作品タイトル不明
第1264話 歪みゆく世界⓫生への渇望
白キュアは笑顔だ。
ーーなにをほざいているのか、わからん
下等な者の戯言はさっぱりだ
間(ま) があり、白キュアの笑顔に亀裂が入る。
ーーな、なぜそんな目で見る?
ハッとする。
見渡せばみんなも同情の目で彼女を見ていた。
……彼女は嫌なやつだ。創造主に対しで酷いいいざまだけど。
でも、わたしの立場なら、それは当然の感覚だと思う。
そんなわたしが、されたことは置いておいて、同情めいた気持ちを持ってしまうぐらいには気の毒だと思った。
一番願っていたことが自分の行動によって絶対叶わなくなるって、その衝撃は想像もつかない。叶わないことが、まだ自分が手にできないことなら納得できても、その願いが誰かの幸せなのだとしたら、一番幸せにしたかった人が自分のせいでそうならなくなるって、かなり辛い。
みんな同じ気持ちで、思わず同情してしまったんだと思う。
その視線に気づいた白キュアは、多分さっき兄さまが言ったことを頭の中で繰り返している。憐れまれた理由を探し始めた。言葉より下等種に憐れまれたと感じたことの方が説得力があったのかもしれない。
ーーなにを言う。リディア・シュタインを救いたいがために、我のせいとしているだけだろう
言うにことかいて、我が禁忌を犯すなど……
「見習いだから知らなかったのか?
恐らく生命を吹き込むことを許される神なら、その禁忌を知っているはず。
命が芽吹いたなら、創造主はその世界に手を出してはいけない。
なぜなら、その世界は命あるもののためのものだから。創造主のものではなくなっているのだから」
アダムが静かに言った。
アダムも兄さまも人族。禁忌の話も希望の箱から出てきたメモから想像して言っていることだと思う。だけどふたりが言葉に出すと昔から知っていたような妙な説得力があった。
ーー違う! アイリスが神の出した難問を解決したときに……
「それこそ違う。命を得たときから、その〝生〟はその者のためにある」
と兄さまが言えば、アダムも尋ねる。
「わかっているのだろう? 介入していいなら、その時々に能力でもなんでも足してやればいい。それをしないのはなぜだ? どうなるかわからない端数のズレを含んだ因果律で未来を組み込むのはなぜか、それが答えだろう?」
そっか。介入していいのならアイリスが生まれてから、殿下が生まれてから、どうにでもしていけるよね、創造主なら。それをせずに、世界を創り出す前に組み立てて置くしかできないのはなぜか。
……それは命が芽吹いたら、その瞬間から世界はその世界で生きるものたちのものになるからだ。介入は許されない。
ーー嘘だ。お前たちは我を惑わせようとしているだけ!
そうだ! お前たちが創造主の 理(ことわり) を知るわけがない!
「なぜ私たちがそれを知っているかなんて関係ない。
事実は事実。お前の介入により、お前の一番願うことが許されなかっただけ。
その許されなかったことがアンドレの幸せだっただけ。
お前の罪をリディーに押しつけるな!」
場がシーンと静まり返った。
キュアが泣きそうになる。その姿はずるい。キュアの心が壊れそうになっているように見えてしまうじゃないか。
ーーそんなはずはない。そんなはずはない。そんなずはない。
ぶつぶつと小声で繰り返している。
頭を抱えてうずくまる。
わたしたちは顔を見合わせた。
そんなわけがないという思いと、もしかしたらという思いに苛まれているのが丸わかりだ。
そんな姿を見てしまうと……。
「シナリオより、現実のアンドレ殿下やアダムやアイリス嬢の方がわたしは好き」
よくわからないけど、そんな言葉がわたしから出ていた。
呟きが止まる。
「シナリオのアンドレ殿下は、アイリス嬢にはひたすら優しくて味方でいてくれた。その後もいい王さまだったと思う。
でもそれよりも現実では亡くなってしまった、傷つきながらも最期まで自分の生き方を模索していたアンドレ殿下をわたしは尊敬する」
そう言いながら、なんでシナリオのみんなをどこか好きになれなかったのかの答えが出た気がした。
生きようとしてなかった。現実と比べると。
正確にいえば生きようとしてなかったわけじゃないけど。生への渇望っていうかそれが薄かった。
わたしたちは生死がかかわらなくても、こうしたいっていうのがあったら、髪の毛振り乱して、みっともない姿を晒しながら、なんとか生きてる。
シナリオではドラゴンがやってきたときに戦ってはいたけど、大変な思いをしたのはその終盤あたりでさ。普通に努力とか、魔法を鍛えたりとかもしてたけど、鬼気迫る何かなんてあったかな?
っていうかさ。それがシナリオの流れだったからだろうけど、シナリオのアンドレ殿下とアダムはわたしの魔力の暴走を知ってたわけじゃない? どう知ってたのか知らんけど。でさ、いつかアイリスがその能力がいるようなことが起こるってわかってた気配だよね? それなのにさ、その危機管理なに?
わたしたちはさ。アイリスはシアターを見ていずれの終焉を恐れ、なんとかしようとしていた。聖女の力も早くに使えるようになろうと必死に頑張っていたのも見た。
自分の未来に絶望していたアンドレ殿下でさえ、いつも何か画策してた。
ロサたちだって、国内、国外からの脅威にいち早く対応、もしくは軋轢が起きないよう動き回っている。陛下や大人たちも協力している。
もちろん自分たちの未来のためだけど。
終焉に立ち向かおうとしてると思う、わたしたちは。
そうやってなんとかできないかと心を痛め、必死になっていろいろやってみてる。
それがなかったよね、シナリオの人たちは。
いつも受け入れていくだけ。シナリオのわたしを含めて。