作品タイトル不明
第1242話 シナリオ❷シミ
シュタイン領主は、お悔やみに訪れたあたしたちに感謝の言葉を言ったけれど、その目はどこも見ていなかった。
「ご令嬢はどちらに? うちのアイリスが挨拶をしたいと」
「ああ、そうかい、ありがとう。
リディーは、あの子はどこだろう?」
そう言いながら、全然探す気がない。
「リーはお外だよ」
「外だ」
うわー、そっくりな男の子ふたり。とても可愛らしい男の子たちだった。
そうか、令嬢は外にいるのね。
「誰か、呼んで来てくれ」
「畏まりました」
そう頭を下げた女性は嫌そうな顔をしていた。
メイド服ではない、もっと粗末な服を着ている。
それは見覚えのある平民の服装だ。
お父さまに告げて、あたしは女性の後をついていく。
「まったく身内の葬儀だってのに、ひとりで外にでて何をやっているのかしら、お嬢さまは」
見下すような口調で、気持ちのいいものではなかった。
探しに行くのが嫌そうなので、あたし一人で行くというと、いいところのお嬢さんは違いますねぇと喜ばれた。
真冬の白い世界にポツンとあるひとつのシミ。
それがシュタイン家のご令嬢、リディア・シュタインだった。
大きさの合ってない大きな黒いワンピース。空ろな目。
孤児院のことを思い出した。
孤児院では着れる服を着る。服があるだけありがたい。
だから大きさの違う服なんて当たり前だ。
けれど、伯爵令嬢なはずなのに、どうして合わないものを着ているのかしら?
孤児院を嫌いではなかったけど、今の生活が身につくと戻るのは嫌と思える。
だからそれを思い出すような姿を見るのは、なんとなく嫌だった。
近づいていっても女の子は反応しなかった。
だから声をかけた。
「ねぇ、あなた、リディア・シュタインでしょう?」
小さな女の子はのろのろと振り返る。
パンと頭の中で両手を合わせたような音がした。
目の前に見覚えのある……わたしだ、小さなわたしだ。
黒いぶかぶかのワンピースを着て、空な目でわたしを見上げた。
わたし? そうわたし。
アイリス・カートライト。
え? 違う。わたし、わたしはリディア・シュタイン!
ぽふんとピンクの髪の子からわたしは飛び出た。
半透明。でも、これがわたしだ。リディア・シュタインだ。
ピンクの髪の女の子と、小さなわたしが向き合っている。
「お母さんが死んじゃったんでしょう?」
!
あ、黒い服、喪服。
そうだ、精神的攻撃を浄化するって声が聞こえて……。
これは、何?
お母さんが死んだ?
アイリスはリディアに向かって言っている。
母さまが死んだ!?
……ここはそういう世界なんだ。
ここは母さまが亡くなってしまった世界……。
もしかして、これが本来のシナリオ?
アイリスは小さなリディアに一歩一歩近づいていく。
小さなリディアは怯えている。
「悲しい?」
アイリスは首を傾げ、笑みを浮かべて問いかけた。
「でも、全然だいじょーぶよ。あたしもお母さんいないの。お父さんもいなかった。新しくお父さんが今はできたけどね」
屈託なくアイリスは笑う。
「友達になろう! ね、お母さんなんかいなくたって、だいじょーぶだから」
!
アイリスには悪気がない。それはわかる。本心だろう。
彼女なりの励ましなのもわかる。けれど、他に身の置き場がなく、家族にだけ心を開いていたリディアには、とても残酷な言葉のはず。
リディアがうつむく。自分の中で暴れる何かに耐えるように。
ゆっくりとリディアが顔をあげる。
目に強い意志があった。それは「許さない」と語っている。
あんたに何がわかる、と。わたしの気持ちを決めつけるな、と。
小さなわたしの中からでた何かが突風となり、草や花や木を割き、大地を抉る。
! 魔力の暴走?
「きゃーーーーーーーーーーーっ」
アイリスの悲鳴。
「痛い! やめて!」
アイリスが自分を庇って手を前に出すと、そこから魔力が出て、小さなわたしは後ろに吹っ飛ぶ。意識を失ったわたしからいくつもの色の風が出て取り巻き、わたしを上にあげていく。
「破!」
第三者の声がする。振り返ると、ちびアダム?
ロサと同じ明るい金髪に紫色の瞳。
手を前に突き出し、放出した魔でわたしを取り巻いていた色が消えた。
地面に落ちる前に、ちびアダムはわたしを捕まえる。
「おい、そっちは大丈夫か?」
声が高い。子供の声だ。
「そっちって、あなた失礼ね!」
「助けてやったのに礼のひとつも言えない方が失礼だと思うけど?」
アイリスは頬を膨らませて、アダムに突進していく。
「リディア嬢はどうしちゃったの?」
「魔力の暴走だ」
小さくてもさすがだ。魔力の暴走ってわかったんだ……。
「魔力の、暴走?」
「おい聖女」
「聖女? 誰が?」
「お前、聖女だろ? さっき力を使った」
「何言ってるの? あたしは聖女なんかじゃないわ。それより、どうしたらリディア嬢は起きるの?」
「体が回復したら起きるだろ。あとはよろしく」
「ちょっと、待ってよ。あたしじゃ運べない。ねぇ、待って、あなたは誰?」
「名乗れる者ではない。親のしたことがどんな結果になったのか、気になっただけだから」
ちびアダムは暗い目でそう告げた。
アイリスはリディアを引きずろうとして、大して動けないことを知る。
これは人を呼んできた方がいいと思ったのか、リディアを地面に寝かせ、家へと向かって走っていく。
リディアの顔色は最悪だ。頬もげっそりこけているし、痩せ細っている。
大きな音をたて玄関のドアが開いて、走ってくる3人の男の子。
兄さまとアラ兄、ロビ兄だ。
「リディー!」
「リー」
「リー」
その後ろ、かなり遅れて、アイリスが走ってきた。