作品タイトル不明
第1245話 シナリオ❺婚約者
皆で乾杯をして、ドリンクを飲んでいる。
隣り合う人たちと談笑が始まった。
ロサの周りには、ちびのダニエル、ブライ、イザーク、アイボリーさま、マーヤさまがいる。懐かしい顔ぶれ。そしてみんな小さくて可愛い。
アイリスはちびアダムに突進していく。
「あなた、第一王子殿下ってほんと?」
もうみんな震えあがっている。子供といえど、王族のお茶会に招かれるような子たちだから、作法も心得ている。アイリス嬢を抜かして。
「君は少し、礼儀を学んだほうがいいね。
男爵なんて普通王族のお茶会に招かれないよ。
君が招かれたのはその歴代の聖女さまと同じ髪の色をしているから。ただそれだけだ。無礼もすぎると、君も君の父上も困ることになる」
「あなたが名乗らないからでしょ?
前もそうやって何も言わずにいなくなるから!」
アイリスは可愛い顔でぷんぷんしている。
アダムが目を細めた。
向こうで兄さまも目を細めている。
主催者のロサが何事かとこちらに歩いてきた。
後ろにはみんなもいる。
「どうしました、兄上?」
「こちらのレディーと話をしていただけだよ?」
ロサがアイリスを見て、頬をピンクに染めた。他のみんなもだ。
「そちらの令嬢が殿下の許しもないのに、話しかけて、殿下がそれは礼儀がなってないと教えて差し上げていたんですわ」
うわっ、華奢な美少女と思ったら、メロディー嬢だった。
アダムはやれやれという顔だけど、他の子たちは礼を尽くす。しなかったのはアイリスぐらいだ。
「話したことあるもん。答えてくれなかったから、今日また聞いただけだもん!」
アイリス……言葉遣い……。
「あら、アンドレ殿下がどこで男爵令嬢と会ったといいますの?」
「そこのリディア嬢の魔力の暴走を止めたのよ」
皆の視線がリディアに注がれる。
リディアは真っ青になっている。
「魔力の暴走って?」
「え、あの子魔力が暴走するの?」
ざわざわとした囁きが嘲笑を含んだものになる。
ガタガタ震え出したリディアを兄さまがかばい、そのまま帰るつもりなのかもしれない。アラ兄もロビ兄も横について、会場から出ようとした。
「リディア嬢、待ってくれ」
待ったをかけたのはロサだった。
リディアは今注目を浴びたくないだろうに、ロサは最悪のタイミングで呼びかける。主催者だし、第二王子殿下だ。みんなが見ているのに。
リディアは心配する兄さまの手をぎこちなく笑って外し、ロサへと丁寧にカーテシーをした。
「はじめまして。やっとお会いできましたね」
「ユオブリアの小さき太陽にご挨拶申し上げます」
わたし、声可愛い。
小さくて、なんなら声が震えていたけれど、それはそれで庇護欲を掻き立てる甘い声だった。
やっとということはこれまでもコンタクトを取ろうとしたってことだ。
じゃあロサとの婚約話は本来の世界でもあったってことなのか?
緊張が限界にきたようで、リディアがふらっとする。それを兄さまとロサが同時に支える。
「中で休むといい」
ロサが振り返って執事に指示をしようとしたのを兄さまが止める。
「発言をお許しください。殿下、リディアは体が弱いのです。イダボアまで来てくださってのお茶会、なんとかここまできましたが、限界のようです。
ここでお暇させていただきます」
「では、私が送っていこう」
「ロサさま、それはいけませんわ」
反対の声をあげたのはメロディー嬢だ。
「ロサさまは主催者ですのよ。令嬢ひとりに構っていてはいけません」
ロサはムッとしてる。
「皆、申し訳ない。今日の1番の目的はこちらのリディア・シュタイン嬢と話をすることなんだ。勝手を許してくれまいか?」
きゃーという歓声があがる。噂はあったけど、ふたりの婚約は本当なのか?の声かな。中には明らかにムッとしている令嬢も。
「殿下、話し合いでしたら、婚約者の私が同席させていただいても?」
「婚約者……何を言っている?」
アダムがすっとこちらにやってくる。
「フランツ・シュタイン・ランディラカ。君はランディラカ辺境伯の養子だったね」
「はい、そうです」
「それで、妹として過ごしてきたリディア・シュタインの婚約者になったということかい?」
兄さまは黙礼する。
「はっ、シュタイン家はよほど王家に光の血筋を入れたくないようだな
まぁ、それも無理はないが」
震えていると思ったけど、リディアは一瞬冷たい目でアダムを睨めつけた。
なんかわたしから黒い何かが迸っているような気がする。
「リディア嬢が婚約済み?」
ロサが驚いた声を上げている。
周りは相変わらずざわざわだ。
「ランディラカ子息、それは本当か? 王族に嘘をついたら家門ごと叱りを受けることになるんだぞ?」
ロサの怒り方が幼くて可愛らしい。
「偽りではありません、教会に届け受理されております」
兄さまはわたしをぐいっと引き寄せる。その後ろでアラ兄とロビ兄がうんうんうなずいている。
「うわー、そうなのね。おめでとう」
場違いな明るい声を出したのはアイリスだ。
でもそれで空気が変わる。
幼い子供たちは判を押すように、祝福の声を上げた。
「そ、そんなの私は認めない!」
「ブレド、そんなことを言っても何も変わらない。ブレドはこのお茶会をきちんと楽しい会にして終わらせること。
ブレドの代わりに私がシュタイン家のご子息、ご息女たちを送ってくるから」
「そんな、ゴットさまがなぜそんなことをするのです?」
「コーデリア嬢、また、王都でお会いしましょう。
ロサの友達を作る邪魔はなさらないでくださいね」
そうメロディー嬢に優しく言って手を取った甲に口を寄せた。