軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1219話 ガゴチの花嫁❹儀式

4時起きだ。寝ぼけまなこでお風呂に入れられたわたしとは正反対に、ドラゴンちゃんたちは湯船の中で盛大に羽をはばたかせた。

う、お湯が顔に……。朝から元気だなぁ。

花びらの浮いた香だつ湯船に、もふさまは入らなかった。もふもふ軍団もそのもふさまのリュックの中だ。

お風呂が終わったら全身パックの肌ケア。それから香油を染み込ませ、そしてちょっとだけ水分を口にして、そのあとは身体中を締め上げられる。そして髪を芸術品と言っていいぐらいに結い上げてもらい、顔も描いてもらう。

第二大陸とはちょっと違うお化粧だ。キリッとした美女が第三大陸では好まれるんだね。鏡の中には気の強そうな、テキパキハキハキしてる印象を受ける女の子が写り込んでいた。

支度が済むと、もう会場へ向かう時間。

待っていてもらったロサと兄さまと一緒に歩き出す。

兄さまはわたしをエスコートする。

ふたりとも前髪を半分あげていて、大人っぽい装いだ。

馬車の中で向き合うと、ふたりはキラキラして見えた。

「リディア嬢、アダムから何か聞いてない?」

言われて頭の中に蘇る。

ーーリディア嬢、これだけは覚えておいて

恐ろしく整った顔を少しだけ歪ませて。

ーーこれだけは誓う。何があっても僕は君が傷つくようなことは決してしない

その時の切実なアダムの顔を思い出しながら、わたしは口にする。

「悩んでいることがあるって言ってた。愚痴を聞くならできるって言ったら、話す時が来たら話すって。

でも、昨日はもう迷いが晴れたみたいだったものね、決着づいたのかも。結局一人で解決したのかな」

わたしはいつも頼ってしまい、アダムはいつもそれに百点満点以上で応えてくれる。それなのに、わたしは何もできないんだな。

「そうか」

ロサは頷いて考えに迷い込む。

「あとは何か?」

兄さまに尋ねられる。

一瞬間が空いた。だから考える。

「んーー、特には……」

「そっか」

兄さまの長いまつ毛が伏せられる。

親指の爪を噛みそうになっていた。慌てて手を口元から離す。

「ふたりは? 何か聞いてないの?」

そう尋ねておいて、自分の思考に迷い込む。

アダムに言われたこと……。

わたし、どうして話さないんだろう?

「ああ、少しぐらい頼ってくれたっていいのにな」

ちょっと子供っぽい仕草でロサが言う。

「ロサ殿下にないんだ。私にはもちろんないよ」

なんでもできる人だから、人を頼るってことがわからないのかもしれないね。

「この件が終わったらみんなで吐かせよう!」

もう迷ってないなら、何があったか言えるかもしれないし。

これからアダムがひとりで悩んだ時、参考になる。

心に決める。白状してもらうわよ。

「どうやって?」

え? そ、そうね普通にしてたら言わないよね。

「えっと……酔わせて?」

「アダム、強いぞ」

「いいえ、兄さまがいるわ。兄さまはウワバミだもん!」

兄さまは苦笑いだ。

「そうだな、対抗できるのはフランツぐらいだろう。

それにしても、リディア嬢はこれからもフランツのことを〝兄さま〟って呼ぶのかい?」

「え?」

馬車が止まった。

窓から見ると、異国情緒が溢れていた。

いつもと違う。

そう……お城は西洋風ではなく、中華風という感じ。

馬車のドアが開き、ロサが降りる。

さっと別便で来たはずのブライが後ろに控える。

わたしは兄さまにエスコートしてもらいながら馬車から降りた。

大きな門だ。

その門をくぐると会場のようだ。

馬車は列になっていて、そこは降車口みたい。

いつまでもそこにいては邪魔になるので、門をくぐる。

ドラが鳴って驚く。

「ユオブリア王太子殿下、ブレド・ロサ・ミューア・トセ・ユオブリアさま入場」

先に入ったロサが入ると拍手があり、ロサは手を振ってそれに応えている。

慣れた感じだ。

まさか。わたしたちにもアナウンス入らないよね? 王族だけだよね?

「ユオブリア、シュタイン伯ご令嬢、リディア・シュタインさま。並びに、婚約者のフランツ・シュタイン・ランディラカさま入場」

わたしは兄さまと合わせて胸に手をやり、半分カーテシー。

聞いてない。聞いてないよ。こんな恥ずかしい入場があるなんて。

そのまま貴賓席に案内される。

ユオブリアからはわたしたちだけみたいだ。

第三大陸のご近所の方々が多い。

ドラゴンちゃんともふさまが入った籠はテーブルの上に置いてもらう。

わたしはロサと兄さまに挟まれた形だ。

後ろはガインの付き人の青髪が控えていた。

スタジアムと呼びたくなる外にある円形の会場。

貴賓席は観客席のようにぐるりと囲っている。

入場してきた門が閉じられた。

何もない会場にひとりの青年が歩いていく。赤髪だ。

赤髪は手に何も持っていなかった。マイクも拡声器もなかったけれど、赤髪の声は会場の全てに届く。

「本日はガゴチの歴史的瞬間に立ち会っていただくのにお集まりいただき、ありがとうございます」

胸の前で、パーにした手のひらに、反対の手の拳を打ち込んで黙礼した。

「ご存知の通り、我が国は神聖国跡地を保有しております。

このたび神聖国の主人である〝女王〟が見つかりました。

主人にあるべき場所に戻っていただくことになりました。

550年ぶりに神聖国跡地に女王が立ちます。

この奇跡を、近隣の皆さまと分かち合いたく、ご招待させていただきました。

どうぞ、この歴史的瞬間を一緒に祝ってください」

まばらな拍手が起こる。

輿が運ばれてきた。

それまで興味ないようにしていた人たちも身を乗り出しているのが見える。

そりゃ女王、気になるかもね。