軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1233話 保険(前編)

アダムが短く声をあげたので、わたしもそちらに目をやった。

と、アダムが走り出す。わたしを小脇に抱えて。

あまりの速さに目がチカチカする。

斜め下の角度から見ても完璧な美しすぎる顔。

疲れは見えなくて、でも何かを考えているように見える。

「リディア嬢、疲れた。もう歩けない」

え?

嘘。

アダムはいきなりストップした。

え、全然疲れているようには見えないけど、疲れた?

そりゃわたしを抱えているから、普通に走るより疲れているだろうけど。

超人的なアダムは、これくらいで疲れるとはとても思えなくて。汗もかいてないし。

「お、おりるよ。あ、スケボー出す?」

アダムは首を静かに横に振る。

「このままいるとどうなると思う?」

「そりゃ、捕まるよ」

追いかけてきた人たちが見えてきた。

「捕まろっか」

「な、なに言ってんの? わたしは嫌よ、バッカスに捕まるなんて」

「でも向こうは君を保護しにきたって。君を傷つけるつもりはないみたいだ」

「そんなの表向きに決まってるじゃない」

「でも物理的に傷つける気はないから、赤い点じゃないんだろ?」

「それはそうだけど。それでも、バッカスは嫌」

「バッカスより、ガゴチがいい?」

なんでそうなる!?

「どっちも嫌に決まってるでしょ!」

「逃げても追ってくるし、叩き潰したら反感を買う。

今は君に何事もなく逃げ切ることが大切だ。

だから一度願いを叶えるんだ。保護してもらおう、保険になる」

空いた口が塞がらない。

「それで済むわけないでしょ!?」

捕まったら最後、向こうの望みが叶うまで、囚われるに決まってる。

そしてその望みは、わたしが望まないこと。絶望したくなるぐらいやりたくないことだろう。

「僕の強さ、知ってるよね。絶対にノエルのところまで届けるから。

君には奴らを触れさせない」

追いかけられている時に、ずいぶん悠長に話していた。当たり前だけど、追いつかれた。

「追いかっけっこはやめたのか?」

はーはーしながら言われても、イキがってるセリフにしか聞こえない。

「招待を受けることにしよう」

「アダム!」

「女を置け」

「大切な人なんだ。私も一緒に行く、それが条件だ」

「……それは我らでは判断できない」

「直談判するからいいよ。ここで逃げられるより、余計なのがついていても連れて行ったほうがいいんじゃないか?」

少しの間。

「いいだろう」

いいのか!?

アダムはバッカスを探ろうとしてるの?

アダムはわたしを下ろそうとしなかった。

荒れた地を走ったら車輪がとんで行きそうな年季の入った馬車に乗れと言われる。

アダムはそこでもわたしを膝に乗せたまま。

目隠しをしろと言われて、アダムが断った。

ため息をついたリーダー格の男は、どうせわからないからいっかとひとりごちた。

少し馬車を走らせたところで、歩みが遅くなる。

なんだろうと思っていると、

「目をつむっていた方がいいぞ、酔う」

酔う?

浮いた?

え?

わたしを捕まえているアダムの手に力が入る。

その体がふわっとなる気持ち悪い感じは一瞬だった。

馬はそのままゆるーい感じで歩き続け。

景色が違う。窓からの景色がさっきまでの田舎の街道ではなく、天気がいいのに木についた水蒸気が凍った世界。風が吹くとシャラシャラとシャーベット状の音がしそう。ここは第六大陸?

転移した? 馬車ごと?

バッカスにも転移できる人がいるんだ。

それも馬車ごと。結構な容量というか重量ができることがうかがえる。

でもって、だからバッカスは捕まえにくいのかと思えた。

遠くに山が見える。銀龍の住まう山とは違う方面みたい。ってことはオーランドの方向?

馬車が止まる。ガタガタして。

小さな窓から外を見ていると、馬が連れて行かれてる。

そっかこの氷の上を歩くのに適した、ギャンみたいな獣に変えられているのかもしれない。その馬はどうするんだろうと思ったけど、聞くのもなんなので黙っておいた。

それから2時間ぐらい移動したかな。

岩が聳え立つようなところに入る。まるで自然の迷宮。岩がいろんな大きさ、形、角度で地面に突き刺さっていて、その合間を馬車が行く。

きっといくつもある岩の合間を一つでも間違えたら、奴らのアジトにはいけないのだろう。馬車が止まり、降りろと言われる。

アダムはわたしを担ぎ上げて馬車を出た。何度も降りると抵抗はしたんだけど。

やっぱりアジトだ。バッカスは地下が好きね。

自然が作り上げたんだろう岩の砦。

その中に入っていく。

入ると灯りが灯る。アリの巣を彷彿させる作りだ。

アリの巣は地面が土。ここは岩という違いはあるけれど。

右に曲がれと言われてアダムが従うと、岩の穴がある。そこに入るように言われ、アダムは器用にわたしを抱き上げたままそこに入る。

と中は部屋のようになっていて、知っている人がいた。

「また、お会いしましたね」

無表情にそう言われる。

彼は第一大陸の宰相だったアカさん。

王がわたしたちに自分たちの祖先はカザエルだと暴露した時に道をたがえた。

真実を知るものは葬り去ると語った人。

そのためにバッカスに身をおいた人。

これ、保護じゃなくて、思い切りわたしたちアウトなんじゃあ……?

顔がこわばって、言葉が出てこなかった。