軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1253話 シナリオ⓭おしまい

嘘でしょ? リディアの核は本当に奪われてしまったの?

リディアはこの世界からいなくなった……ってこと?

聖女に核を奪われて……。

あまりのことに力が抜け、それからわたしは漂うことしかできなかった。

アイリスの近くをただいつも漂った。

「アイリス」

手を差し伸べられたアンドレ殿下の手を握ってから、アイリスは姿勢を正した。

「シュタイン嬢、あなたの死を無駄にはしない。世界はあたしが救います」

亡骸にそう宣言する。

リディアの核を受け取ったアイリスは周りに静電気のようなものを纏っているように見えた。

「魔力。なんて魔力なの。

今ならわかる。あたしの元の魔力だけなら、神力の浄化だけで精一杯だわ。

だからあなたが必要だったのね。

あの時あなたの核を奪わなくて本当によかった。

あなただから、ここまで魔力も聖力も育むことができたんだわ。

だったら、あなたにいう言葉は〝ありがとう〟ね」

みんながアイリスを見ている。

アイリスの言葉に酔いしれる。

完璧な主人公。

奪った誰かの死も尊厳ある死へと祭りあげ、周りもそれを肯定する。

誰もが主人公に希望を持つ。誰もが主人公の生き様を理解する。

片手を真っ黒のドラゴンに向かって差し出す。

「神の子であるアイリスが、女神さまに乞い願う。

愛する隣人たちに緑を還し、黄の陽を赤く燃やし、聖なる癒しをここへ!」

アイリスの手のひらから放出された青白い光がドラゴンをさらに包み込む。数秒で赤いドラゴンに戻った。その身に受けていた傷もなくなっていた。

ふらついたアイリスを支える殿下。

赤いドラゴンはあれ、ここどこだ?というように周りを見た。

そして翼を開き大空へと飛び立った。

戻ってきたりもしなかった。それはユオブリアに対しての深い怒りと悲しみも浄化されたかのように。

騎士たちから喜びの声があがる。

その一瞬後。

「きゃあああああーーーー」

アイリスの叫び声が響き渡った。

兄さま!

ああ……アダム……。

「フランツ!」

イザークからやりきれない声があがる。

兄さまの手が血まみれだった。

リディアの生命を奪ったアイリスに向け、その剣は突き出された。

けれど。

アイリスを庇った、アンドレ。アンドレを庇った、アダム。

アダムの身体に剣は深く入った。

アダムから血が流れる。

わたしの意思では動けない。

漂うことしか許されない。

駆け寄ることも、寄り添うことも、見ていることしかできなかった。

とめどなく溢れてくる冷たい雫を拭くことも叶わなかった。

「殿下、……彼の怒りは……当然だから、私は彼の処罰……望みません」

途切れ途切れに……。

「……わかった、もう話すな」

「……守ってくれて、ありがとう」

涙いっぱいの目で微笑むアイリス。

「潮時で……ちょうどよかった」

潮時? ちょうどよかった? 死ぬことが?

「兄上!」

ロサも駆けつける。

「殿下と……アイリスのこと……任せたぞ」

そう言ってからアイリスを長いこと見つめ、そして目が閉じられた……。

アダムはアイリスのことが好きだったんだと、その視線で気づき、鈍い痛みが走る。

兄さまに駆け寄るみんな。言葉なく、哀しみだけが広がっていく。

兄さまはまた虚ろだった。魂はここにはもうないみたいだった。

血だらけの剣を落とす。

ふらふらとリディアの亡骸の前で膝を折り、リディアの瞼を下ろす。抱きあげる。静かに抱きしめる。そのまま歩いて行こうとして、その背をイザークが追いかけた。

ああ、兄さま……。兄さま…………………………。

背中が小さくなっていく。わたしは動けない。

ロサがアダムの亡骸に上着をかけた。

悲しんでいる間もじわじわとにじり寄ってきていた瘴気。

時間は待ったなしだ。

アイリスは城に蔓延る瘴気を浄化した。完璧な浄化だ。

王都に入り込んだ国内の勢力も、南と西と東の辺境から流れ込んできていた外国勢も制圧した。苦戦するところもアイリスが浄化の力を放てば、皆嘘のようにおとなしくなった。

聖女アイリスとアンドレ殿下は英雄となる。

ユオブリアと世界を救った。

このことは後にユオブリア聖戦と呼ばれるようになる。

ユオブリアには記念碑が建った。聖戦で犠牲になった人々を弔うもので、そこには聖なる力を聖女に託したリディア・シュタイン。聖女を護った名無しの戦士。それから聖なる力の持ち主の後を追った彼女の婚約者。第三王子。その他、数多くの犠牲となった人々の名が刻み込まれていた。

記念碑に名前を刻んだことで、全てが「良い記憶」に塗り替えられていく。

わたしはアダムの言った言葉の意味を考える。

潮時でちょうどよかった。

なんの潮時?出来事から言って、生きていることの潮時のように思える。

生きているのが潮時とは、生きていることが問題となるということ。

その問題、とは?

……アダムはアンドレ殿下とアンドレ殿下の愛する世界を愛してた。

それが彼のスタンスだった。その線があるから彼はブレなかった。

アンドレ殿下を守っていた。けれどいつしかそこに問題が発生しそうだった。

……そう多分。アダムはアイリスを好きになった。その好きが加速して線を超えてしまいそうだった。

線を越える前にアダムはこの世界から離脱したかった……。

これは憶測。アダムの思いはアダムにしかわからない。

歴代の聖女たちが成し得なかった、瘴気の完全なる浄化は、世界を救ったとして過言ではない。

二人の功績からアンドレ殿下が王となり、アイリスは王妃となった。

孤児から男爵の養女になり、聖女の力を発現。第一王子の婚約者となり、聖戦の功労者。王妃までのぼりつめたアイリスの物語は語り継がれることになる。

身体が弱かったアンドレ殿下もアイリスがいつも聖なる浄化をし続けたことが功をなしたのか、国政をこなし、2女3男授かり、国も安定している。支える家臣、王族たちも二人を祝福した。

多くの物語の締めくくりのように、「いつまでもいつまでも幸せに暮らしました」というのがピッタリな光景だ。

と思った瞬間、周りが真っ白になった。