霊、レイヨンの声だ。
『其方らは知っているのだな、悠のことを。だから〝瘴気〟を放出し、ばら撒いている』
精霊たちは知ってるんだ。わたしたちが瘴気を放出していることを。
だからここに呼んだ。
もふさまの目が鋭くなる前にわたしは尋ねた。
「わたしが聞いたのは、祝福のなかった精霊が地上で〝瘴気〟に変わったとそれだけです。それが事実なのかもわかりません。
先ほど、お礼と聞きたいことがあるとおっしゃいましたね? このことですか? それとも瘴気の放出のことですか?」
『放出のことだ。そしてそれらが我らの推測したことと重なるなら、願いたいことがある』
わたしたちは顔を見合わせた。
精霊からのお願いって、いったい……。