作品タイトル不明
第1263話 歪みゆく世界❿ワン・ピース
兄さまはわたしに視線を向けた。
「ずっと思っていたんだ。どうしてリディーばかり辛い目に遭うんだろうと。
リディーのやりたいこと、向かいたい方向に、決して向かうなという意思でも働いているんじゃないかと思えた」
わたしには前世の記憶があるからだろうか。ぽやーんとしてた気がするし、それは今世でも同じ。そんなわたしだけど、今世、いろいろありすぎなんじゃないかと思っていた。前世の大人となり経験則があった見解から比べても、なんか14歳ですでに色んなことが起きすぎていると思ってた。
兄さまから見てもそうだったんだ! なんかそこで、わたしの感覚が狂っているんじゃないとわかってホッとした。
って、それが命運との衝突と言われれば、妙に納得できるものがあった。
もしシナリオの性格のリディアなら、わたしが体験してきた数々のことは通り過ぎるだけだった。本来のシナリオで深層の令嬢バリだったものね。
数々の衝突から始まった出来事は軌道修正を促されていたようにも感じる。こっちではない、とね。あたりが強かったのも、起こるはずのないことだったから。
まさかの方向に突き進んでいたから方向転換しろと言いたげにキツい出来事が起こっていたと思うと、唸りたくなる気持ちがあるけど。
でも、それを乗り越えた先に、見えた景色がある。
本来のシナリオではかかわらなかった人たちの笑顔をわたしは知ってる。
どういう人たちで、何を考え、どんな行動をして、何を目指すのか、わたしは知った。そうやってわたしはいっぱいの縁に恵まれ、その縁のおかげで助けてもらったこともいっぱいある。
「リディーへの悪意を植えつけたその妨害にも数々あってきた。
それを元凶の口から聞いて、おかしいと思うことに拍車がかかり、また答えが出た」
兄さまは見習い神に向き直る。
「意識が浮上したときに、波長を繋いだ相手。それは〝人〟だけじゃないね?」
すっごい嫌な顔で白キュアが笑う。
ーー我の波動は高いからな
中には力あるものもいた
もちろん、封印前の我には及びもしないが
封印前は大したやつって思っている、もしくは思われたいのか? プライドあるのか。
「堕神と手を組んだね?」
!
わたしたちは揃って白キュアに視線を送った。
ーー堕神?
ああ、あやつのことか
なんだ、あやつにしてやられたのか?
すっごい嬉しそうな白キュア。
その白キュアに対して兄さまも笑った。母さまに通じる最高の笑顔で。
「これではっきりした。
リディーに目をつけたとは、リディーが生まれてからでないとおかしい。
でも、仕組まれてきたことはリディーが生まれる前より始まっている」
アダムがハッとしたように顔を上げて兄さまを見た。
「そうだ! リディア嬢が生まれる前より始まっている……」
「人族にはそんな真似はできない。できるのは超越したもの。見習い神にはそんな力はない……としたら……」
「カザエルと堕ちた享楽神が合わさってバッカスとなっているのかと予想していたけれど、……酒の神・バッカスは瘴気を生み出した元凶の片割れとして神の名を剥奪され時の河を流された。永遠に。本体は河を流れているのだろう。見習い神のように意識だけで干渉している。憑依して。それがバッカスの 長(おさ) 。
時の河にいるから、過去に遡って仕掛けることが可能だった?」
アダムの推測に誰かの喉が鳴る。
そう言われてみれば、もちろんわたしが生まれて何かしたことに対して絡まれたことももちろん多くあるけど。因縁のように前から仕込まれていたのではということもある。
「まさか」
と呟いたアダムは口を押さえ、青くなった。
「アダム?」
あまりの顔色の悪さに声をかける。
大丈夫というように手だけで合図してくる。けど、やっぱり、顔色が。
「その件は、本人に聞いた方がいいだろうから」
そう付け足したアダムは目がギラギラして見えた。憎しみで殺気だっているような。
兄さまはそんなアダムを一瞥した。
「創造主、あなたはアンドレ殿下の幸せな世界を望んでいたんですね?」
わたしたちの会話から兄さまはつかんだんだろう。
ーーそうだ! それをリディア・シュタインが台無しにし、アンドレ殿下を世界から追いやった!
「そうだとしても、アンドレ殿下がいなくなったのは、あなたへの〝罰〟でしょう」
?
白キュアの眉根が寄る。
ーー我への罰?
誰の?
なぜ? 我は命の粉を振りかけ、見習いであるのに世界に命を吹き込んでしまった罰で封印されておる
時々目覚めるのは我のせいではない
罰せられるようなことはない!
兄さまは鼻で笑った。
「いいえ、あなたは〝介入〟した」
!
「見習いだから知らなかった。7分の1の奇跡を」
あ、それ……。
「原因と結果、物事には必ず理由がある。吹き込まれた命の紡ぎ出す未来への介入は、何物も許されない。相応の罰がくだる」
兄さまはよく通る声で神託でも受けたかのようにスラスラと言葉を紡いだ。
それはパンドラの希望。
最後に残っていたワンピース。希望の欠片。
「アンドレが死んだのはリディーのせいじゃない。
言うなれば、この世界のものでないものが手を入れた、つまり介入したからだ。
相応の罰。そのものの一番の願いは叶わない。
創造主あなたの願いはアンドレ殿下が幸せに暮らすそんな世界。だから介入という禁忌を犯したあなたに世界は罰を与えた。アンドレ殿下は不幸せで、そして世界から退場した……」