軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1251話 シナリオ⓫聖なる力

「彼女は、クジャク公爵家とウッド侯爵家の血を引くジュレミー・シュタイン、そしてライラック公爵家、グリフィス侯爵家の血を引くレギーナ・シュタインの唯一の血筋」

「唯一? アランとロビンだってふたりの子ですよね?」

イザークが唯一という言葉に反応した。アダムは首を横に振る。

「いいや、アランとロビンはレギーナの姉であるフローラの子。ライラックと、グリフィスの血は引いているけれど、リディア・シュタインには及ばない」

「シュタイン嬢は確かにクジャク・ライラック両公爵、そしてウッド・グリフィス両侯爵の血を引いているけれど、高貴な血に意味があるのですか?」

ダニエルがわからないというように尋ねた。

「そうだ、高貴な血は魔力が多い。リディア・シュタインもそうだ。おそらくこの場でブレドの次くらいに魔力が多いはずだ」

みんながハッしたように虚ろな兄さまに抱えられているわたしを見る。

「光のグリフィス家の血を引いている女性でもある」

「浄化ができると? いや、シュタイン嬢は魔力もあまりないし、光の使い手ではなかったはずですが」

ロサが鋭く反論。

「そうだ、彼女は 掻(か) い 潜(くぐ) った。

光の浄化は知らないが、彼女はその高貴な血筋に加え、元から瘴気をほとんど持っていなかった」

「なぜ、そんなことまでわかるんです?」

ロサが目を細める。

「彼女が5歳の時に会ったからだ。そこで〝見た〟」

リディアとアダムがこの世界で会った……母さまの葬儀のあの時だ。

魔力を暴走させ、あの一回会って触れた、ただそれだけで瘴気を持ってないことまでわかったの?

なんなの、その恐るべき勘というか。

「瘴気を持っていないことが、アイリス嬢の力に何かよく働くんですか?」

ブライが 訝(いぶか) しむ。

「いや。瘴気を持たないからこそ、聖なる力に溢れている」

「聖なる力?」

「そう。この世界は神々と聖なる方とに作られた。

浄化には両方の力がいる。

けれど、女神の力を授けられた聖女には、聖なる浄化は育めない。相反するものだからね」

「相反する力というなら、シュタイン嬢の聖なる浄化を手に入れても、アイリスさまには使えないのでは?」

ルシオが冷静に論破する。

「聖なる浄化の力だけを受け取るならね。シュタイン嬢の核ごと取り込めば、その力を自由に使える」

核ごと……みんなが息をのんだ。

恐らく聖なる浄化の力だけ受け取る方法もあるんだろう。でもそれだとアイリスは使えない。

「この世界は神の力と聖なる力を同時に使わなければ威力は半減してしまう」

「歴代の聖女が女神さまからの力を得ながらも、浄化で全てを消し去ることができなかったのは女神の力だけだったからだというんですか?」

尋ねたロサにアダムはうなずく。

「アイリス、わかったろう?

それがシュタイン嬢を取り込む理由だ。

それを君がしなければ世界は滅ぶ」

アイリス嬢の喉がごくんと動いた。

なんて残酷な世界なのだろう。

いや、それはリディアにとってだけなのかな?

「では、始めるよ」

アダムがわたしに向かって片手を突き出す。

「お待ちください。同時浄化で良いなら、シュタイン嬢とアイリスさまが同時に浄化をかければいいのでは?」

ルシオが切羽詰まった声でいう。

「できればそうしたかったけれど、それだとアイリスの魔力が足らない。アイリスの魔力量を増やさなくてはならない」

だから聖なる力だけでなくわたしの魔力も必要になるということ。

アイリスが聖なる力を使うにもわたしを構成する核そのものが必要になるということ。

……感覚なんてなかったのに。何かが冷たい気がして頬に手をやると、手が濡れた。

アダムはいつだって厳しいことも含めて、わたしに優しかった。

アダムの正体を知らない時から、なんだかんだあっても、いつもわたしに優しい存在だった。

ここのアダムとわたしの世界のアダムは違う。

そう思おうとしても、ひどく辛かった。

感情に蓋をしたはずなのに、目から伝ってくる涙。

アダムがわたしに攻撃をしようとしている……。

自分の泣き声を聞きたくなくて口を押さえた。

アダムが軽く目をつむり光を出した。

真っ直ぐに伸びた光は、くるりと身を翻した兄さまに直撃した。

「フランツ!」

いく人かの声が合わさる。

ちっとアダムは舌打ちをした。

「量が少なかったか」

兄さまの背中が焦げている。放り出してしまったリディアに腹ばいのまま近づこうと手を伸ばす。

アダムが歩いて行って、兄さまの服の破れた背中を踏みつける。

「皆、選べ。このふたりを助けてみんなで滅ぶか、シュタイン嬢の犠牲の上で世界を救うか。ただしシュタイン嬢を助けてもすぐ先に死が待つだけだ。

世界を救うというなら、フランツを捕まえてろ」

……誰も動けなかった。

アダムは騎士を呼んで、足元の兄さまに邪魔をさせるなと言った。

二人の騎士が、兄さまをはがいじめにする。

「お前は誰だ? アンドレ殿下になりすましたお前は?」

兄さまが細い声を絞り出す。

みんながアダムを見た。

「何を言っている?」

「アンドレ殿下は体が弱い。辺境での戦い、動き、王都までの移動。アンドレ殿下の体ではとても持たない」

「体が弱いとしているのが嘘だとは思わぬのか?」

「殿下が魔法を使った後に倒れたのを見たことがある。箝口令が敷かれたが内臓を傷つけるようで血も吐かれていた。あれは芝居ではなかった」

アダムはゆっくりと拍手する。

「私にそう突きつけてきたのは君が初めてだ」

「貴様が北の辺境に来て、リディアを気にしている時から変だと思っていた」

「なかなかいうことをきかせる魔石の粉を飲ませられないから、愛想はいいが何か怪しまれているとは思ったが」

「ああ、その変なものが身に入ったとき、思いもよらない行動に突き動かされている自分に動揺した。だから〝神斬りの剣〟で自分を刺して正気を保っていた。

従うふりを続けたのは貴様が何をするつもりなのかを見極め、リディアを守り抜くためだ」

アダムは兄さまの近くに転がった青い細身の家宝の剣に気づいた。

「神斬りの剣か……バイエルン家の家宝を手にしていたか。

直系しか扱えないと聞いて……ああ、亡くなったと言われた犯罪者の息子は、北の辺境伯の子息におさまっていたわけか」

アダムはチロリと兄さまに視線を走らせる。

「神の遺物の魔石を持つお前は何者だ?」

「兄上で……ない?」

アダムは軽く息を落とす。

「私はアンドレ殿下の影。殿下の身体は闘うに不向きだからな」