作品タイトル不明
第1255話 歪みゆく世界❷受け身
完璧な主人公。愛され、導かれ。全てを可能にする。
どんなにひどい不揃いの情報も、彼女の前ではフラットになり、手札となる。
ーーそうだ。アイリスは我。アンドレ殿下と我の世界
あああああああああ、最悪だ!
言い切ってるし、本当に最悪!
主人公の夢物語じゃない!
……そうだ、世界を創ったわけじゃない。
この見習い神は課題の〝箱庭〟を創っただけだ。
だったら夢物語でも、ありっちゃぁ、ありだろう。
主人公と対となるパートナーとの恋物語。
障害、困難が多いほど、燃え上がるってもんだ。
見ていた乙女ゲーム、それが礎になったから、設定は積み上げられたもの。
攻略者たち別の障害はあったはず。そこから選りすぐり、そしてちょっと盛って、短命か狂う王子との恋物語を盛り上げた。
アイリス嬢の見たシアターが元のゲームのシナリオなんじゃないかと思う。
そこから確かめていくか。
「見習い神のお使いで行った〝日本〟にその世界の元があったのね? それは乙女ゲーだった」
ーー……そう呼ばれていたな
合ってる。納得するところではあるけれど、詰まるところ乙女ゲー転生だったのかと、感慨深く思う。
「その元のゲームではアイリスが主人公。孤児から男爵家の養女になり、聖女の力が発現し、誰かと恋に落ちながらも世界の危機を救う。そんなストーリー?」
ーーだったらなんだ?
「攻略対象者は5人ね。
ロサ、ダニエル、ブライ、イザーク、ルシオ。合ってる?」
アイリス嬢がアカシックレコードリーディングで見た映像。あれはゲームの攻略者じゃないかと推測していた。
ーーそうだ。他に隠し攻略者というのがいた。
他のルートを全て攻略すると攻略者として浮かび上がるシステムだ
どことなく弾んだ声に聞こえるのは気のせいか。
「それがアンドレ殿下?」
思わず速攻で尋ねると間髪入れずに返事が来る。
ーー否!
そうだったらどんなによかったか。
学園の理事長だった
ヒンデルマン先生か……。歳の差……すげーな。需要あるのか?
アダムはわたしをチラリとみた。
わたしが情報収集を始めたことに気づいたようだ。
ほんっと頭にくるけど、最悪の相手でも、腐っても創造主。
彼女はこの世界の元の元を知っている。
これからどうなるのだとしても、それは知っておいて損はない。
わたしが変えたというけど、どこでどんなふうに変えたのか知る前に、できるだけのことを聞くつもりだ。怒りを抑えて。
「理事長ルートも見たの?」
ーーもちろん
ガチでそのゲームに傾倒してたのね。
ーーアンドレさまの情報が何か新たに掴めるかと思って
なんて乙女心だ……。
アンドレ殿下は脇役だったわけだね。攻略者ロサの母親違いの兄。
彼が体が弱いからロサに王位継承権が回ってくる。
第一子が王となり、その王の第一子は短命か狂う、そんな情報だけだったのかな。
「アンドレ殿下のことはどのルートで知ったの?」
ーーどのルートでも体の弱い哀しい第一王子殿下として出てきた
あんだけわたしのせいだの言われてたけど、アンドレ殿下にまつわることだからか、随分素直に答えてくれる。
「彼のことが好きだった?」
うさぎ好き?ぐらいの軽いジョブのつもりで聞いたけれど、白いキュアの顔が真っ赤に染まる。
そのガチさになんだかやるせなくなってくる。
ーー第一子の王の第一子は短命か狂うって、なんでそんな酷い設定にするのか、本当にわからなかった
お前が言うか?
ーー最初はそれが知りたくて、気がついたら、時間を忘れて網羅していて、どれだけ道草を食ってるって帰ってから怒られた
短命&狂うは元からあった設定だったんだ。
「なぜか、わかったの?」
ーー隠しキャラの時に、ユオブリアの王が死に、地下の瘴気が溢れる
あの設定は隠しキャラのシナリオなんだ。
ーーその時に判明する。第一子は魔力量が多い。そして王を継ぐと決まった時に、王が魔力を半分次期王に渡す。特別な儀式で。すると王が亡くなったとき、王の中にあった魔力が分け与えられた新王に譲渡されるようになっているらしい。
器と魔力量が合わずに体が弱かったり、自分の魔力のみなら大丈夫であっても、前王の魔力を引き渡された時に体がもたなくなり、亡くなったり、狂ったようになって亡くなる人が多いそうだ。
ユオブリアの地下に封印した瘴気の塊、これを永遠に封印しておくために、ユオブリアの王は魔力を最大級に持っていないとそれができないということらしい。
「その理事長ルートで、アンドレ殿下は出てきたの?」
ーー出てくる。
殿下には婚約者がいたけれど、自身が光を振り撒いているような主人公アイリスに惹かれる。
それで陛下の亡き後、アイリスを助けようと、自分の魔力を渡すんだ
「それをわたしと入れ替えたの? なんでわたしだったの?」
アダムがジロジロとわたしを見ている。
ーーリディア・シュタイン。その名はどのルートでも出てくる。攻略対象者の友人のフランツ、彼の家族か婚約者として。
名前のあがるものたちは何かしら行動を起こしていた。
アンドレさまもそうだ。もっと出番のないその婚約者のメロディー公爵令嬢だって。
リディア・シュタイン、その者だけ、まったくの受け身。
母親が亡くなってから内に籠り、ただ家族の庇護を受ける存在
「普通の伯爵令嬢そのままじゃないか」
アダムがむすっとしたまま言った。
わたしも思った。
深層の令嬢というのは、本当に聞こえてこないものなのだ。
だから余計に見た人がいれば、そこに尾鰭がついて噂がまわる。
婚約者がいない令嬢なら、そんな噂を聞きつけての縁もある。
恋愛結婚もそれなりの数はいるけれど、家が決めた結婚もまだまだある。
わたしの知っている令嬢たちは学園であったから、実際お会いできて、どんな方か見ている。だから人柄とかも知っているけど……同世代でも家名を知っていてそちらに子息や令嬢がいるということは習ったりして知っているけれど、学園であったり、お茶会で交流がなければどんな方か知らない方はいっぱいいる。
でも、だからって、どんな方か聞こえてこないのはその人が受け身で何もしてないからだとは思わない。
まぁ、前世の記憶を思い出さなかったら。あの砦での心情を引きずったまま内にこもっているだろうとも想像できる。もふさまやもふもふ軍団と会っていない。
ダンジョンに冒険にも行ってないし、友達もできてない。学園にもいかなくて、家族に守れらて暮らしているのは事実だとは思うけど……。
「受け身だから。何もするわけないから、死んでもいいって思ったってこと?」
冷静になろうと思いつつ、ヒステリックな感情が顔を出し始める。