軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1273話 歪みゆく世界⓴封印神まとめ(後半)

そこに真っ赤なドラゴンが飛来した。

みんな目を細めていた。真っ赤なドラゴンがホルクだと推測したのだろう。

王都を守っていたのは第二王子のロサと騎士たち、それから聖女アイリス。

ロサの窮地に次期宰相と言われるダニエル。第二王子近衛騎士ブライ。魔法士のイザーク。王都の神官長となったルシオもつめていた。

咆哮に被せて、わたしにはなんて叫んでいるのかがわかった。

「なぜ我が一族の住処を攻撃した? なにゆえ、魔の火を放った?」

ドラゴンはそう叫びながら火を吐いていた。

さらに見つめていると、脳裏の映像が見えた。

精霊の悪戯で少し眠らされている間に、一族の住処が焼け落ちていた。やっと卵が孵った新しい命もあったのに。

赤いドラゴンはパニックになっていた。何があった、何が起こったと自答した。

魔の火の匂いがし、人族の匂いもした。人族がマルシェドラゴンの住処を攻撃した。マルシェドラゴンは火の攻撃を得意とし、だから普通の火だったら臆さず消すことも可能。けれど人族が放った火はマルシェドラゴンにしても消せるようなものではなかった、魔の火だ。

ドラゴンは火を放った人族を執拗に追った。焼け跡から感じる普通と違う火の匂いを纏うものをドラゴンは見つけた。

ドラゴンは言葉こそわからないのを知りながらも尋ねた。

「なぜ我が一族の住処を攻撃した? なにゆえ、魔の火を放った?」と。

人族は言葉がわかったわけではないけれど、ドラゴンに謝りながら言い訳を繰り返した。

「やりたくてやったわけじゃない。ユオブリアのやつに家族を人質に取られ、赤いドラゴンの巣を焼き尽くせと言われたんだ」と。「家族を救うために仕方がなかったんだ」と。

真っ赤なドラゴンは「ユオブリア」を動いて調べ、それが第二大陸の国であると知る。かくして赤いドラゴンはユオブリアの住処を焼き尽くすと心に決める。

そのことしか赤いドラゴンの頭にはなかった。

ユオブリアを象徴する美しい城は一瞬にして半壊した。

ドラゴンが降り立ち火を吐く。逃げ惑う人々。

火に巻かれながらもドラゴンに攻撃を続ける人たち。

そこに現れたのがアダム。北の辺境から戻ったのだ。アダムが北の辺境に赴いたのは理由があった。それはリディア・シュタインを連れてくること。

そう伝えればみんな息をのんだ。

シナリオではアダムの攻撃で、状況が一転した。

けれどその時くぐもった鐘の音が響く。何度も長い時間をかけて。

陛下の崩御を伝える鐘の音だった。

陛下というストッパーがなくなり、城から黒いモヤ・瘴気が出てきた。

アダムはアイリスに声をかける。

アイリスの力が必要とされていて、けれどその力だけでは足らないから贈り物だと。するとみすぼらしい馬車からぐったりしたリディアを抱えた兄さまが降りてくる。

アダムとアンドレ殿下はわかっていた。数々の聖女の書を読み、歴代の聖女がなぜ浄化しきれていないのかを。

それは聖女の力が完成されてないからだと。

いくつかの疑問が出たけれど、理路整然とアダムは返す。

・この窮地は聖女の力があってこそ乗り越えられるもの

・聖女は完成された聖女の力を得る必要がある

・それにはリディア・シュタインの力を得るしかない

・フランツの意識を奪い従わせているのは温情である

・神の力と聖なる力を同時に使わなければ威力は半減する

・リディアは瘴気を持っていないゆえに聖なる力が使える

・リディアは魔力が高い

・それらは一度あった時に確認できている

・力だけ取ったのでは、魔力が足らなくアイリスには使えない

・ゆえにリディア・シュタインの核ごと必要である

・そうしなければ世界は滅びる

兄さまの家宝の剣は神斬りの剣と呼ばれすでに持っていた。北の辺境にアダムが来たことを訝しんだ兄さまは操られそうになった時、その剣で自分を傷つけ正気を保っていた。それでアダムがわたしに攻撃しようとした時に、庇って自らが傷ついた。

何者だとアダムを訝しむ兄さまにアダムはアンドレと双子で片割れだと明かす。

第一子である王の第一子が短命、そしていずれ狂うと謂れがあり、それを後押しするようにアンドレは体が弱かった。だったらアダムを立てればよかったんじゃないかと思ってしまったが、シナリオではそうされなかった。あくまでもアンドレが第一王子で双子だったことも伏され、外の公務などはアダムが代わりに出るという体制が取られていた。

それが染みついている考えの証拠にアダムは自分の口で言った。

自分は影だと。アンドレを助け、代わりに足になる存在だと。

アダムに伝えた時のようにそこからコンパクトに事実だけを伝えようか迷ったけど、わたしの主観を取り払うためにロングバージョンで事実を並べていく。感情は込めないようにして。

アダムはこうしないと世界が破滅すると説いた。

そしてリディアの胸の上に手を置き、魔を放出する。リディアはバウンドした。

アダムはリディアを抱えてアイリスに差し出す。核を吸収しろと。

どうすればいいかわからないアイリスにアダムは教える。

アイリスは7歳の時、リディアの魔力に触れてリディアの核を取ろうとしていた、と。聖なる力に触れたアイリスは本能的にそれを奪おうとした。

アイリスは反論する。痛くてびっくりして魔法を使ってた。リディアを吹っ飛ばしをしたけれどと。

アダムは返す。

アイリスが吹っ飛ばしたのではない。リディアが本能でアイリスに奪われまいと逃げたのだと。

アダムはアンドレにその結果を見てきてくれと頼まれた。

ただ見てこいと言われたのに、思わず手を出していた。

そのまま手を出さなければ、アイリスはリディアの核を抜き取って、歴代の聖女の中で初めて完璧な聖女になれたはずだった。

そしてリディアは魔力の暴走により亡くなったと判断されただろう。

そこにアンドレが登場する。

本当にそっくりな双子だった。

アンドレはアイリスを後押しする。

アイリスに生きてほしいと。全てが終わったらリディアの葬儀を大々的にやり立派な碑を建てようと。

「聖女・アイリス。辛くても、その役目だけは代わってやることができない。君だけができることだから。でも、君ひとりに押し付けたりしない。シュタイン嬢の核を奪う咎は一緒に受けるから」

そうしてアイリスは意識のないリディアの核を奪い、リディアは亡くなった。

シーンとしている。

わたしの魔力と聖なる力はアイリスの一部となり、アイリスは瘴気に取り込まれ真っ黒になったドラゴンに力を使った。

色を使った言霊を込めて、その力は放出される。

真っ赤なドラゴンに戻った。ドラゴンはなぜここにいたのかとでも言いたげに、大空へと飛び立つ。

その一瞬後に、アイリスの叫び声が。

アダムが倒れていた。

リディアの命を奪ったアイリスに向けられた剣は、アイリスを庇ったアンドレ、アンドレを庇ったアダムの身体を突き刺した。

アダムは彼の怒りはもっともだからと処罰は望まないといい、アンドレもそれを受け入れる。

守ってくれてありがとうというアイリスにアダムは潮時でちょうどよかったと言った。アダムは駆け寄ってきたロサにもアンドレとアイリスのことを頼み、目を閉じる。

兄さまはリディアの亡骸の前で膝を折り。瞼を下ろして、抱きかかえ静かに抱きしめる。そしてそのまま歩いて行った。

アイリスは城に蔓延る瘴気も浄化した。完璧な浄化だ。

王都に入り込んだ国内の勢力も、南と西と東の辺境から流れ込んできていた外国勢も制圧した。苦戦するところもアイリスが浄化の力を放てば、皆嘘のようにおとなしくなった。

聖女アイリスとアンドレ殿下は英雄となる。

ユオブリアと世界を救った。

このことは後にユオブリア聖戦と呼ばれるようになる。

孤児から男爵の養女になり、聖女の力を発現。第一王子の婚約者となり、聖戦の功労者。王妃までのぼりつめたアイリスの物語は語り継がれることになる。

身体が弱かったアンドレ殿下もアイリスがいつも聖なる浄化をし続けたことが功をなしたのか、国政をこなし、2女3男授かり、国も安定している。支える家臣、王族たちも二人を祝福した。

物語の締めくくりのような最後の文が相応しい、そう思った瞬間周りが真っ白になった。

わたしの仮想補佐は浄化完了といった。

そして現実に戻ってきてた。

見習い神は「まさか、浄化した?」と驚いていた。

なぜあれが精神攻撃となるのか、そして見ただけなのにそれが浄化となるのかわたしにも意味はわからない。

筋の通った意味合いを考えてみる。あってるかはわからないけど、見習い神はわたしを本来のシナリオに放り込んだ。わたしはわたしゆえに、わたしの中に入り込むのが道理だったのではないかと思う。それでシナリオのリディアの中で生きていたとしたら、リディアが死ぬことにより、中に入ったわたしも死ぬはずだったのかと推測した。

けれど、わたしはなぜかアイリスの中に入った。アイリスから出られた後も彼女から離れられなかった。

現実に戻った時、ただあれは本来の、見習い神の思い描いていたシナリオだったのではと思った。

それでそれらを本人に確認することにした。

元のシナリオのアイリスは見習い神自身を投影したか、それをまず尋ねた。

まさしくそうだった。

アイリスは見習い神で、アンドレと自分の世界だと言い切った。

日本の乙女ゲーが大元なのかを尋ねたら、それもあっていた。

攻略対象はロサ、ダニエル、ブライ、イザーク、ルシオ。全てのルートを攻略すると現れるご褒美攻略者、それは理事長。

みんな一様に固まる。

箱庭では理事長ルートが礎になっていた。

理事長ルートでは陛下が崩御され、地下の瘴気が溢れるようだ。

第一子は魔力量が多い。そして王を継ぐと決まった時に、王が魔力を半分次期王に渡す。特別な儀式で。すると王が亡くなったとき、王の中にあった魔力が分け与えられた新王に譲渡されるようになっている。

器と魔力量が合わずに体が弱かったり、自分の魔力のみなら大丈夫であっても、前王の魔力を引き渡された時に体がもたなくなり、亡くなったり、狂ったようになって亡くなる人が多いそうだ。

ユオブリアの地下に封印した瘴気の塊、これを永遠に封印しておくために、ユオブリアの王は魔力を最大級に持っていないとそれができないということらしい。

アンドレはそのルートで、アイリスに好意を抱いている役柄で、魔力の少ないアイリスに自分の魔力を受け渡す。

それでその役割のアンドレとわたしを入れ替えたことがわかる。

どのルートでもわたしの名は出ていたそうだ。けれど何もしない存在。

まぁ、言うなれば名前のあるモブだ。

課題である箱庭は因果律の計算を練習するためのものだった。

ゲームの始まるその時間軸を0.0としたら、何千年も前から世界が始まり、0.0の地点で、学園がそこにあること、学園に通いアイリスと会うもの、校舎を作る作業をした者、人ももちろんだけど人だけではなく、花壇の花に至るまで全ての因果律を必要とした。時間軸0.0の地点で全てがそのシーンを描くために集約された箱庭。そう作り上げられたもの。

ただ因果律をどれだけ計算しても、歪みは起こる。彼女はその歪みを一身に請け負う因果を組み入れた。主人公・聖女アイリスの歪みはリディア・シュタインに。そして主人公のパートナーとなるアンドレ殿下の歪みを負う、辻褄合わせの存在がアダムだった。

箱庭になる前の段階でチューニングを繰り返したけど、アンドレ殿下もアイリスと幸せに暮らしてほしいのに、歪みがいないとアイリスと出会うまで生きていられず、歪みが消滅しなければ長くアンドレ殿下が生きることはなかったそうだ。

認めたくないけれど歪みは不憫で、だから不憫さをかき消す特典を因果律の許す限りとしたらしい。

隠しルートの終焉はどう乗り切るのか、今後の助けになるかと思って聞いてみた。

理事長の元婚約者が、理事長の聖女との熱愛を聞いてその愛を確かめにくるというものだった。聖女とバトルを繰り広げるも聖女が命を落としそうになり、理事長が助ける。けれど、理事長が瀕死の重傷を負う。元婚約者は光の使い手で自分の命を削って理事長を助ける

彼女は他大陸の王女で、その婚約が破談になったのは王女の魔力が低く、ギフトも生涯に一度きりしか使えないもので、特にユオブリアのような魔力が多い国の王族と結婚するのは気が引けて身を引いたという背景があった。

そのギフトは役に立たないと彼女自身も思っていた。何せ自分のためにはならないギフトだから。彼女自身が本当に相手のことを思い望んだ時、相手の望むものを創り出すことができる。命は落とすけれど。

主人公は女神から力を得る。神力の浄化の持ち主。けれど完全な浄化には聖なる浄化力も必要だった。主人公に足りない聖なる浄化力を、元婚約者のギフトで「彼をお願い」と授かる。

アイリスの完全浄化に足りないのは〝魔力〟と〝聖なる浄化〟。隠しキャラ設定では魔力はアンドレ殿下から。浄化の力は理事長の元婚約者からもらうことができる。どちらもアイリスへの愛情が絡んで。

聖なる力を足すことのできる人物、そこにヒントを得たんだろう。わたしのギフトはきっとそこからきた。わたしのギフトは……いつか聖なる力を聖女にプラスするために因果律で決められたものだった。

外国がユオブリアを目の敵にする理由を聞いたら、ユオブリアに宝を持ち去られたからだと言われ。さらにその宝とはと聞いたけど、そこは教えないと言われた。

アンドレ殿下を幸せにしたいなら、短命だとか狂うとかそっちを変えればいいのにって話はしたけれど、それを変えるとアンドレ殿下ではなくなるので却下とのことだった。

そうして因果律で積み上がった世界だけど、そのアンドレ殿下は見習い神の愛したアンドレだったか尋ねてみた。けれど、その質問の真意は彼女には届かないみたいだった。

わたしは見習い神が夢見た世界でも、命が吹き込まれた時点でそれはこの世界の生まれた者たちのもので、あなたが愛したのと同じとは言い切れないってことをわかって欲しかったんだけど。

どのくらいの人にわたしへの仕返しを持ちかけたか聞いたけど、いっぱいとのこと。リディア・シュタインを闇堕ちさせないと、世界が破滅すると。

わたしへの怒りに対して、アダムが殿下の本当の最期を知っているのかを聞いた。

知っていて、ただ感情的に許せないとなっているようだった。

そこに亀裂が入ったのだと、長い長いすり合わせが終わった。