作品タイトル不明
第1246話 シナリオ❻手中
それからお茶会はすっちゃかめっちゃかだった。
アイリス嬢とメロディー嬢がとことん合わない。
アイリス嬢はただ本能のままに楽しいことに身を任せていてるので、何を言われても別に響いてない。
常識的な令嬢はみんなアイリスの天真爛漫攻撃にやられまくっている。一人勝ちかもしれない。なんかまともなメロディー嬢が気の毒に思えてきた。
リディア一家とアダムは馬車に乗って行ってしまった。
わたしはそちらの方が気になったけれど、アイリスから離れられないので仕方ない。
キートン夫人が外に出ていらした。
顔見知りが多いみたい。みんなが寄ってくる。
夫人はひとりひとりに声をかけた。
ロサが会場として場を設けてくれたことに対する感謝の言葉を述べる。
今も若々しいけど、9年前はこんなシャキッとしてらっしゃったんだっけと感慨深く思う。
キートン夫人は詐欺グループに目をつけられ、お屋敷を売らなくてはいけないハメに陥っていた。こちらではそんなことがないといいんだけど。
それも詐欺グループに目をつけられたのは、実はグレナン語を解読できたからかもしれなかったんだよね。
「殿下、身に余るお言葉をいただきました。ありがとう存じます」
キートン夫人はロサに礼を尽くす。少しも乱れてない、洗練されたカーテシーだ。それから夫人は教え子たちにこうしてまた会えて嬉しいと言って、みんな立派になってと声を詰まらせている。
キートン夫人は印象的に自分の屋敷を振り返る。
「この家は主人との思い出がたくさん詰まっている家です。
今月いっぱいで引っ越さなくてはなりませんが、その最後に皆さんとの交流の場にできたことがとても嬉しいわ」
と微笑んだ。
「……王都のご家族の元に行かれるんですか?」
「……いいえ、まだ引っ越し先は決まっていませんの」
誰かが尋ねると、夫人はそうため息を落とす。
門の方がざわッとして、ガーデンパーティへ侵入者が。
えっ。
毒々しいドレスの女性と恰幅のいい男性。
えっと、このお屋敷にこだわった、詐欺グループの人たち!
名前なんだっけ?
ふたりはロサの前に進み出て、深々と頭を下げた。
発言の許しを待っているのだろう。
「キートン夫人、彼らをご存知か?」
キートン夫人はちょっと言いにくそうに言った。
「来月からこの屋敷の所有者になるコルヴィン男爵夫妻です」
ロサは頭を上げないふたりにシラッとした視線を投げかける。
「ユオブリアの第二王子主催の茶会に、許しもなく入ってくるとはいい度胸だ」
「殿下、恐れながら申し上げますが、ここはもうすぐ私どもの屋敷となるのです」
「……今はまだ違うだろう?」
「殿下ともあろうお方がご存知ないのですか?
元侯爵夫人と上品ぶっていますが、彼女は罪人です」
子供たちがザワッとする。
「そちらこそ、頭が悪いのか?
裁判で罪ではないと認められている」
男爵たちはグッと言葉につまる。
「それは証拠が確かではなかったから。
騒がせた罪として罰金を払うことになったじゃありませんか」
子供たちが集まったお茶会で、なんと意地悪なことをするんだろう。
キートン夫人の顔色は悪く、アイボリー嬢とマーヤさまが夫人を支えた。
「あなたたち、大人なのに意地悪ですね」
前に進み出たのはアイリス。
「なっ!」
毒々しいドレスを纏った夫人は憤って顔が真っ赤になった。
「呼ばれてもないところにきて、もう終わったことのようじゃないですか。それを侯爵夫人を慕う子供たちがいるなかにぶちまけに来たって嫌がらせでしかないですよね?」
アイリスは正義感強いからな。
「あなた方が侯爵夫人に何かされたならともかく、殿下に言いつけて自分がのし上がれるとでも思ったんですか? かなり卑怯で醜いと思います」
アイリスは大の大人ふたりをわかりやすく睨んだ。
風向きが変わった。
最初はキートン夫人が何かしたのかもと揺れた子供たちだったけど、アイリスの言葉で目が覚めたみたい。
これは自分たちの先生を貶める行為だと。
ブーブーと糾弾が始まり、ロサが最後に締めた。
「子供でもわかる悪手だ、男爵。
このことは王宮に報告しておく」
「そんなぁ!」
叫んだ夫人を抱えこむようにして、男爵たちは逃げ帰って行った。
「桃色の髪、君はカートライト男爵令嬢だね」
「はい、第二王子殿下。アイリスです。アイリスって呼んでください」
ちょっと小首を傾げてそう言うアイリスは、非のつけどころがなく、可愛かった。
言われたロサ以外もみんなポーッとしている。
男爵令嬢が名前で呼んでね、なんて言い出すのは不敬もいいところだけど、みんなあまりの可愛さにそれはどうでもいいと思うことだったようだ。
「君の言うことはもっともで、とても気持ちよかったよ」
「あたし思ったこと、すぐ言っちゃうんです。それでよく怒られるけど、そう言ってもらえて嬉しいです!」
「……アイリス嬢」
声をかけたのはキートン夫人。
アイリスは振り返る。
「庇ってくださってありがとう。優しい子」
アイリスはキートン夫人ににっこりと笑う。
アイリスの株が爆上がりして、お茶会は終了した。
アイリスの言葉はキートン夫人を慰めたのはもちろんそうだと思うけど、確かに反感を持っていたメロディー嬢でさえ〝一目置く〟みたいになっているのが、さすが主人公って気がした。たった何回かの発言で、ここにいるみんなの思いを手中に収めたのはなんかもう素直にすごいという思いと、少しばかりの恐怖を感じさえした。
ちなみにキートン夫人は屋敷を売り渡すことになり、王都のご子息の家に移り住んだと噂に聞いた。