作品タイトル不明
28-03 決定?
「さて、ジン、僕が進行役をしてみたいんだが、どうだろう?」
珍しく、ラインハルトがそんな提案をしてきた。
「それじゃあ、頼むよ」
仁は二つ返事でOKする。
「まずはジンへの質問だ。……ジン、今回のテーマについて、君にまず聞きたいことがある」
「何だろう?」
「まずは、魔法技術を一切使わないという選択肢はあるのかい?」
そもそも、現代地球の技術は魔法とは無縁である。そういったものを作りたいのかという質問である。過去に仁が作ったポンプ類はこれであろう。
もっとも、製作にあたり、工学魔法を使うことはあるかもしれないが。
「うーん、道具類ならまだしも、それは無理だな。だからそのつもりはないよ」
ラインハルトは頷いた。
「わかった。それじゃあ次だ。……既存の魔法技術の延長でいくのか、新規に何か取り入れさせるのか」
新規というのは飛行船のようなものを指すわけだが、これは難しい問題である。どこまでを既存の延長とするか、もあるからだ。それでも仁は、とりあえずの答えを口にした。
「それも、まずは既存の延長でいければいいと思っているよ」
再びラインハルトは頷く。
「わかった。それなら、ジン、君ではなく、そうだな……トアさん、あなたにお願いしましょうか」
「うん? 私は何をすればいいのかね?」
「トアさんが今回依頼された流通手段を作ると仮定して、それを我々……特にジンが助言するという形で話を進めるんですよ」
仁が主導すると、一気に高度な技術が出てくるから、とラインハルトは説明した。
「なるほど、それは面白そうだ。トアさん、お願いします」
「やってみよう。……まずは、おさらいだ。今、陸上での輸送は荷馬車が主だな。その場合の動力は馬だ。これを前提にしていくとどうなるかな?」
「馬の代わりにゴーレムですね。ですが、今、ゴーレムエンジンというものが存在するので、そっちを使ってもいいと思うんです」
* * *
こうしたやり取りを1時間、2時間と続けて、構想は出来上がっていった。
「それじゃあ、高架式のモノレールにしたい、とジン君はいうんだね?」
「はい」
その結果、モノレールという結論が出掛かっている。
モノレールの短所として大型化が難しいということがあるが、人口の少ないこの世界には適しているともいえる。
一番は、その構造上、一般道路とは交差しないという点だ。
「ふうむ、一般人とは違う軌道を走らせることで事故を減らすわけだね」
トアが確認するように尋ねた。
「そうですね。高架の強度に関しては魔法がありますから。工事に関しては、セルロア王国には『リヨン』がありますし、ショウロ皇国には『ゴリアス』があります」
「なるほど。重作業は楽になるな」
ラインハルトも納得した。
「荷馬車は貨物駅で荷を受け取って各地へ運ぶようになるわけか。失業の心配は少ないな」
むしろ、これによって貿易が活発になれば、荷馬車も今より潤うと考えられる。
「今の各国の経済状況を見ると、こんな工事ができそうなのは我がショウロ皇国とセルロア王国くらいだろうな。我が国の経済状況、国力は充実している。こうした国家事業をやるには十分だ。そしてセルロア王国。あそこはこの春の騒動でかなりの打撃を受けたとはいえ、まだまだ力を持っている」
とも述べるラインハルト。
フランツ王国、エゲレア王国、クライン王国は今すぐ、というわけにはいかないだろう、とも付け加える。
「エリアス王国はある程度なら可能だろうな」
ロドリゴが自国の状況を口にした。
「ポトロックから街道沿いに北上する路線ができたら便利だろうね」
マルシアもそんなことを言う。その街道とはすなわち、かつて仁がエルザやラインハルトと共に旅をしたルートである。
「ラインハルトの言うとおり、ネックは工期と予算だな」
それでも、それによって事故というデメリットが減らせるのは意味がある。
魔法という手段があるので、現代地球の工事よりは楽にできるだろうからだ。
「まずは短い区間で運用してから伸ばしていくんだろうねえ」
トアの言い分はもっともである。仁は、この線で細かく詰めていけばいいと考えた。
おおよその案がまとまり、気が付けば夕方である。
とはいえ、蓬莱島は東にあるので、時差でいえば、ショウロ皇国はまだ昼前、エリアス王国でさえ午後3時になっていない時刻なのだが。
仁は集まった面々に丁寧に礼を言い、温泉に浸かることを勧めた。
全員、日程にはゆとりを持ってやって来ていたのですぐに承知、男女それぞれの浴場へと向かった。
* * *
「ふあ……気持ちいいねえ」
お湯の中で手足を伸ばすトア。
「ここは天国だなあ」
ロドリゴも寛いだ顔をしている。
「ここの環境を目標にしたいものだな」
ラインハルトまでそんなことを言っている。
温泉はやはり寛ぎの場所なのだろう。
「ああ、いい気持ちねえ」
女湯も賑やかである。
「リーナ、旦那様と仲良くやってる?」
「な、何よ、いきなり」
「うふふ、少し痩せたんじゃなくって?」
「ヴィーにはかなわないわ……」
ステアリーナとヴィヴィアンは久しぶりに会ってはしゃいでいる。
ベルチェはそんな喧噪から離れ、浴槽の端の方で静かに浸かっていた。
「お腹、随分大きくなりましたね。お寛ぎになるのはいいですが、のぼせないようにお気をつけ下さい」
ミーネは、そんなベルチェを気遣っていた。
「ありがとう。大丈夫ですわ」
「最初は誰でも心配するもの。ですが、私も、エルザもおります。いつでも呼んで下さいね」
「ええ、その時はそうさせてもらいますわ」
にこやかに微笑むベルチェはとても綺麗だ、と、エルザは少し離れた場所でお湯に浸かりながら思った。
「エルザ、ジンとの仲はどうなってるんだい?」
そこへマルシアがお湯をかき分けやって来た。
「くふ、もう気分は若奥様だよね?」
「サ、サキ姉」
サキが混ぜっ返し、エルザは赤面する。
「あはは、幸せそうで何より。……だけど、不思議なものだね。ポトロックでレースに出ていた頃には、こんな日が来るとは思わなかったよ」
マルシアの言うこんな日、とは、一緒に温泉に浸かっていることを言っているのか、それとも父と共に暮らす、己の現在のことを言うのか。
「マルシアさんも今、幸せ? 私は今……」
実の母が一緒にいてくれて、優しい婚約者がいる。友人にも恵まれた。エルザは幸せだ、と言った。
「うん。父さんが帰ってきてくれたし、仕事も順調だし、ね」
「そう、よかった」
* * *
温泉から上がったあとは、簡単な夕食会。
今回は和食尽くしだ。
白米のご飯、白身魚と海老、それに野菜の天ぷら。キュウリ(と命名した野菜)の糠漬け。海藻サラダ。それに豆腐と油揚げの味噌汁、である。
贅沢ではないが、厳選した素材が使われており、仁ファミリーの面々の好物ばかり。
箸の使い方もかなり上達した皆は、この食事を心から楽しんだ。
「今年、うちの領でも米を作らせているんだ」
とはラインハルト。元々ショウロ皇国の中部〜南部は稲作に適した土地が多く、これからに期待できる。
「ポトロックでもお茶の苗を植えて栽培が始まっているんだよ」
お茶の木は温暖な地方を好むので、ポトロックの新しい名産になるかもしれない。
そんな近況を報告し合いながら、蓬莱島の夜は更けていった。