作品タイトル不明
第1234話 保険(後編)
「ご連絡しましたように、この者が保護対象と離れないというので、判断はつけられず連れて参りました」
後ろから入ってきたリーダー格の男がアカさんに報告する。
「その者がいたのなら、あなたの判断は間違っていません。
この砦、総出で掛かっても、勝ち目はありません」
後ろで息を呑む気配。
「容易く逃げ切れるあなたが、わざわざ捕まりにきたのはなぜです?
ここを潰すため?
でも賢いあなたならわかっているはず。
バッカスは個々で縁を結んだ烏合の衆。
この砦を制圧したからといってバッカスの全てがわかるわけではないし、私たちを倒しても同じような指令を受けたものが出てくるだけで、何も変わりませんよ」
「逃げるのに飽きたんです」
そのセリフには実感がこもっていた。
「セインといいバッカスといい、自分の利益だけを考えて相手を蹴落とすことだけを考える者が湧いて出る」
「あなたも同じなのでは?」
アダムはアカさんを見つめて、やがて言った。
「……違いない」
そして室内を見渡す。
「彼女を休ませたいのですが? 保護というからには手厚くもてなす準備があるのですよね?」
「……いいでしょう、奥の間に。侍女などはおりませんが。休める部屋を用意してあります」
アダムは頷いてアカさんの後をついていく。
岩の中を切り抜いたような作りなので、ドアはない。
元の岩を利用し高さを残したところに布が置かれていた。
アダムがわたしを下ろして、その布をチェックする。
ぺらっとした布かと思いきや、割と厚さのあるものだ。
布を敷き直すと、アダムはそこにわたしを促した。とりあえず腰かけてみる。
岩の冷たさを感じさせない布であり、岩の硬さも感じられない。衝撃を吸収するスポンジみたいな構造の布なんだろう。確かに布にしては厚みはあるけれど、スポンジが入っているようには見えない。っていうか、これぐらいの厚みで硬さによる衝撃を弱める素材って何を使ってるわけ?
わたしはそちらに興味がいった。
「リディア嬢。ここは変なものも仕掛けられていないし、少し眠るといい」
「アダムは?」
「話をする」
「じゃあ、わたしも」
「君は疲れてる。眠るんだ」
「ずっと運ばれてたんだから疲れてない。疲れてるのはアダムの方でしょ?」
「いいから、君は体を休めて」
わたしの肩を押して強引に寝かせようとする。そして小声で言った。
「夜中に動くから寝ておいて」
アダムは脱出するつもりみたい。
それに異論はないけれど
「わかった」
「ここは安全だ。大丈夫だから」
アダムが皆を連れて出て行った。
アダムは情報を得るつもりなのかな?
逃げるっていっても、ここおそらく第六大陸だ。
土地勘もないところで逃げるのは分が悪い。
それに馬もいないし。ノエルだって第六は来たことがない。
頑張ってルームのあるあの小屋まで行かないと。
アダムたちが何か話しているのが低音で聞こえる。でも言葉まではわからない。
耳をそば立てようとして、ふと虫がいないか探す。
何もいないな。
ベッドを模したものから降りて、出入り口の穴に近づく。
そっと耳を澄ませると、さっきと同じように話しているのはわかるけど、話している内容はわからない。
盗聴防止の魔具を使われてる。
何よ、わたしにも聞かせたくないこと?
出ていって話し合いに混ざるか。
でもまた眠れ、眠れないの言い合いになっても面倒だし。後で聞くとして。
夜に動くなら眠っておいたほうがいいのか。
眠れないだろうと思っていたものの、布の上で横になり、軽い上掛けを出してくるまっていたらいつの間にか眠っていた。
起きたのはアダムの声でだ。
「リディア嬢、起きて」
うっすら目を開けて、慌てて目をこする。
爆睡してた!
「お腹空いてると思うけど、逃げるよ」
え?
隣の部屋に行くと3人の男の人たちがバラバラに地面に横になってる。
眠ってるんじゃなくて、アダムの手でお眠りになってもらったんだろう。
迷宮のような岩穴基地をアダムはためらいなく進む。
こういう時、マップの出番だと思うんだけど、きちんと地下一階、二階みたいになっていれば別だけど、半下階みたいな作りで重なっている何かがあると、わたしのマップでは表すのは難しいみたいで、全部重なっちゃって、どれが道だかわからなくなってしまう。レベルが高くなるとこれは解消されるのかな?
ってレベルが高くなる前に魔力を封印した場合、マップ自体も表示できなくなるんだろうなと落ち込む要素となった。
地上に出ると一頭のギャンが繋がれていた。
まさか?
だってギャンって4つ足歩行じゃないんだよ。後ろのふたつ足歩行。
尻尾がそりかえっていて、その尻尾に寄りかかるようにしてお尻のところに座るみたいなんだけど。こ、これに乗るの?
「ギャンの尻尾にしがみつくのと、僕にしがみつくのどっちがいい?」
ギャンの尻尾にしがみつく?
あ。後ろ向きに座ってギャンの尻尾にしがみつくのか。進行方向と反対向いての移動になるのよね、それは怖い。
「アダムにしがみつく」
とアダムは小さい子を扱うようにわたしの脇を持ち上げて、ギャンの尻尾にわたしを座らせた。その前に自分は座り込み、自分に捕まるように言った。
これ、他に補助はない、すっごい怖いよ。
わたしはアダムの背中にギュッと抱きついた。