作品タイトル不明
第1239話 聖域の特定❸諸悪の根源?
顎を触っていたアダムはニヤッとしてる。
「まさか……ここで宴をして誘き出すの?」
神話の話をしたのはわたしだけどさ。
「それもいいけど、〝君〟がいるじゃないか」
え?
「ここにいる何かは君に執着してるんだ。
君がきたとわかれば喜んで出てくるんじゃないかな?」
あのねー。それめっちゃ怖いんですけど!
「確かにそうだな。
会いに来たのだから早く終わらせるためにも、仕方がない」
と兄さままで。
……でもその通り。
わたしは会いに来たんだもの、怯んでいる場合じゃない。
わたしの顔を見て納得していると見てとったのかイザークがまとめる。
「明日、雪が小降りになったら、アピールしてみよう」
「こ、こんなところで躍るの?」
あの神話を持ち出すんじゃなかった。
「それもいいけど、君には手段があるじゃないか、聖歌という〝誘い文句〟が」
ここで罰ゲームの話をまた引き合いに出され、イザークは嫌そうな顔をしている。
なるほど。歌うのは踊るよりましだ。
今日はこのまま休み、明日の早い時間の吹雪がましなときに、やってみることにした。
わたしたちはゲームをし、罰ゲームを楽しんだ。
何かしていないと暗い気分になる。向かう先の相手のこともそうだし、テントの外が風がビュービュー吹いて雪のような氷が飛んできている。物珍しさはすっかりなくなり、気が滅入る要素になっている。
ゲームを楽しむのはもちろんなんだけど、罰ゲームは盛り上がる。
その罰ゲームを教えたのはわたしなので、悪いことしたような気にもなる。
前世で海賊をモチーフにしたおもちゃがあった。
海賊の規律を破った人のお仕置きを、ブラックユーモアーでおもちゃにしたのかな? ……考えてみるとそれを幼子のおもちゃに見立てたってブラック過ぎる!?
おもちゃは樽に黒ひげの海賊が入っていて、樽には無数の穴があり、そこに剣を差し込む。
ある箇所に剣を差し込むと海賊が飛び出す。それが助けたことになるみたいなんだけど……。で、大人になってから、海賊を飛び出させた人が勝ちと聞いて驚いた。
勝ちだったんだーと。遊び方はいろいろでルールは自分たちで決めていいそうなんだけど。それでだろう。
わたしがやった頃は飛び出させた人が負けで、罰ゲームが待っていた。
その時気づいた。罰ゲームをするためにゲームをしていた節がある、と。
なんでも勝ちを決めるために戦いがあるのに。いつの間にか、トランプでもじゃんけんでも負けた人が負担をすることになる、それを決めるみたいな空気があった。
なんでわたしは勝ちを決めるゲームをしてこなかったのかなと、思ったことがある。……トスカになったときに、みんなで競争して、そのことをぼんやりと思い出したんだっけ。
今もこうして勝ちではなく、負けを決めるゲームをわたしが推奨したと思い当たり、微妙だと思った。
そんな思いをのせて時間は過ぎ、朝がきた。
ここで積もる雪は風で飛ばされていく。それがなんとも不思議な光景だった。風がおさまったとき、わたしたちはテントをしまった。
みんなを見ると頷いてくれたので、静かに歌い出す。いつかミラーダンジョンで歌った歌を。
遠くの故郷の花を思って。
アオが懐かしそうにしている。
ドラゴンちゃんたちも気に入ってるみたい……。
『リディア!』
急にもふさまが叫ぶ。
え? 振り返ったとき、暗闇の中にわたしひとりだった。
ーー諸悪の根源、リディア・シュタイン。恐れも知らずここにやってこようとは
頭に響く声。高くも低くもなく。感情的でも機械的でもない。
確かに聞いたのに、誰かから何も聞こえなかったと言われたら、空耳かと納得してしまいそう。
だって聞いたそばから、〝音〟を忘れていく。どんな〝声〟だか思い出せない。
言葉は覚えているけれど。だから自分が作り出した虚構なんじゃないかと思える。
まだ微かに残っているうちに行動しなくちゃ。脳がエラーを起こす前に。
わたしは誰に向かってだかわからないけれどカーテシーで挨拶する。
「ごきげんよう。わたしの仲間はどうしたのでしょう?」
ーー弾いてやった。リディア・シュタインのことなど、すぐに忘れ生きていくだろう
とりあえず無事みたいだ、ならいい。
「わたしに会いたかったのでしょう? あの手この手を使って、ずいぶん執着してくれたようだから? お名前をうかがっても? あなたはわたしを知っているのに、わたしがあなたを知らないのは不公平ではなくて?」
ーーハッ、不公平? どの口が言うのか!?
まぁいい、せっかく来たのだ。我はこの世界の創造主
そうじゃないかと思っていたけれど、これではっきりした。
交代された方の創造主さまではありえない。
なぜなら、本物の創造主ならわたしなんかどうとでもできるから。
この聖域に囚われている、封印されている、この世界に生命を吹き込んだ見習い神さまだ。その罰として封印されたという。
封印されているから直接力を使うことはできない。
力を全開で使うことはできない。けれど、手を駆使して、わたしを苦しめようとした方。
「この世界に命を吹き込んでくださった、見習い神さまですね?」
空気が揺れた。動揺している。
ーーなぜ知っている?
「命を吹き込んでくれたことをですか? それとも見習い神さまということをですか?」
ーー両方だ
「神さまから伝え聞いてきました。創世記として。この世界ができた時のことを」
無言だから言葉を付け足す。
「見習いの神さまが命を吹き込むことは禁じられたこと。
だから見習い神さまは封印されることになった。それがまさか〝世界〟の中だとは驚きました。そして封印が解けかかっていることも……」