作品タイトル不明
第1230話 ガゴチの花嫁⓯短命の意味
昔兄さまが歌ってくれた光の使い手への想い歌を思い出した。
誰かを救おうと一生懸命になりすぎて命を減らすことも厭わない人のために、私があなたの命をつなぎ止めたいのです
歌だからいいようにとってると思ったけど、ある意味正確な指摘なのかもしれない。
そういう人もいるって受け止められているみたいだけどそうじゃなくて、光の使い手は誰もが無意識に引き取っちゃうんじゃないかな。
母さまを蝕んでいたあの嫌な何かはそれだったんじゃないかな?
おばあさまたちは若い頃に光魔法をいっぱい使い、それで光魔法自体が使えなくなってしまった。そう、だから無意識に浄化して自分が蝕まれることなく生きている。
母さまや母さまの姉さまや従姉妹は、光魔法を職業として頻繁に使いはしなかった。だけど、無意識に浄化をしていた。だから若い段階で蝕まれ命まで落とした。辻褄が合う。
呪術を浄化したら呪術の痕跡が残り、それもまた厄介で。
光魔法を使えば枯れるし、光魔法をあまり使わずにいても無意識に自分で取り込んで浄化して、命を削る。
「臓器が損傷していないのが不思議なくらいで、君の周りにも光属性がいて、君を癒しているのかな?」
オババさまに言われたのと同じ感がある。
わたしは呪術を浄化して、そのカスが残っていた。それが広がっていないのは近くに聖なるものがいたからだろうって。
わたしはよくないものを溜め込みやすいのかもしれない。でももふさまがいたから。ずっともふさまと一緒だったから、惨事とならずにいられたんだ。
「大司祭さま。わたしの中の蝕んでいるものを浄化するのは、やはり光でしかできないことですか? もしこのまま無意識を続けていったら、わたしはどうなりますか?」
「聖水は少しは効きますが根本的な浄化にはならない。聖酒も同じ。その場しのぎと思ってください。光魔法で浄化はできると思いますが。恐らく無意識に何かの痛みを引き取っている、その根本がなくならないと意味がないでしょう」
「……光魔法のみを封印するやり方ってあるんですか?」
「いいえ。残念ですが。方法として魔力自体を封印するんです」
魔力を封印?
「魔力を封印するということは、魔法はすべて使えなくなるんですよね?」
「……そうなります。でも大切にするべきは命だと思いますよ。
封印をしてくれる施設を紹介することはできます。
気持ちが決まったらいつでも連絡をください」
「……ありがとうございます。司祭さま、兄にも殿下にもこのことは秘密にしていただけますか?」
司祭さまは痛みを感じたような顔をした。
「時を見計らって話します」
話さないといけないだろう。ただ今は話せない。
「話しにくくありませんか? 第三者が伝える方がいいこともあります」
わたしは静かに首を横に振る。
「わたしは今14歳です。5歳の時から無意識に使い、9年間かけて蝕まれてきたとします。わたしにはあとどれくらい猶予はありますか? あと2年は大丈夫ですよね?」
終焉の時に魔法が使えなかったら、それはまずい。
「あと2年くらいは大丈夫だと思いますが絶対ではありません。それまでも無意識に痛みを引き取らないように訓練する施設に行きませんか?」
「……ありがとうございます。でも施設には行きません」
「……そうですか」
「ご提案くださったのに、すみません。ありがとうございます」
わたしはぺこりと頭を下げた。
「いえ、何もできなくてすみません」
「教えていただけてありがたいです」
魔力を手放すまでに2年という猶予があるのもありがたい。
2年もあれば、魔力が使えなくなる生活を想像して困らないような魔具を作っておくことも可能。
……魔法のない生活……。ああダメだ。考えるのはあと。
アダムは察しがいいから、うなだれてたらすぐにバレる。
そしたらきっと言う。すぐに封印するべきだと。
誰にバレてもきっとそう言われる。命の方が大事だと。
わたしもそう思う。
わたしの命だ。とっても大事。だけど、大事なものは他にもいっぱいある。
そのいっぱいを守るのに、わたしは魔法を頼ってた……。
「司祭さま兄に、浄化に失敗したのかよくないものが身体にあるってことにしてもらっていいですか? わたしが言います。司祭さまは何もおっしゃらないでいてくだされば」
「……それでいいのですか?」
「はい、それを望みます」
「……わかりました」
「ありがとうございます」
頬を叩く。しゃんとする。
司祭さまがドアを開けると、入室許可をもらってからアダムが入ってくる。
余裕な顔で笑みを浮かべているけれど、心配していたことはわかる。
「どうだった?」
「浄化に失敗したのかよくないものが身体にあるって。でも聖水とか光魔法の浄化でいけるって」
アダムはほうっと息を落とした。
「そうか、よかった。光魔法はしばらく使わないほうがいい」
「そうだね」
「大司祭さまありがとうございました」
アダムは包んでいたお布施を渡して、大司祭さまは控え目にそれを受け取った。