作品タイトル不明
第1261話 歪みゆく世界❽亀裂
「アンドレ殿下を幸せにしたいんだったら、陛下の第一子であることを変えるとか、魔力がどれだけ多くても受けいられられる器にするとか、どうしてそこを変えなかったの?」
ーー簡単に言うでない
我はゲームの世界に存在したアンドレ殿下を好きになったのだ
何かひとつでも殿下から要素が抜ければ、それは殿下ではなくなってしまう
「それでゲームの通りの要素を詰めこんだ殿下は、あなたの好きな殿下だったの?」
ーーどういう意味だ?
「シナリオで見たアイリスは、わたしの世界のアイリスとは違ったし、アダムも、恐らくみんなそう。どんなに完璧に計算をしても、ズレることってあると思う。生身の人ならなおさらね。それにあなたがゲームを見て感じたこと、聞いたこと、それ以外にもいろんな要素があるのが人だと思う。視点が違えば違ってくるように。同じ人に対しても全く同じ評価となることはないと思う。
一人の力で、一人の一方的な見た評価で。こういう人となりだと思ったり、そうなるために因果律を積み上げたとしても、あなたが好きになった殿下になったとは思えない。限りなく近い人には作り出せたとしてもね」
ーーだから何が言いたい?
イライラした口調。
「わたしが何かしたっていうけど、その前からあなたの思い描くシナリオととっくに違っていたんじゃないかってこと。それは先に言っておくわ」
実際のゲームを見たことはない。アイリス嬢のシアター、あれが近いものだとは思うけど、あれもアイリス嬢の記憶であるところから、彼女の思い入れというフィルターに一度通されている。目の前の見習い神の愛したキャラたちも、本当にそう育ってきたかは疑わしい。これは言っても詮ないことだけど、一応釘をさしておきたかった。
さて。
「それでどれくらいの人に、わたしへの仕返しを持ちかけたの?」
白キュアは楽しそうに笑った。
ーーいっぱいだ
やっぱりね。
ーーお前たちが気づいたように、我には力がそうあるわけではない
封印もされているしな
時折、このように意識が浮上するだけだ
その時に、波長のあうものにリディア・シュタインを闇堕ちさせないと世界が破滅すると働きかけてきた
彼女はちょっと得意そうだ。
誰彼構わずそうしてきたのだろう。
文字通りわたしを嫌う人もいただろうし、そこにお金儲けや、派閥など絡めてわたしと敵対する人もいただろう。
そして頭の痛いことに、本当に〝いっぱい〟の人にそうしたのではないかと思う。
「あなたが不憫とまで思った辻褄合わせのリディア・シュタインが、シナリオを狂わせた。大人しく主人公に核ごと渡せと、そうわたしに怒っているの?」
ーーいいや。お前がアンドレさまを葬った!
我が幸せになって欲しかったアンドレさまを、お前が!
「……正しく知っているのか? アンドレ殿下の最期を?」
アダムが暗い声を出す。
ーーもちろんだ
「だったらわかっているはずだ。リディア嬢は何も悪いことはしていない。それより、殿下に希望を与えた」
ーーそれでもリディア・シュタインを庇わなければ、アンドレさまは死ななかった
「……現実をしっかり見据えるべきだ。リディア嬢を庇った傷はリディア嬢の光魔法で治っている。殿下を蝕んだのは器を無視して人族には大きすぎる魔力を何度も使ったからだ」
アダムが冷静に言った。
その言葉でまた救われてる。
バリバリって音がした。振り返る。
パリーンと何かが割れる音。
そこ一面がガラスで覆われていたかのように亀裂が入りパラパラと透明の塊が落ちていく。でもそれがガラスではない証拠に、確かに音はしたし割れたところも見えたのに、後には何も残っていなかった。
その先で唐突に現れたもふさまや兄さま、みんな!
「リディー!」
『リディア!』
走ってきて抱きしめられる。
そして白キュアに気づき、目を大きくする。
ーー神斬りの剣
兄さまの手には青い家宝の剣が。
「リディー、怪我はない?」
「大丈夫」
もふさまを抱きあげて、頬擦りした。
よかった。あっちにはもふさまはいなかったから。
「アダムもこっちにいたんだな」
イザークやルシオもアダムの無事を確かめる。
「キュア、じゃないよね?」
ルシオに尋ねられてうなずく。
「見習い神。封印されていたけれど、わたしの魔力で時々目が覚め意識が浮上するようになったそう」
「あの姿は?」
そのイザークの問いかけにはアダムが答える。
「僕たちの記憶の中から一番近い自分の姿に模倣したそうだ」
「……ということは〝本体〟ではないということか」
兄さまがいち早く気づいた。
そう。わたしたちをより分けたりしたわけだから何かしら力がありそうだけど、実際的には彼女にはあまり力がない。だからわたしたちは長々とおしゃべりできたわけだし。もしもっと力があるなら、あんなに怒っていて目の前にわたしがいるんだ、何かしらできたはず。それを回りくどい本来のシナリオの中に入れるなんてわけのわからないことをした。彼女は限られたことしかできないんだと思える。
今までの敵とは……彼女が吹き込んで引きずり込んだ何かが手強いんだと思うのがいいようだ。
けれど今後敵を引きずりこむのはやめてほしい。
「創造主の創った世界を仮体験したわ。
わたしの知っている〝みんな〟とは少しだけ何かが違ってた。
その世界はアンドレ殿下と主人公が結ばれ、そして世界の危機も救う。
わたしとアダムは物語の主軸に合わない歪みを修正していくための要員だった。
いい役どころじゃなかった」
重たく聞こえてしまったみたいで、兄さま、イザーク、ルシオに辛そうな顔をさせてしまった。
「力がそうあるわけでないから、今までリディーに嫌がらせをするために、声をかけまくっていたってこと?」
把握が早い。
「わたしがアンドレ殿下を葬ったと、そこを怒っているみたいで、今、アダムが殿下が亡くなった時のすり合わせをしていたところ。
彼女は《《正しく》》知っている。殿下の最期を。でもわたしが葬ったという意見は変わらないみたい」
ーーリディア・シュタインが元凶
お前が魔力を暴走させていれば……
暴走させる原因を解決していなければ、こんな修復不可能域にはならなかった……
その修復可能の行先は本来のシナリオってこと?