軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1247話 シナリオ❼出会い

そのお茶会を終えてから、アイリスが本当に聖女になるんじゃないかという噂が聞こえてきて、王都の神殿からもお誘いが来た。正式な聖女候補にならないかと。候補なのに正式にとは矛盾しているように思えるけど、神殿が認めた候補となれば神殿と国から保護を受ける対象となるそうだ。

聖女となるかもしれない少女を一目見ようと屋敷を訪れる人もいて、防犯面を心配したカートライト男爵は王都へ行く決意をした。モロールの領主は交代され、カートライト家は王都の9番地に移り住む。週に一度アイリスは神官に混じり神を崇める。聖女候補は何人かいて、その集いに参加する代わりに、神殿と騎士たちが聖女候補を守った。

男爵にとっても領主から解放されたことで崩しがちだった体調も良くなったし、アイリスにとっては貴族の子供が少ないモロールより、王都の方があっているようだった。

様々なお茶会に招かれ、……それにはガルッアロ伯爵家も含まれていた。

学園に上がる前のルチアさまは繊細そうな子で、周りにいつもビクビクしているように見えた。あの落ち着いて、わたしたち3人の中では一番冷静だったのが嘘のようだ。この方が成長してああなるとは、信じられない何かがあった。

この世界ではガルッアロ伯は罪を犯さず、ルチアさまもガルッアロ伯の姓を失っていなかった。

どこに呼ばれてもアイリスは楽しそうで、そこは尊敬する。

そしてイダボアのお茶会から4年が過ぎ、アイリスは学園に入園した。

学園を仰ぎ見るアイリス。

アイリスは早い時間に学園へと赴き、初めての時だけに訪れるそのときめきを楽しんでいる。

アルネイラの並木道で、その景色に息をのみ、魅了されていた。

薄い水色のグラデーションの花びらがハラハラと舞い落ちる。

アイリスは口を開けて見入っていた。

「口を開けて、花びらでも食べるつもり?」

アイリスは突然の声に驚いて振り向く。

ア……ダム? 金髪に紫の瞳。落ち着いた感じの美少年。

冷たい微笑を浮かべながら、声音は温かみを感じる。

あれ、でもちょっと違和感。

アイリスはカーテシーをした。

「花を食べたりしません! あまりにきれいだったから、見とれていただけ。

あなたは決して名乗らない王子さまね?」

アイリスは頬を膨らませた。

アダムは横を向いて、ちょっと吹き出す。

「これは失礼しました。

私はゴット・アンドレ・エルター・ハン・ユオブリア。

君に会うのは初めてだ」

「嘘! シュタイン領でも、イダボアのお茶会でも会ったわ!」

「これは極秘事項だけど、君が会ったのは私のふりをした私の片割れ。私は体が弱いから滅多に外には出られないんだ。ただ報告を受けて、どうしても君に会ってみたくなった」

びっくりするぐらい優しく微笑んだ。

……彼はアンドレ殿下だ。アダムではなかった。違和感の正体がわかる。

アイリスは目を大きくしたけど、疑わず聞いたことを聞き入れる。

「なぜ私に会いたくなったの?」

と尋ねる。

「臆さず大人に意見したんだって? それにコーデリアともやり合ったというじゃないか。どんな子か気になるよ」

「コーデリア?」

「メロディー公爵令嬢だよ」

「あ、あの華奢で可愛らしい方ね」

「君も可愛いよ」

アイリスは顔を真っ赤にした。

「……ありがとう。可愛いって言ってもらうと嬉しいの。ここに居ていいって言ってもらっているようで」

風が吹いて、絨毯のように敷き詰められていたアルネイラの花びらが巻き上がる。

「……自信ありげなのに、そんな寂しがりやのようなことを言うんだね」

「知ってるでしょ? あたしは養女なの。お父さまに愛されてとても幸せよ。でも孤児だった時のことも覚えている。そこはそこで楽しかったけど、今考えると、もう戻りたくない。……今の方が幸せを感じているからでしょうね。

だからね、怖くなるの。この幸せを手放す時が来たらどうしようって。

それで確めずにいられない。あたしは愛されているか。目の前の人にどんなふうにあたしが映っているのか」

そんなふうに思っていたのかととても驚いた。

無邪気に見えるのも、彼女の盾なのかもしれない。そうと思えば胸が痛い。

「だから、あたしに興味を持ってくれない人は怖い。

突っかかってきてくれる人の方が嬉しいわ。あたしを認めているってことだもの。

あたしの存在を気にしない人の方が怖いの。

殿下がそうだと思った。話しかけたのに、あたしを無視しようとするから。

あとシュタイン家の子たち。あたしは仲良くしたいと思ったけど、どの子もあたしの方を見ていても、もっとその先を見ているの。あたしが気にならないんだわ」

「レディー、そんな顔をしないで」

殿下はアイリスの頬を触れるような仕草をした。けれど、触れてはいない。ギリギリの触れそうで触れない位置で。

「ねー、これからも片割れさんとは入れ替わるの?」

「……そうだね。なるべく学園には来たいと思っているけど」

「そしたらあなたはアイリスって呼んでくれる?」

「?」

「そうしたら、殿下だってわかるから。もうひとりはあたしをカートライト嬢って呼ぶと思うから」

「ふふ。いいよ。その提案を受け入れた。

……そろそろ入園式が始まる。講堂へ急いだ方がいい」

「え、そんな時間?」

アイリスはいきなりカーテシーをした。

「殿下との秘密のおかげで学園生活がより楽しくなりそうだわ。

ありがとう。なるべく頑張って学園に来てね。

またおしゃべりできるのを楽しみにしてるわ」

アイリスは片手をあげて駆け出す。

アンドレ殿下はそんなアイリスを目を細めていつまでも見送っていた。