軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1252話 シナリオ⓬絶叫

「兄上と瓜二つだ」

「……それはそうだ。私はアンドレの片割れ。双子だからな」

こちらの世界ではアダムはアンドレ殿下と双子なの?

「第一王子が双子だったなんて、そんな話は……」

ダニエルが呟く。

「王になったのが第一子であった場合、その第一子は短命かいずれ狂う。知ってるだろ?」

みんながアダムを見つめる。

「だから伏せたんだ。アンドレを生かすために私の存在を」

アダムは顔を上げる。

「私は影。アンドレを助け、代わりに足になる存在」

場も忘れ、それでいいのか? そんな扱いをされて納得できるものなのか?と

胸ぐらを掴みたくなる。

「それで殿下や国を恨み、虎視眈々と復讐できる機を狙っていたのか?」

兄さまが細い声ながら叫んだ。

「復讐? 馬鹿な。復讐とは恨みがある者が考えること。

私はアンドレとアンドレの愛するものを愛している。

だから、世界を終わらせやしない。アイリスを死なせるようなことはしない」

アダムが倒れているリディアに向かって歩き出す。

「やめろ! やめてくれ!」

弱々しいガラガラ声で、兄さまは何度も懇願する。

動けないでいるみんなは顔を歪ませていた。

「それしか方法はないのか!?」

「他にあるなら言ってみろ!」

声を荒げるロサにアダムが応戦する。

「対、人との戦いはどうにかなったとしても、魔力が莫大な陛下と地形の魔法陣でなんとか封印していた瘴気が吹き出した。もう聖女の浄化に頼るしかない。

聖なる浄化をアイリスが吸収したって、それを失敗したら世界は終わりという状況だ。

いいか、〝世界〟がだ」

アダムはリディアを仰向けにして、胸の上に手を置いた。

「リディア・シュタイン、君の貢献により世界は救われる。恨むなら私を恨め。来世でリディア・シュタインには私の命を奪う権利を与える」

光が出て、わたしが一度バウンドした。

アダムはわたしを抱きかかえた。そしてアイリスの前に立ちはだかる。

「さ、核を吸収しろ」

「ど、どうやって……」

青白い顔でアイリスはアダムを見上げる。

「知ってるだろ? 君は7歳の時、シュタイン嬢の魔力に触れて彼女の核ごと奪おうとした」

え?

「な、何を言うの?」

アイリス嬢の顔が真っ白になった。

「君がシュタイン領に行った時のことだよ。

君が話しかけて、シュタイン嬢が魔力を暴走しかけた。

その〝聖なる力〟に触れた君は本能でそれを奪おうとした」

「何を、あたしはあの時、痛くてびっくりして、魔法を使った。シュタイン嬢が吹っ飛びはしたけれど……」

「そうだよ。君に奪われそうになったから、シュタイン嬢は本能で君から遠ざかったんだ」

わたしもその光景は見ていたけれど、それとまったく違った解釈が浮かび上がる。

「あの時私は結果を〝見てきてくれ〟とアンドレに頼まれた。ただ見ていればよかったのに、思わず手を伸ばしてしまった。あのまま手を出さなければ、あの時、シュタイン嬢の核を君が抜き取って歴代の聖女の中で初めて完璧な聖女になれたはずなのに。

私がその機会を壊してしまった……」

アダムの顔に初めて弱さが映り込む。

「アンドレの真意を測りきれてなかった」

……アンドレ殿下は初めからそのつもりだったってこと?

リディアが5歳のあの時に、母さまの死というきっかけでアイリスに触発され魔力を暴走させるのを織り込み済みで。アイリスの本能がいずれ必要になる聖なる力を嗅ぎ付けてそれを奪おうとする。リディアも本能でそれを察知して逃げる。本来なら逃げてもアイリスがリディアの核を奪い取り、わたしは魔力の暴走で亡くなったと思われるはずだった?

けれど遣わされたアダムは、殿下の真の意味を図りきれず、アイリスがわたしを取り込もうとしていたのを止めてしまった。そういうこと?

ざわざわとする。

アンドレ殿下!?

目の前にアンドレ殿下がいるのに、向こうからもアンドレ殿下が歩いてくる。

双子だとは聞いたけれど、みんなは交互に殿下たちをみた。

「手間取ってすまない」

アダムが謝る。

「いいや。いつも大変なことをさせてごめんね」

アダムは目を閉じ、首を横に振る。本当にそう思っているようだ。

本当にアンドレを慕っている。

自分の存在はかき消されているのに? 戦いの時だけ表舞台に出るだけなのに?

殿下がいる限り自分はいつまでも〝影〟なのに?

それなのに、恨まず、憎まず、慕っていられるものなの?

「アイリス、私は君に生きてほしい」

本物のアンドレ殿下は、アイリスに優しくそう言った。

「すべてが終わったら、シュタイン嬢の葬儀を大々的にして立派な碑を作ろう」

……そんなことでリディアの〝死〟を終わりにするの?

ああ〝碑〟というのは、生きている人たちのためのものなんだね。死者を悼むとした偶像。形づけて心を癒すためのもの。

でもアイリスはすり替えられた〝死〟の重さに気づかない。いや、気づいているけれど気づきたくなくて見えないふりをしているのかもしれない。

「聖女・アイリス。辛くても、その役目だけは代わってやることができない。君だけができることだから。でも、君ひとりに押し付けたりしない。シュタイン嬢の核を奪う咎は一緒に受けるから」

殿下がアイリスの手を取った。

そしてその手をアダムが抱えるリディアの胸の上に。

アダムがやったのか、リディアの身体がアダムから離れて水平のまま空中に浮かんだ。

「アイリス」

殿下に名を呼ばれ、アイリスはうなずく。

目をつむり手を伸ばす。

アイリスの手のひらに光が集まっていく。リディアの全身からいろいろな色のもやが出てきて、アイリスの手のひらに吸い込まれていく。

静かな表情で意識のないリディアの頬がひくっとして目は開かないけれど苦痛の顔になる。

「リディーーーーーーーーーーー!」

兄さまの絶叫。

目を見開き、視線が外せないみんな。

リディアがコホッと血を吐いた。

ロサが顔を背け、拳を握り何かに耐えている。

リディアの目が開き、涙が流れる。

「やめてーーーーーーーーーーーっ」

わたしはリディアの上に覆い被さった。

わたしの声は届かない。

わたしの身体は透けている。壁にもなれない。なんの役にも立たない。

もやが出なくなって、アイリスがよろけたと同時にリディアの首がかくっと横を向いた。

見えていないだろうその視線の先には兄さまがいた。

「リディーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

兄さまの絶叫が響き渡った。