軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1265話 歪みゆく世界⓬聖なる浄化

ーーなにが言いたい?

睨まれた。

そうだよね。わからないよね。

わたしも自分の言いたいことがよくわからないんだ。

……けど。

「一生懸命生きた人の死の理由が、禁忌を犯したために世界から願いを叶えないためなんて理由にしたくない」

それだ! 言いだしてみればするすると言葉は出てきて、言いたいことが形づいた。

「リディー……」

兄さまの眉根が寄っている。

「兄さま、ありがとう。わたしのために辛いことを言ってくれて。

でも、アンドレ殿下は精一杯生きてた。そりゃ不器用な生き方だったけど。だからそれこそ侵してはいけない尊厳だと思う。

アンドレ殿下の死はわたしが何かしたからでも、創造主の禁忌のせいでもない。

アンドレ殿下は精一杯生きて、地に還った、そういうことなの」

「リディー、君は本当に……」

そう言って兄さまはふわりと笑った。

ーー精一杯、生きられたのか?

絞り出すような声音にうなずく。

「ええ。多すぎる魔力に器がついていかないって言ってた。

それでも生きられることをあきらめなかった」

一時的とはいえ、身体を乗っ取ってでも生きようとしていた。

「……時間だけはいっぱいあったからって、似ている言語の言葉を意訳できちゃうくらい頭が良くて」

白キュアはアンドレ殿下のことを知りたいだろうなと思った。

時折意識が浮上して、シナリオから逸れているとヤキモキしている間に、亡くなってしまったのだろうから。白キュアは殿下がいなくなったという事実しか知らない。

わたしはアダムを見上げる。

殿下のことを一番知ってるのはアダムだから。

促されて、アダムは軽く息を吐いた。

「淋しがりでいらした。

それなのに強がって。お母上のことでさえ憎みきれない優しい方だった。

リディア嬢にはごめんね、こんな話」

思い出、だから。わたしは首を横に振る。

「王妃さまが意識をなくされたのは、本当に殿下の意図することじゃなかったんだ。

殿下は母君を楽にさせたかった。王妃から降ろされるんじゃないかという恐怖。陛下の心が離れてしまったことで心を病まれて、そういったことだけ、憂いごとだけ忘れられるように、そう調整していたんだ。

それをある日、少しずつ嫌なことから逃れることができて調子がよくなられたんだろう。王妃さまがそれを飲むと具合が良くなると思って一気に大量に飲まれてしまった。そして意識が戻らなくなった。

王妃さまの寝顔が健やかだったって。安心して眠られてるって。だったらいいって、殿下は自分がやったことにしたんだ。

意識が戻ったとき自分で薬を飲んだとしたら。楽になることを選んだと誰かに指摘される。国母として相応しくないときっと誰かに言われるだろうからと」

元王妃さまのことは大嫌いだけど、アンドレ殿下のその話には胸を打たれた。

「あの無茶な計画をしたのも、体が持たないと最終警告を受けてからだ。本当の最後の最後に自分のしたいことをしたんだ。陛下の心を知りたくて。陛下に自分を思い出して欲しかった。

したことは取り消せないけれど、殿下は体がもたなくなることをわかっていて、そのとき誰も心を痛めないように酷く振る舞ったとさえ僕は思っている」

アダムは軽く目を閉じる。

「誰かにとっては悪者だとしても、僕だけは殿下がいい方だと思っているし、知っている。僕も殿下には生きていてほしかった」

アダムの目が赤くなって……見ちゃいけないと思ってわたしは視線を外した。

ーー殿下が生きる世界では因果律により、あなたが死ぬ。

それでもか?

「……僕が死にたいわけでもない。でも殿下に生きていてほしかったと思うのも本心だ」

心に馴染む。

そう、人の心っていつも割り切れるわけじゃない。

いくつも無数に矛盾した思いを抱えている。

ーー我はやはり見習い止まりだな。生き物の複雑さをわかっていないのに、手中に収められていると思っていた。それはただの傲慢だ

うなだれているのがわかって。

それからポツリポツリとわたしたちは、世界のいいところを見習い神に話した。

自然の美しさ。ダンジョンのことなどはゲームを参考にしただけみたいで、話を聞き嬉しそうにしていた。

自然の厳しさ。人族のこと、他種族のこと。魔物と戦ったときのこと。

創造主が創りたかった世界とは違ってしまっているだろうけど、わたしたちはこの世界が好きだ。思い出込みでそう思うだけなのかもしれないけどね。

伝わるだろうか。あなたが創り出した世界は、ろくでもないところでもあるかもしれないけれど、わたしたちにはそれが全てで、なくしたくはなくて、全力で縋っていたい場所なのだ。

途中からみんなでダンジョンに行った話ばかりになってしまったけれど、アイリス嬢の話を喜んだ。アイリスの雷を素手で掴む話をしたら、屈託なく彼女は笑った。

やはりアンドレ殿下の話は格別なようで、目を輝かせた。嬉しそうに笑って……。

そして笑いながら泣いていた。自分の作り上げたシナリオとは別物だと。でも生き生きとしていて、それが嬉しいのだと。自分が最初にお使い先でゲームを見たときの気持ちと似ていると。

頬に伝わった涙が顎から地面に……。

あれ? わたしは目を擦る。

なんか白キュアが縮んだような。

ん? あれ? あれれ。

白キュアが小さくなった。そう、消えたとかそういうのじゃなくて。

地面に疼くまる小さな塊。

ブラックちゃんがイザークの肩から飛び立つと、他の子たちも黒い小さな塊の元に飛んだ。

イザークが前に出て、その塊を拾った。

ブラックちゃんや他の子たちは再びイザークとルシオの肩に飛び戻った。

イザークが両手で包んでいるその小さな塊。

わたしたちの前でそっと手を開く。

ビロードの布? う、その独特な翼。長めの耳。

その姿はもしかして…… 蝙蝠(こうもり) ?

イザークの手のひらに包まれた蝙蝠はつぶらな瞳でわたしたちを見上げる。

黒い獣は身を起こし、下を見、自分の姿を見た。

ーーはは、我は浄化されたようだ

浄化?

「浄化?」

ルシオが声をあげる。

ーー聖なる浄化

悪しき色に染まった魔力は浄化され、 謀(たばか) る力は消え失せた