作品タイトル不明
第1228話 ガゴチの花嫁⓭無意識
馬を走らせながら、アダムは教えてくれる。
依代というのは紙一重で危険なスキルだそう。
「人に乗っ取られ操られてしまうから?」
「それもそうだけど……懸念されるのは能力が高かった場合のことで、依代の力を人に移すことができた場合だね」
えっ。
「それって、誰かに乗り移れるってこと?」
「うーーん、あくまで依代だから、乗り移られる器となる能力を移せるってことみたいだ。乗り移るのも〝憑依〟の力がないとできなくて、憑依と依代これが対となっている」
「憑依って誰にでも乗り移れるわけではないのね?」
「ああ。依代体質のものか、例えば赤い石を口にさせた者とか、受け入れる器になってないと入れないみたいだ」
誰彼に憑依してこないのはそういう理由でもあったわけね。
それから、ロサたちとも連絡は取ったようで、今の段階でわかったことを教えてくれた。
セインの公爵は憑依が解けて、元の人格に戻ったそうだ。自分のやったことは覚えているけれど、なんでそこまでの熱量を持ってガゴチに乗り込んできたのかはよくわからないと言っていると。
ドラゴンの卵については否定をしていて、ユオブリアをどうやったら追い込めるかということはある人から紹介してもらった人に相談したとは白状したそうだ。まだそこまで。それが誰に紹介してもらって、誰に相談したかは口を割らない。
オス公子は見たまんま、しでかしたそのまんまで、深い意味はなく、ライバルであるセインの他の公子が企んでいるのを知って、有利に立とうと自分が先にやったという。留学するのに選ばれたから、その案も自分がやるのが相応しいと思ったと言っているそうだ。セインは悪事に対してのバリエーションが広すぎる!
っていうか、それだけユオブリアに迷惑をかけてくる人が多いってことだ。
「ユオブリアに帰って、少し隠遁生活になるだろ?」
「はー。やっぱりそうなるよね」
「その時にさ、司祭さまに身体を診てもらいにいかないか?」
「司祭、さまに?」
司祭って大神官の上の役職だよね?
「司祭さまに身体を診てもらうと何がわかるの?」
「たとえば穢れが溜まってる、とか」
「……アダムはわたしが、穢れに侵されてるって思うってこと?」
意外なことを言われて、頭がしゃっきり反応しない。アダムの思っていることの先がわからなかった。
「……君さ、無意識に光魔法使ってない?」
「え、無意識に? それはな……あ、エリアの歌がってこと?」
「いや、そうじゃなくて。歌はまた違うと思う。あれは回復だ。浄化とは少し違う気がする。
君、ブレドが瘴気を盛られたとき、自分に呪詛を移して回避して変化してる。その後も何度もあったよね? 自分にかけられたり精神への攻撃だけでなく、人が受けたのを君は自分に移してる」
唾をのんでいた。反論する言葉がなかったから。
確かに。自分が攻撃されたことはともかく、ロサだったりレオン先生だったりに盛られた何かをわたしが勝手に引き取っていた。
「呪詛や精神への攻撃だけでなく、君、周りの人の不調とか穢れとか無意識に自分に移してるんじゃないかって思ったんだ。
あの施設の創設者の話を聞いて、余計にそう思った。
思い返すと君の周りはみんな異様に元気だし、怪我をしてもかなり早く治る。みんなが丈夫だと思ってたけど、そうじゃなくて君がみんなの痛みを引き受けて自分で浄化しているんじゃないか? 君身体が丈夫じゃないのも、体力がないのも、それが原因じゃないかって思えるんだ」
それはないと思いながら、アダムはそんな観点からもわたしを見ていて、心配してたんだと気づく。
「君は違うと思うかもしれないけど、無意識がやってることだから、君にはわからないはず。だから司祭さまに君の中に穢れが溜まっていないか見てもらうといいと思って」
……そして司祭さまが溜まってないと言えば、アダムは安心するのか。
だったら、それもいいかもしれない。
「司祭さまってどこにいらっしゃるの?」
「フォルガードの第三神殿にいるはずだ」
「ここから遠い?」
「え?」
「フォルガードなんでしょ? もし近ければ。あ、予約入れなきゃ無理か、偉い人だもんね」
「診てもらうの嫌じゃない?」
「うん。わかればスッキリするし」
「そうか、なら第三神殿に行こう。途中でブレドに予約を頼んでもらう」
アダムの声が弾んだ。
なんで嬉しそう? わたしのことなのに……。
「アダム予言する。わたしは無意識に浄化してない。だって元気だもん」
「それに越したことはないよ」
心の中でありがとうと言う。
馬は走る。ふたりも乗せているのに、軽やかに。
街に入り、宿を取る。食事をして就寝。
また朝が来て、わたしたちは馬で移動。似ていない兄妹設定で。
アダムとふたりだけでこんな長いこと過ごすのは初めてだ。
それにもふさまやもふもふ軍団もいない、本当にふたりきり。
終焉の心配事を話したり、ベルゼの悪口を言ったり。
アダムも知っているD組のアダムの知らない出来事を話したり。
馬鹿話したり。思い出話をしたり、未来を語ったり。
何せふたりだからいろんな話をした。
3日目。第三神殿のある街に着くという。
馬に乗りながら、話をして。相変わらず笑ったり、考え込んで。
「君さ、何がしたいかわからなくなってるって言ってたけどさ」
「うん」
「話聞いてて、答えは出てるって思ったよ」
「え、答え? え。どこに?」
思わず振り返りそうになり、止められた。
謝って、ちゃんと前を向いているのに、わたしを支える手に力が入ったまま。
「アダム?」
「つけられてる」
「え?」
「飛ばす。口開くな、舌噛むぞ」
アダムは言い終わらないうちに、馬のお腹を足で蹴った。
馬が速度を上げる。
かなり早くなる。アダムがのしかかってくる。重みのままに前かがみになる。
顔を叩く風が痛い。
え!?
馬が急に鳴き声をあげて前足2本を上にあげた。
な、な、なんでーーーー?
お、落ちるぅ!