作品タイトル不明
第1238話 聖域の特定❷誘い文句
イザークがカードで負けたときのお題は「苦手なこと」だった。
イザークはチラッとわたしを見てから
「女性と話すのが苦手だ」
と言った。
「あ、自覚あったんだ」
と身も蓋もないことを言ったのはアダム。
「あら、わたしとは普通に話しているじゃん?」
「だから〝女性〟と言った」
と視線を背ける。
「それ、わたしは女性じゃないって言いたいわけ?」
「んー、なんていうか、君は女の子」
あん!? 14歳の淑女をつかまえて〝女の子〟?
「まぁまぁ。小さい頃から知ってるからってのもあるんじゃないかな」
ルシオからフォローが入る。
「女性の何が苦手なんだ?」
兄さまが尋ねる。
「会話が成り立たない、魔物級に手強い」
「ラ家の伯爵令嬢をエスコートしてたろ、話が続かなかったのか?」
へー、イザークが令嬢をエスコートねぇ。
みんなそういうお年頃になったんだね。
と言うのは、前からイザークは令嬢のエスコートをするぐらいなら魔術札1000枚作る方がマシと豪語してた。魔術札とは魔具のお札版みたいなもので、魔術師が自分の魔力で札に、たとえば火の魔法を込めておく。それを破ると火が飛び出すみたいなもの。
お手軽ではあるけれど魔術師の魔力で作りあげるので高価。ゆえに魔具の方が認識されている。魔術師となると最初はこの魔術札を一日中作らされるそうで、これが非常に辛いことで辞めていく人もいるぐらいで、最初の難関と言われているそうだ。だけど、イザークはエスコートより札作る方がいいって言ってたぐらいだった。
イザークはオーラが見える特異性を生かす意味で、幼い頃から魔術師の肩書きを持っていた。そして札作りは誰よりもやらされていた。
嫌だとしても参加しなくちゃならなくて、そういう年頃になったんだね。と感慨深く思ってしまう。
「休みの日は何をするか聞かれたんだ」
「それで?」
「本を買いに行ったり、図書館に行ったりすることが多いと言った」
「うんうん」
「そしたら、9番通りのミグールのパイは美味しいって評判ですわって言うんだよ。
私は本の話しかしてないのに、話が飛んで全く意味がわからない。
それだけじゃない。その後も一時が万事その調子で。
女性とは意味不明な生き物だ」
みんなおでこに手をやってはーっと息を吐き出す。
「イザーク、そこまで重症だとは……」
「重症? 何が?」
『9番通りは図書館のある通りでしょう。デートのお誘いだったのですよ』
みんな揃ってベアを見た。
心の機微がわかる魔物、ベア!
王都の様子もわかっている魔物!
そして魔物のベアがわかることに気づけない、人族歴17歳のイザーク。
「ベアに弟子入りさせてもらえば?」
「え、本当に!? あれが誘い文句だったのか?」
「ダメだこりゃ」
「フランツ、フランツもわからないだろう?」
「わたしはリディーにそう言われたら、その場でミグールの店に直行するよ」
兄さま、話す女子はわたし限定でしか考えてない。
「フランツも特殊だけど、魔術以外の本も読んだ方がいいんじゃないか?」
アダムに諭されると、イザークは頭を抱えた。
それから体力を温存するのに少しだけ眠り。
吹雪が少しマシになっていたので、上を目指すことにした。
ゴミのように降ってくる雪。
ほぼ氷の山の地。
「あれ?」
ルシオが声を上げた。
「どうした?」
「ここ、さっきテントを張ったところじゃないか?」
え?
シャーベット状に薄く積もっている雪を足で蹴ると、さっき楔を打ち込んでいた穴があった。
ってことはわたしたち上に登っているつもりで同じところをぐるぐるしていた?
『聖なる力とは相容れない聖域のようだな。我の鼻では気がつかなかった』
「聖域といっても聖なるものと、別のものもあるということですか?」
『聖なる方の意が加わったもの、それが本来の聖域だが……。聖なる方より上の方なら聖域を作ることも可能。我にはわからない』
聖なる方より上……。
聖なる方と神々は同等。
上といったら、創造主、ということね。
ここは創造主が作った氷の山。
まるで外からの侵入を拒むように。
拒んで何かを閉じ込めて守るように作られた籠城。
「これ以上は進めないってことか?」
「イザーク、魔力を感じたり、オーラが見えたりしないか?」
「悪いが、みんなの魔力とオーラしか感じない」
「ルシオは?」
兄さまが尋ねる。
「すみません、何も感じません」
わたしたちはもう一度慎重に上へと歩き出した。
ハンカチを埋めた。
もしまたここに来てしまったらわかるように。
そうして、結構上へと登ったはずなのに、やはりハンカチのところに戻っていた。
「これは……休もう」
テントを張って、中に入る。
あったかい。ドラゴンちゃんたちも寒かったのか、わたしから離れない。
いい案も浮かばないので、今日はもうここで休むことにした。
いつから同じところをぐるぐるしているのかはわからない。
どおりで上を見上げると、いつまでも山頂まで遠いはずだ。
聖域とはこういうつくりのものなのかを兄さまがもふさまに聞いた。
もふさまがいうにはたどり着く前に迷宮のようになっているところも確かにあるとのこと。
でも大体わかりにくいところにあるというより、精神阻害のような守りがかけられていることがほとんだと言った。
もふさまの水浴びをする聖域も、家がある聖域も、人は避けるような精神的な何かに訴える作りになっている。
だからわたしが迷い込んできて、とても驚いたと言った。
「どうやってリディア嬢は行ったの?」
「わからない。迷子になって、家は高いところにあるから、高いところに向かうってそれだけ思って歩いてた。そしたら水の音が聞こえて、いつもの川原にそこから行けるって思ったの」
行ってみたらみたことのない場所で滝なんかもあって、絶望的に違うってわかったけど、川だったら繋がっているだろうから、川を追っていけば知ってるところに出ると思ったんだよね。
「音か。それは手がかりになりそうだ」
「何かが隠れているなら、引っ張り出すとかもありだね」
「どうやって?」
わたしは思い出して笑ってしまった。
「何?」
「あ、前世のことでちょっと思い出して」
「え、なに?」
「あちらの神話みたいなもの。神さまが怒って岩の中に隠れちゃうの。その神さまは世界を照らす神さまだから暗くなった世界にみんなが困って、出てきてくださいってお願いしたりするんだけど、全然出てきてくれないの」
みんなうんうん聞いてくれてる。
「それでその岩の前で宴会をするの」
「は?」
「飲めや踊れやで楽しそうにして。外で何をやってるのかな?って隠れた神さまは気になって岩をちょっと開けてその隙間から外を覗くの」
「へーそれで?」
「いろんな神さまが得意分野で気をひいて、最後は力持ちの神さまが岩の戸を開けたんだったかな」
「へー、どこも神さまってなんか、なんかだね」
ルシオ、言いたいことはわかるよ。
「それはいい案かもしれない」
へ?