軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1222話 ガゴチの花嫁❼思い込み

籠の中からもふさまがトンっと出てきてお遣いさまサイズとなる。

それに合わせてロサと兄さまが立ち上がり、わたしの前に出た。

憑依。公爵の体を誰かが乗っ取ってる。

だって普通の人は胸を逸らしたからって、縛っていたロープがブチブチっと切れたりしない。

「女王、笑ワセル。女王ハリディア・シュタイン。

我ラガ求メルハ、リディア・シュタイン」

こわっ!

「リディア・シュタインノ涙ヲ手ニシタ者ガ世界ヲ統一スル」

ギギギと油が必要なブリキの人形みたいな感じでこちらを見上げてくる。

すっごい、すっごい怖いんですけど。

「リディア・シュタインは女王ではない! 女王はこちらだ!」

ガインが大声を出した。

「偽物ハ要ラヌ。偽物デハ世界ハ手ニ入ラヌ」

公爵が顎が抜けてもそこまで開かないだろう異常域まで口を開ける。

な、なんで口の奥が明るいの? 火の玉でも吹くの? ドラゴンブレスみたいなもの??

兄さまが細身の剣を抜いた。家宝の剣だ。

『リディア、下がれ!』

もふさまに包まれる。ドラゴンちゃんたちごと。

もふさまに抱きつき隙間から覗けば、やっぱり公爵は自身が砲弾口になったかのように火の玉を吐いた!

それがまっすぐ観客席のわたしたちの方に向かって……。

ロサが魔法で勢力を落とし、兄さまが火の玉を斬る!

火の玉は裂け、わたしたちのいる軌道を避けて飛び後方の壁に当たって音を響かせた。熱風がすごい。

また公爵が火の玉を吐こうとしたとき、公爵に光が当たって激しい爆音がした。

他のセインの貴族や議会の騎士たちは命からがら逃げたようだけど、そこで腰を抜かしている。

あの攻撃は!

もふさまが静かに息をのむのがわかった。

雰囲気を出した、着物を着崩したような格好。

公爵から距離を取りながらも近づいたのは、貸したスケボーに横立ちして、腕を組んだアダム。

けれど、髪色も目の色もいつもと全然違う。

ウィッグをつけていて、その白髪は腰より長い。

……かなりかっこいい。

誰かが「聖霊王さま……」と呟き、貴賓席からその言葉が広がっていく。

最初に言ったのはもちろんサクラの誰かだろうけど、あれが?という感じで身を乗り出している人もいる。信じているっぽい。

「誰ダ!?」

「堕ちつ、名前を剥奪された神は、もうそれもわからぬか」

すごい声量……。

アダムは憑依者が堕神と確信してるしているように言った。

兄さまの家宝の剣で攻撃をかわせたからか?

「マ、マサカ本当ニ、聖ナル者カ?

イヤ、有リ得ヌ。聖ナル者ガ地上ニ降リルワケガナイ」

「何、波長が合うものに寄せているだけのこと。

人族同士の諍いは仕方ないが、流石に堕ちたといえど曲がりなりに元神に邪魔されたくはない」

「邪魔ダト?」

なんか神がかっているというか。いや、神じゃないから聖なるものがかっているというか。アダムじゃないみたい。

っていうか、この状況、人族のアダムが堕神に喧嘩を売ってるってことで合ってる??

「堕ちてそれさえも忘れたか? 女王は我の花嫁」

「女王ハ聖霊王ノ花嫁。ソレハ地ニ降リルコトヲ許サレテイタ時ノコト」

ガインから聞いた〝女王とは聖霊王との子を為す存在〟と合致する。間違いないようだ。

それから公爵に憑依しているのも、名を剥奪され堕とされた元神ということも。

そうか、アダムは知り得ることを組み立てて予想して言ってるんだろうけど、あちらがそれに異を唱えないってことは当たってるってことだ。

こんな事実を探る方法があるなんて……というか、堕神といえども元神さまにアダム賭博が過ぎる!

そんなんで祟られたり、制裁下されたらどうするの?

っていうか、アダムが扮しているのは聖なる方だから、聖なる一派が怒りそうじゃないかと思えて、それを聞いた時もふさまにそっと尋ねたら、『ぱふぉーまんすというのは芝居のことなのだろう?』と言ってた。そう見逃してくれるってことだね。

「神聖国が蘇り、女王が立つ。女王がいれば聖霊が増える。子を天から送り禍つ者となるのは辛すぎる、もう邪魔してくれるな」

憑依された公爵の顔色が真っ白になっていく。

……本当にアダム?

なんか雰囲気が……それに。予想にしても何もかもわかっているようで。

そして憑依された公爵の顔色からそれが当たっているんじゃないかと思える。

神聖国の女王は聖霊王の花嫁。聖霊王の子である聖霊を魔力で生み出す存在。

〝子を天から送り禍つ者となるのは辛すぎる、もう邪魔してくれるな〟って、アレだよね。女神と子を成して精霊と名付けた。地上に送ったら女神の祝福が間に合わず、精霊のひとつである悠が瘴気《禍つ者》となった。

もう邪魔をするなってことは、この堕神が女神の不倫相手? 寝坊した原因となった……。時の河に流されたという……。

やだ、なんかすっごく噛み合っちゃったじゃない。

憑依された公爵は下を向いた。

「ウルサイ」

小さな呟きは〝うるさい〟と確かに言っている。

「我ハ裁キヲ受ケタ。コレ以上ニナイ裁キヲ」

そして顔を上げる。

「女王ハソッチノ小娘ダトガゴチハイッテル。聖霊王ノ邪魔ハシナイ。我、求メルハ、リディア・シュタイン!」

だから、なんでそうなる!?