作品タイトル不明
第1272話 歪みゆく世界⓳封印神まとめ(前半)
アダムはというと。
やはり真っ暗闇にいて、アンドレ殿下と討論をした時の夢を見ていたという。
その殿下が妙に褒めてくれるので、自力で目覚めたそうだ。
そんなわけがないと疑って。
そして暗闇に戻り、逸れたことを思い出した。
わたしたちを探した。暗闇の中で。
そのときに、殿下の声が聞こえた。また夢を見ているのかと思ったけど、その殿下はよくアダムを揶揄った時の口調と同じで、こっちだと言われてアダムは思わずその声に従った。
そして手を伸ばすとわたしがいたらしい。
わたしと何かがバトルっていた。そして飛ばされてきて、アダムはわたしを抱えてくれた。
残るはわたしの話だね。
「先に言っておくと、本来のシナリオは気持ちのいいものではないわ。
特に、わたしとアダム、兄さまにとって」
「その前にごめん、どうして見習い神は君に本来のシナリオを見せたの?」
あ、そっか。そこからだ。
「どうしてかはわからない。見習い神はわたしをひどく恨んでいて、精神的攻撃を仕掛けてきた。なぜそうとわかったかというと、わたしのスキルのレベルが上がって、いつもだったらトカゲになるのに、精神的攻撃を感知したアナウンスの後に、浄化しますって言ったの」
「浄化?」
「ごめん、最初から話すね。みんなと逸れたと思ったとき、暗闇の中にひとりだった。
頭に声が響いた。
諸悪の根源、リディア・シュタイン、恐れも知らずにここにやってこようとはって」
わたしはどういう状況かを知りたくてみんなのことを尋ねた。
ここには来られないようにしているぐらいのニュアンスだったから安心した。
一応話しかけてくるあんたは誰だと尋ねたら、我はこの世界の創造主と言って、封印されていた見習い神であるとはっきりした。
この世界に命を吹き込んだ見習い神ですねと確めたら、なぜ知っていると動揺してたっけ。ってことはこの世界が見習い神の出来心で誕生してしまった世界だと、そこで暮らす人々が知ることはないと思っていたということだ。
創世記として知っていると言ったら、驚いていた。
言いながらこうやってまとめることは大事だと再認識する。
・見習い神は自分が封印されていると認識していた
・見習い神はわたしの魔力で意識が時々浮上すると思っていた
・見習い神はアダムをアンドレ殿下と呼んだけど、本物のアンドレ殿下でないと確信していた
・わたしたちに仮の姿を見せる魔力はある
・わたしたちの記憶を見ることができる
・わたしたちの記憶の中から、一番似ている姿だそうなキュアの姿を模倣した
・見習い神はわたしのせいでシナリオが狂ったと言った
その言葉とともに感情が膨れあがりわたしに精神的攻撃を仕掛けたようだ。
それがどんなものかは本当のところわからない。
けれどわたしの〝呪詛回避〟のスキルレベルが上がり、その攻撃を感知し、精神対攻撃を浄化しますとアナウンスが流れた。
カウントダウンが始まり、辺りが真っ白になった。
感情的にならないように本来のシナリオを話す。
その白い世界でわたしはその世界の主人公、アイリスの中に入ったみたいだった。
それも最初は生まれる前のことじゃないかな。
女神さまに 抱(いだ) かれていた。
女神さまは全てを業火の如く焼きつける浄化の力をアイリスに授けた。
生まれてからすぐのこともわたしは見聞きしていた。
どうも髪がピンク色だったことで、母親は不義を疑われたようだ。
家庭は崩壊したんだと思う。母親は全てを壊したのは赤子のせいだと亡き者にしようとして……できなかった。
最後に可愛い子と言って謝り……籠に入れ外に置きに行った。
そして館は火事になり、主人公は孤児院に入れられた。
孤児院には時々貴族が慰問に訪れる。カートライト男爵夫人と仲良くなり、会えるのを心待ちにしていた。けれどそれがパタリと止む。ある日主人公は知った。カートライト男爵に孤児院が参加したイベントであったのだ。
夫人が亡くなったことを知り、主人公は夫人がいなくなったことと、これまでそれを知らなかったことを悔やんだ。
それがきっかけで、男爵は主人公を養女にした。
ある日、隣の領主の奥方が亡くなったから、その葬儀に行くことになる。
主人公と歳の近い女の子がいるから、慰めになればと主人公を連れて行くことにしたようだ。
主人公は同じ年頃の子供に会えるのを楽しみにしていた。
自分の方がお姉さんだから、教えてあげられることがあると思った。
そんな決意で馬車に乗り込んでついたシュタイン領は、どこか暗い影を落としていた。
魂をどこかに置いてきたような父さまだった。
この時の目線は、まだ主人公だったんだけどね。
家の中は殺風景で、人がワラワラいたけれど、少しも温かみがなかった。
砦からヘルプ要員で来た人たちは、リディアのことを厄介者と思っているが客人にもわかるほどだった。そんなことに気づかないほど、シュタイン家の人たちは亡くなった人を悼み、心の拠り所を無くしていたのかもしれない。
主人公はリディアを探しに外に出る。
その光景を今も覚えている。
雪のうっすら降り積もった真っ白の世界の中で、ポツンとあったひとつのシミ。
本当にそう見えたのだ。
寒い外でいったい何をしているのか、リディアは佇んでいた。
ただただ佇んでいた。
主人公が声をかけると、小さな女の子が振り返り目があった。
そのとき。頭の中でパンっと両手を合わせたような音がして、「わたし」が確立した。
わたしが誰だったか思い出すと、ぽふんと主人公から抜け出た。
それでわたしは、精神攻撃を受けそうになりそれを浄化するために、なぜかここにいてアイリスの精神に同化していたことに気づいた。
「それが本来のシナリオだった?」
イザークにうなずく。
孤児院育ちのアイリスは、リディアを励ました。
彼女の生い立ちでは家族は後からできたもの。彼女の境遇から考えれば無理もない。けれど、家族の愛情を拠り所としていたリディアとは正反対とも言えるぐらい相性が悪かった。
アイリスの励ます言葉は、リディアにとって身を抉ってくるような、不快な言葉でしかなかった。リディアにはとても残酷で、リディアは精神のバランスを崩した。
魔力の暴走が起こりそうになり、それはアイリスをも巻き込んだ。
アイリスは自分を庇って手を前に出す。そこから魔力が出てリディアは後ろに吹っ飛んだ。地面に投げつけられぐったりしたままのリディアからいくつもの色の風が出てきて、その風が上へとリディアを押し上げる。
「ハ!」と急に声がして、そこにいたのはちびアダムだった。
金髪に紫色の瞳。紫色の瞳だけど、それはアダムだとわたしにはわかった。
アダムの魔力でリディアを取り巻いていた色は消え、落下したわたしをちびアダムは捕まえた。
そしてぞんざいな口調で、アイリスの無事を確かめる。
アダムはアイリスを〝聖女〟と呼んだ。
「本来のシナリオでアダムはアイリス嬢を〝聖女〟になるって知ってたっていうこと?」
ルシオはアダムとわたしを見比べる。
「そうみたい。アダムが知ったのか、アンドレが知ってたのかも、なぜ知っていたのかもわからないけど」
「この現世界ではアダムもアンドレ殿下も聖女がアイリス嬢だとは知らなかったんだよな?」
イザークが確めた。アダムはそれにうなずく。
そこも謎だな。シナリオのアンドレやアダムはどうしてアイリスが聖女になるって知っていたんだろう?
アイリスはリディアに何が起きたか知りたがり、アダムは〝魔力の暴走〟と言った。名乗らず、リディアをアイリスに託す。
ーー名乗れる者ではない。親のしたことがどんな結果になったのか、気になっただけだから
本来のシナリオのアダムはそんなふうに言っていた。
それはわたしには王妃が母さまに呪いをかけたことを知っていて、その結果を知りたかったというように聞こえたけど、それは話さなかった。
それから母さまの葬儀が行われた。
わたしはシュタイン家についていたかったけど、アイリスの近くに引っ張られた。
それからアイリスは皆に愛され、すくすくと成長した。
モロールもレアワーム危機が訪れ、原因はタラッカ男爵で平民に降格されたというと、イザークが驚いていた。
アイリスはロサ主催のイダボアのお茶会に参加した。
そこにはアダム、それからメロディー嬢も来ていた。
シュタイン家の兄妹もだ。
そのお茶会はロサの婚約者候補としてわたしとの顔合わせが理由のようだった。
恐らく体が弱いから王都まで行くなんてとんでもないなど理由をつけ断ってきたのだろう。
それで隣の領地のイダボアまでロサが来るところまで譲歩して、参加するしかなかった。
アイリスから魔力が暴走した件をバラされて、リディアは体調がすぐれないと帰ろうとする。それをロサが引き留め、兄さまが暴露する。
リディアは自分と婚約したことを。アイリスが祝福すると周りもそれに倣う。
イダボアのお茶会開催はキートン夫人のお屋敷だった。お屋敷を乗っ取ろうとしている夫妻が乗り込んできて王族と繋がりを持とうとした。
ロサもそれを嫌がり弾いたけれど、その後にアイリスが感情論で対抗する。
みんながアイリスのまっすぐさと正義感があり、また大人に意見する姿にも感動した。
アイリスが聖女になるのではないかと噂が出て、王都の神殿から正式な聖女候補にならないかと話がくる。神殿が認めた候補は神殿と国から保護を受ける対象となる。
防犯面で心配していたカートライト男爵は、王都へと移り住んだ。
そしてアイリスは学園に入園する。
学園でアンドレ殿下と初顔合わせをする。
ふたりはそこで初めて出会ったけど、幼いながらも確かに惹かれあっていた。
殿下は最初からアダムとは双子で、自分は体が弱いから、そういう時はアダムが変わってくれているんだと話す。
アンドレ殿下が卒園するとき、メロディー嬢と婚約が破棄され。彼女はするりとロサの婚約者におさまった。
というと、みんな眉が八の字だ。
なんとなく同じ思いだなと思えて、ちょっとホッとする。
王妃もアンドレ殿下のサポートをしていて王室は穏やか、アイリスは神託がくだり聖女になる。
歴代の聖女たちがそうだったように、アイリスは第一王子殿下の婚約者となった。
ふたりは誠実に課せられたことに向き合い、己を高め、愛を育んだ。
けれど、結婚式その当日に世界からの難問を突きつけられる。
警鐘が鳴り響き、結婚式は中座され、皆が己の役目についた。
戦いの場へと現れたのはバトンタッチしたアダムだった。
国を守る4つの辺境は外国から同時に攻撃を受け、国内でも反乱が起きている。その箇所はユオブリア城の地下に閉じ込めた瘴気の地形の魔法陣を壊しているように見えた。
王族も派遣された。アダムは北の辺境へ。第三王子は南の辺境へ。
騎士たちも派遣され、国内では物流が途絶えた。
辺境は北だけが守られ、他の辺境は外国からの勢力の通り道となった。
街に火の手があがり、人々が疲弊していく。王都に住む人々は城に籠城していたが、物資も底をつきかけ人々は疲れ切っていた。
みんな疲れた顔をしていた。