作品タイトル不明
第1229話 ガゴチの花嫁⓮司祭
わたしひとりだったら確実に落ちただろう。けれど落ちなかった。アダムが支えてくれたからだ。というか背中のアダムに全体重かけちゃっている。
アダムが強く手綱を引いて馬は落ち着いてきたけど、走れる状態じゃないみたい。
アダムは馬の上でわたしを俵担ぎして馬から飛び降りる。そして横の木々の間に入り、わたしを担いだまま走った。
「アダム、木の上に行ける?」
「見つかったら逃げ場がない」
「絶対いると思って見られなければ、存在がわかりにくくなる魔法がある」
アダムは少し屈んで跳躍した。木の上でわたしを立たせ、幹にしっかり抱きつかせる。
アダムはコインを落とし、風魔法で自分たちが走り去ったかのように遠くまで飛ばし痕跡を偽造した。
わたしは路傍の石を発動する。
今は路傍の猫だっけ?
わたしたちの事は誰も気づかない。わたしたちの気配はこの木と同化する。
しばらくして、ごろつき風貌の男たちが走っていく。
「足がはえぇ、追いつけねーぜ」
「女担いでだぞ、速度はそこまでじゃねー」
「馬を取りに戻ってくるんじゃ?」
「ひとり残してきた。俺たちは追うぞ」
息も絶え絶えになりつつ走っていった。
声も足音も聞こえなくなった。
アダムは口の前で指をたて、シーっと合図をし。
わたしを抱えて地面に降りた。
「鑑定した?」
「あ、ごめん、してない」
「人を鑑定するのに忌避があるみたいだね」
……アダムにはバレてるみたいだ。
「そんなこと言ってる場合じゃないのはわかってるんだけど、詰まるとこ覗き見だから」
「気持ちはわからないでもないけど、君は注目を集めることが多く、どこでどんな悪意を持たれることがあるかわからない。だから君にとって敵となるか見極めるのに、もう少し鑑定を使ってもいいんじゃないかな? とりあえず、〝まっぷ〟で危害加えるタイプの敵を判別するのはやってるんだよね?」
「あ、ごめん。忘れてた」
「謝らなくていいけど、自分の危険に繋がるんだから、危機感持とうか」
「……はい」
その通りすぎる。怒るわけでもなく淡々と、わたしのためを思っての発言なのもわかるので、地味に効く。
マップを展開させた。
あっちに赤い点多数とこっちに赤い点ひとつ。馬のところに残された人だね。
アダムに報告する。
「行き先はバレてるだろうから同じだな。馬を回収して行こう」
近づいた時に残っていた人を鑑定してくれと言われ、わたしはうなずく。
マップに探索をかけたので、わたしたちの周りに敵や人がいないことは見てとれる。
木に隠れるようにして街道に残してきた馬を見ると、馬好きな人が残ったみたいで、馬の首を撫でてやっている。
「セインの人だ」
「あそこはなんでこう湧いて出てくるんだ」
額を押さえてる。アダムの声、心底嫌そう。
でも本当そうだよね。捕まえて突き出し、捕まえて突き出しているのに湧いてくる。
赤の点、人自体も近くには彼しかいなかったので、アダムが後ろから忍び寄り気絶させた。
さっき馬が驚いてロデオのようになったのは、矢を射られ驚いたからだという。わたしの動体視力では捉えていなかった。
馬も落ち着いていたので、馬に乗って街へと急いだ。
この道に入ったってことは目指すべき街はバレているそうだ。
けれど街に赤い点はなかった。街へは、やはりアルトとメル設定で入り、夕方だったけど教会へ駆け込む。
ロサの名前とその印でわたしたちはすぐに特別室へと案内された。
父さまより10ぐらい上かな。司祭さまは部屋にいたわたしたちに慈悲深い笑みを向けた。
淡い金髪に薄い水色の瞳。
「神の子、司祭・ムナールと申します。ユオブリアのさる高貴なお方から、妹さまの身体を診るよう言づかりましたが、間違いありませんでしょうか?」
「はい、こちらのメルを診ていただきたいのです」
「承知いたしました」
わたしはひとりで診てもらうと言った。結果をアダムに聞かれるのは嫌だったから。
アダムは何か言いたそうだったけど、黙ってそのまま出て行った。
「ここに腰掛けて楽にしてください」
ソファーに腰掛けて深呼吸する。
前を見て、なるべく体から力を抜く。
司祭さまはわたしをじっくり見た後、おでこ付近に手をやる。10センチぐらい離れたところを。その手は頭の天っぺんに移動してから、目、鼻、口、顎、耳、首とまるで手のひらスキャンのように、わたしの体から少し離れたところを手でなぞっていく。
右肩と胸のところを何度か念入りにスキャンして、足や膝でも手は止まった。
「メルさんは光の使い手ですね?」
光の使い手ってわかるって事は……。なんとなく嫌な予感がしながらも、そうだと答えた。
「お兄さんに内緒なのかな?」
なんでそう思ったのかなと思ったのが伝わったようで、尋ねる前に理由が出てくる。
「結果をひとりで聞きたいと言ったから、光属性のことを言ってないのかと思いました。メルさんは不調があった。それで教会に来た。光魔法での何かしらの不調ではないかと思っていて、それをお兄さんに知られなくない」
経緯は違うけれど、結果はピッタリ賞。
「高貴な方と繋がりがあってよかったですね。あ、光属性だからか、なるほど。
ユオブリアの殿下はご存じということか。
ああ、すみません。司祭より上のクラスじゃないと、君の症状はわからないと思ってね、ここの予約が取れてよかった。司祭の祝福は半年待ちからが普通だし、何を隠そう私はそのひとつ上の大司祭なんだ。
他に仕事が多くて、こうして個人的に診る事はそうそうないから、君を診ることができてよかったと思ったんだ」
大司祭さまに当たるなんてラッキーだと思いながらも、嫌な予感が確信に変わっていく。
「光の使い手には多いんだ。無意識に浄化を引き受けていることがね。それは人のことがほとんどだけど、たまに大地や木や川など自然に繋がる人もいる。そのタイプかもしれないな」
わたしの魔力が馴染んだ領地。そして海の護り手さまの住まう海。
そんな地があることを思い出す。
「君は何かしらの痛みを自分で引き受けて浄化してきた。その汚れが散り積もって身体のあちこちに溜まっている」
その言葉で今度は母さまの中の呪術を浄化した時のことを思い出す。
呪いの他にも〝よくない〟何かを感じた。ああいう感じかな。
今まではわかってる気になっていただけだ。
光の使い手がどうして短命と言われているのか、初めて理解した。