作品タイトル不明
第1232話 ガゴチの花嫁⓱暗闇
「リディア嬢?」
暗闇の中、窺うようなアダムの声。
「……泣いてる?」
! しっかりした仕切りだと安心してたけど、向こうまで声が漏れてた。
今更、誤魔化すのは不自然……。
「ご、ごめん。聞こえちゃった?
あのね、もふさまに……もふもふ軍団と離れ離れで……」
みんなと話せなくなって。みんなが何言ってるかわからなくなって。
ダンジョンにも行かなくなったら、みんなどっか行っちゃうよね。
だって話せなかったら、特にここにいる意味ないもん。
みんなと離れ離れに……。
え?
布団ごとぎゅっと抱きしめられてる?
「ごめんね。ここにいるのがフランツだったら、君は泣かずにいるんだろう。
ここにいたのが僕でごめんね」
言葉がでなくて、ただ首を横に振る。
「お遣いさまもすました顔で淋しがってるよ」
もふさまを思い浮かべた。
笑いたくなって、泣きたくなった。
さめざめと泣いた。なんで泣いてるのかわからなくなるほど。
アダムはずっとぎゅっとしてくれていて。
気がつくと、朝だった。
後から細工した窓と呼ぶ穴から陽の光が漏れている。
やっぱりわたしは布団にくるまっていて、ぎゅっとされていた。
モゾモゾと動いて顔を出すと、すぐそこにアダムの顔があって驚いた。
起きたてのはずなのに、なに麗しい顔してんのよ、あんた。
わたしなんか泣きはらした目のはずだし、そのまま眠ってひどい顔してるだろうに。この違いは、落差をつけすぎだ。なんかよくわからないけど文句を言いたくなる。
「起きたみたいだね、泣き虫さん」
…………。
「ごめんね、急に淋しくなっちゃったの。アダム、眠れた?」
布団をぎゅっとしてたってことはアダムは何もかけてなかっただろう。
風邪ひいてない?
と尋ねれば、そんなやわじゃないとのこと。
まぁ夏用の軽めの布団だけどさ。
「それにしても、君にはいつも驚かされる」
からかうような口調の中に、本気の心配も感じられる。
「いつもなわけじゃないの。
しばらく隠れてなくちゃいけないから、それで少し不安定になったみたい」
「……そういうことにしておくよ。
でも、お遣いさまたちとは、もうすぐ合流できるよ。思い詰めないで」
「……うん」
うなずいて思い出した。アダムの動向だって、なんか不安があること。
「……わたし、泣くからね」
「え?」
「アダムと会えなくなっても泣くから。遠くへ行く時はせめて場所を教えといてよね。それでも離れてたら泣くから」
アダムはぽかんと口を開けている。
それでも顔面偏差値は遥かに基準越えしていて変わらないんだから羨ましい。
「君にあんなふうに、もう泣いてほしくない」
「どこにも行かなければ泣かないよ」
「……いろんな世界を見て回るのが夢だからな」
「その時は場所を教えてくれればいいよ。会いたい時に会いに行くから」
「そっか、君にはそれができるんだものね」
……魔力があればね。
そしてもう一つ思いつく。
わたしは加護が複数あったり、ドラゴンと話せたりする。と思われている。
だから奴隷解放の広告塔になれると思われるわけだし、そんな力があると思われてるみたい。
実際は奴隷の契約の輪をクラッシャーくんが 断(た) ったわけだけど。
でも魔力がなかったら、なくなったって周りに知らされたら、わたしを広告塔にとは誰も思わないだろう。それにクラッシャーくんだって魔力がなきゃ、何かを断つことはできない。
奴隷解放もできないと思われるだろうし。
結果、わたしはガゴチの花嫁にはならない。
皮肉だね。
決してガゴチの花嫁にはなりたくないのに、なれなくなるなんて。
朝ごはんを食べて身支度をする。
マップには赤丸が点在していた。
マップを頼りに、少し進んでは身を隠すを繰り返した。
一度赤丸とかなり接近をし、鑑定したらバッカスだった。バッカスも動いてる。
ユオブリアに戻った方が良さそうだ。
予定通りノエルが行ったことのある街に向かう。赤い丸は避けて。だから赤い丸ではなかった。何かが飛んできて馬が驚いて暴れる。アダムは手綱を操り馬を落ち着かせる。わたしを抱えたまま。
みみ元で、赤い丸じゃないね?と確認がはいる。そうだとうなずくと、アダムはわたしを抱えて馬から飛び降りる。
近くにいる黄色の人マークは5人。目視してるのも同じ人数だ。危害を加えるわけじゃないなら、なぜ囲まれる?
「鑑定結果は?」
アダムにぼそっと尋ねられる。
「バッカス」
わたしもそっと答える。
アダムはわたしを背に隠して尋ねる。
「なんの用だ?」
鋭い声だ。
「そちらのお嬢さんを保護しようと思ってね」
アダムの目が細まる。
「保護?」
「ガゴチに取り込まれそうになってるそうじゃないか。
ガゴチに入られたら厄介だからな。
その前に保護しろとのことだ」
「その必要はない。ガゴチに入ることもないし、保護を必要としていない」
保護だから、わたしに敵意がないのかな?
「保護してもらうほど、バッカスと親しくないはずだけど?」
わたしは尋ねた。
「ほぅ、これを見せなくてもわかるってわけか」
わたしたちと話していた男が袖をまくると、例の刺青が見えた。
「なぜあなたたちはわたしと関わろうとするの?」
アダムの背中から顔だけ出して尋ねる。
「そんなの俺たちが知るわけないさ。上から言われたことをするだけだ」
「何をしているかわからない、それでいいの? それで従うの?」
わたしは本気で意味がわからなくて尋ねてた。
「組織に賛同してるんだ。組織のやることを探らない、不信感を持たない。それが長くやっていくコツだよ、お嬢ちゃん」
「わたしはあなたたちと関わりたくないの!」
「5対1でも私の方が強そうだが、やり合うか、否か?」
うわー、言ってみたいセリフ。アダムが味方で良かった。
「そう言われても、こっちも上の命令には逆らえないんでね。
嬢ちゃんについて傷をつけるなってことだったけど、他の者には規定はねーぞ」
そう笑った顔はいかにも悪どそうに見えた。