軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1244話 シナリオ❹モロールの災難

アイリスは楽しそうなことにしか興味を持たなかったので、外部の情報が入ってくることはあまりなかった。

けれど、隣のシュタイン領の土地が枯れた原因がレアワームだったということは騒ぎとなり、これから3年かけてレアワームを根絶やしにするしかないらしい気の毒だという話は聞こえてきた。

その後にモロールにもその危機が訪れた。

シュタイン領のレアワームは、前領主が商人から買った土地が元気になるというポーションを撒いた後に発生した。

そしてモロールの商人にもそのポーションが売られ、撒かれてしまった。

シュタイン領ほどではないが、モロールでも3年眠らせなくてはならない土地ができた。その商会はタラッカ男爵が片手間にやっていたものだそう。その責任は重く、平民への降格が決まったそうだ。

タラッカ男爵……オメロ……。こちらではオメロは間に合わなかったんだ。

アイリスは全く知らなかったけれど、モロールの評判は落ちていった。

タラッカ家は確かに土地をダメにしたけれど、商会を通して領地への貢献度が高かった。それが平民に降格され領地を出て行った。それを堺に、モロールで起きていた不正などが次々と発覚した。それには孤児院の破綻も含まれていた。

こちらでは、わたしとセズたちは会っていないんだ……。

もちろん現男爵が領地を預かることになったときには、全て起こっていることだったわけだけど、それを正せる力があってこその領主ということなのだろう。領主としての資質が問われ、男爵は参っていた。

家に帰ると何も知らないアイリスが、無邪気に甘え明るく癒す。

男爵はそれに救われ、娘をますます溺愛していった。

わたしはアイリスから離れられるギリギリのところを彷徨って情報を収集していた。シュタイン領が気になるけれど、行ける範囲には含まれていなかった。アイリスには家庭教師がつき、魔法や勉強を頑張っている。なかなか身についていかないけれど、いつも頑張っている姿には好感が持てた。

アイリスが8歳のとき、イダボアでお茶会が開かれることになった。

第二王子のブレド殿下が主催のもの。

アイリスは初めてのお茶会のお呼ばれに楽しそうにしている。それも王族が主催だ。

メイドたちの情報によると、それは第二王子の婚約者を定めるものらしく、シュタイン領のリディア嬢、つまりわたしが有力ということだ。

「王族の婚約者に伯爵令嬢が?」

「ほら、シュタインの亡くなった夫人は光の使い手だったらしいから」

「ああ、それでね。でもあのお嬢さまは光属性はなかったんでしょ?」

「それでも光属性の子供が生まれることがあるからじゃない?」

「そういうことか。王妃さまのご実家の勢力が強いもの、第二王子には王位は巡ってこない。王子さまの地位を安定させるのに後ろ盾がいるのね」

「でも光属性の子だって生まれるかわからないし、あの貧乏領地が後ろ盾にはなれないと思うんだけど……」

「お嬢さま以外のお子さまたちは見目も麗しく、賢く活発で、将来有望って話よ」

「婚約はいつでも破棄できるもの、今のうちに確保しておこうってことなんじゃない?」

「あれ、でもシュタインのお嬢さまは火傷をおったって話じゃなかった?」

「ああ、そうよね。それで去年のお茶会は流れたんだもの。傷が治ったのかしら」

メイドたちの情報と量にはいつも驚かされる。ほとんどが噂でことの真相を孕んでいなくても、推測を立てるにはもってこいの情報だ。

お茶会が開かれたのはイダボアのキートン夫人のお屋敷だ。

何もかもゴージャスに飾りつけられ、さすが王族の主催だと頷けるものがある。

アイリスは髪と同じ薄いピンクのドレスで、春の妖精のようだった。

アイリスが馬車から降りると、貴族の子息、令嬢、お付きの侍女や従僕たちもみんな目を奪われている。それほど可愛らしく、目を引く子だった。

アイリスの周りには自然に人の輪ができる。

みんな名乗ってアイリスと仲良くなろうとしている。

シュタイン家の兄妹だけは寄ってこなかったけれど。

小さな兄さまたちだ。質のいい仕立てた服を着ている。それぞれに見目がいいのでなかなか目立っていた。その3人に守られているような小さなわたしも目を引いていた。

アイリスは知っている顔だと、シュタイン兄妹に近づいた。

そして声をかける。

「ごきげんよう! お久しぶりです」

アイリス嬢はお父上から礼儀を弁えるよう散々言われてきたのに、知った顔だからいいと思ったのか、伯爵家に自分から声をかけている。

知った顔といったって、友達になっていないのに。

「……ごきげんよう、アイリス・カートライト嬢」

兄さまは冷たく、しぶしぶ挨拶を返す。

それを皮切りに女の子たちが兄さま、アラ兄ロビ兄に群がり、小さなわたしがその輪から押し出される。

瞳よりちょっと薄い若草色のドレスのわたしは不安そうにしている。

見たところ、どこにも火傷の跡は見当たらなくてホッとした。

そのわたしに近寄る影。

ちびアダムだ。紫色の瞳。

「はじめまして、シュタイン嬢」

と手をとり、その手の甲に唇を落とした。

小さな歓声があちこちから巻き起こる。

そこに割って入ったのが兄さま。

「すみません、妹は人見知りですので」

と顔を見てまずったという顔になる。

「先に声をおかけした無礼をお許しください、殿下」

兄さまは非礼を詫びた。

「へー、よくわかったね? フランツ・シュタイン・ランディラカ」

兄さまは胸に手をあて、首を垂れる。

「ユオブリアの小さき太陽にご挨拶申し上げます」

周りの子たちが一斉に礼を尽くす。

小さなリディアもカーテシーをしている。

「弟のお茶会を見にきただけだ。みんな私のことは気にしないでくれ」

と言われてもね。

ざわざわっとしたと思ったらちびロサの登場。

「兄上、どうしてこちらにいらっしゃるのですか?」

「可愛い弟の晴れ舞台を見にきたんじゃないか?」

「兄上がいたら、みんなイシュクしてしまいますー」

ロサは頬を膨らませた。

そんな子供っぽい仕草を見たことがないのでちょっと驚いた。

「そんなことないよ。さぁ、もうみんな集まっているよ。

ブレド、しっかりおもてなしをしないとね」

ロサは元気よくうなずく。

「皆、よく来てくれた。ここは私の恩師の家もである。今日は快く場所を貸してくださった。

同じ年頃の子供同士だ、楽しい時間を過ごそう」

メイドさんがクルクルと動き、ウエルカムドリンクが配られる。

中は果汁のジュースだろうけど、大人になったようだとみんな嬉しそうにしていた。