作品タイトル不明
第1254話 歪みゆく世界❶狂わせ上等
浄化、完了
タボさんの声。
え?
目の前に白いキュアがいて、驚いた顔をしている。
ーーまさか、浄化した!?
そ、そんなこともできるのか!?
自分の手を見る。見える。透けてない。戻ってきたんだ。
「大丈夫か?」
前のアダムがわたしを振り返る。
同じ顔。同じ声。でもあのアダムとは違う。
アダムは生きている。兄さまも。
ゆっくりと目を閉じる。
ああ、力が抜けそうになった。
今見たものはやっぱり現実ではなかった。
その事実にホッとする。
……全く、とんでもないものを見せられた。
最悪だ。自分の命が消えるところ、それも奪われる。
わたしの大切な人は人を 殺(あや) め、そして 殺(あや) められた人もわたしの大切な人だった。ふたりとも命を落とした。
最悪だ。ほんと最悪。
世界が終焉を迎えなかったのはよしとしても、アイリスとアンドレ殿下にとって味方の世界であるだけだった。
わたしにとっては最低最悪のシナリオ。
目の前の白キュアはなんて言ってたっけ?
〝わたしのせいでシナリオが狂った〟? 〝お前のせいだ〟?
あん? シナリオが狂わなかったら、わたしはあんな悲惨な死に方をしたってわけ?
兄さまもアダムも早々と世界から退散することになるっていうわけ?
それがシナリオが狂ったってこと? 狂ってよかった、知らんけど、よくやった、わたし。
わたしが知らないうちにそうなる未来を回避してきたってことだ。
あっぱれだ。
わたしとわたしの大切な人の破滅する未来から外れて本当によかった!
っていうか、この人? 神?
見習い神があの世界を作ったわけよね。わたしとわたしの大切な人が理不尽に命を落とす世界を。
なんか、かなり納得いかないんだけどっ。
すっごい、不愉快なんだけどっ。
かなり頭にきてるんだけどっ。
自分に落ち着けと言いきかせる。
大丈夫。あんな未来は訪れない。だってそうならないように、これまでいろいろとやってきたのだから。
まず、瘴気を小分けにして排出しておいてよかった。
本(・) 来(・) の(・) シ(・) ナ(・) リ(・) オ(・) でもユオブリアの地下に閉じ込めておいた瘴気が溢れ出て、それにより世界が終焉に向かうのは同じ流れっぽい。
でも地形の魔法陣が消され封印が解け瘴気が溢れ出したとしても、残っているのはそこまでの量ではない。もうすでにばらけさせている。仮想補佐が排出を続けている。たとえわたしに何があっても、2、3年は稼働する魔力を織り込んでいるし、そこで魔力が尽きたとしてもその頃には排出を終えている。だからそこはクリア。
国内の謀反を起こす人たちは、かなり炙り出せたはず。でもここは油断ならない。
外国からの攻撃、これは覚悟しなくてはだろう。
ドラゴンの攻撃は……知ってる真っ赤なドラゴンはホルク。ホルクがユオブリアを襲撃することは考えにくい。
他ドラゴン……バッカスはドラゴンにいうことをきかせる手段がある。
戦いにおいてはドラゴンには叶わないとしても、そのいうことをきかせている手段をどうにかしている〝ブツ〟については、赤き石でだとしたら赤い魔石で上書きすればいいし、そうじゃないなら、兄さまの家宝の剣で壊してもらう。〝神斬りの剣〟と呼ばれていた、シナリオでは。
準備してきた。わたしたちは誰も犠牲を出さずに、きっとユオブリアを守っていける。
そう、怒っても仕方ない。だってこの世界の創造はわたしなんかの手の届くところにないことだ。
ずっと前にできてしまったことで、もう成り立っている。そしてわたしが狂わせたらしい。狂わせ上等だ。
腐っても神で、いや、腐っても見習い神だし、怒りをぶつけても無駄。
だったら、今後のために役立てなくちゃ。
シナリオはアイリス視点であったし、使えそうな情報もあったけど、情報はあればあるだけいい。たとえ狂ったシナリオであったとしても、そうなるよう創られたはずなのだから、それを知っていれば有利に働くことがあるはず。
落ち着けーと祈りを込めて息を吐き出す。
「アダム、わたしね、今精神的攻撃を仕掛けられてたの」
アダムが振り返る。
「……それを浄化したのか?」
「ええ、スキルのレベルが上がったのか、尻尾切りじゃなくて今回は浄化だった」
アダムは口の端だけで微笑む。
「それは凄いね」
「ええ。でもね。内容が最悪だった」
睨みつけていた。
無理ないでしょ? だってわたし目の前の人に、ひどい人生を作りあげられていたんだもの。そうならなくてよかったなんて笑ってられない。
睨みつけられて当然でしょ。これだけひどい扱いされたんだから、それくらいされても仕方ないと思う。
「わたしを元のシナリオに閉じ込めようとでもしたのかしら? それで中で亡き者にされれば、わたしも同じように亡くなるって思ったの?」
とんでもなく意地悪な声音になった。
リディアではなく、わたしはアイリスに憑いていたみたいだけど、なぜか。
だからアイリスがどうにかならない限り、戻って来れただろうね。
何をどう浄化したのかはわからないけど、見習い神の物理に繋がる精神的攻撃を浄化してわたしは切り抜けた。
「本来のシナリオ? 亡き者?」
アダムが反芻して白キュアを見やった。
ビクッとする白キュア。
「ええ。本来のシナリオはアンドレが自由に生きられる、アンドレとアイリスの物語だった。
いいえ、わたしの知っているアイリス嬢ともかなり違った」
そう、この世界のアイリス嬢より、自分中心で、その感覚に陶酔しているように感じられた。
そうだ、それがわたしなんか嫌だったんだ。
「元のシナリオのアイリスは あ(・) な(・) た(・) ね?」
わたしは指を突きつけた。