作品タイトル不明
28-04 一区切りしてその先へ
6月11日。
仁ファミリーの面々はのんびりと朝食を食べた後、それぞれの拠点へと戻っていった。
残ったのは仁とエルザの2人だけである。
「また静かになったな」
「ん。……これでまた、水入らず」
指先で仁の服の袖を摘むエルザ。
「ああ。貴重な時間だな」
仁も笑って、エルザの肩を抱き寄せた。
「この後、実際にどうするか考えるんだが……その前に散歩に行こうか」
「うん」
今日の天気は、初夏の蓬莱島としては珍しく薄曇りである。
仁とエルザは礼子とエドガーをお伴に、タツミ湾を目指した。もちろん徒歩ではなく、『バリアクッションカー』でだ。運転は礼子。
といっても、宇宙仕様ではなく、蓬莱島仕様となっている。
「これって、試作したあれ?」
「そうだよ。あのままだと量産化……というより宇宙で使うために幾つか機能を追加しなければならなかったから、こっちは普段使い用に改造したんだ」
役目の終わった試作機を死蔵するにはもったいなかったので、オープンカーっぽく改造したのである。
通常の最高速度は時速50キロ。非常時はその倍の時速100キロ出せるが、こちらは危険なので礼子が運転したときでないと出せないようセキュリティがかかっている。
今回は礼子の運転なので時速100キロを出そうと思えば出せるが、のんびりと過ごしたい仁は、時速40キロ程度に抑えるよう指示を出していた。
ということで、ゆったりとした時間を楽しみながら、海へ向かう仁とエルザであった。
川に沿って設けられた道はおおよそ40キロくらい。1時間もすると、いよいよ海が見えてきた。
「海を見るのも久しぶりな気がする」
「ずっと慌ただしかったからな」
浜辺にバリアクッションカーを駐め、仁たちは渚に向けて歩き出した。
「凪いでいるな」
薄曇りなのも、風がないせいであろうか。
「お父さま、敷物をご用意いたしましょうか?」
「ああ、頼むよ」
礼子は 茣蓙(ござ) を出してきた。イグサ(もどき)で編んだ本格的なもの。それを砂浜に敷き、仁とエルザはごろりと寝転がった。
薄曇りなので、それほど眩しくはないが、
「紫外線避けにこちらも」
折り畳み式の日除けも出してくる礼子。実に用意がいい。
「ああ、ありがとう」
イグサの香りが心地よく、無言で横になっていた2人はうとうとしてしまった。
「お父さま、エルザさま、そろそろ起きて下さい」
礼子の呼ぶ声に目を覚ます2人。
「あー、よく寝た」
「もうお昼です。お食事はどうされますか?」
研究所に戻るなら、 転移門(ワープゲート) もある。主にタツミ湾で取れた海産物を送り出すために使われているものだ。
「そうだな、ここで食べたいかな」
いつの間にか空の薄雲が取れ、青空になっていた。
「そう仰るのではないかと思っていました。ソレイユとルーナに連絡を取ります」
さすが礼子、仁の性格を熟知している。ものの5分で、 転移門(ワープゲート) を使ってソレイユとルーナがやって来た。
ソレイユの手にはバスケットと水筒、ルーナの手には小荷物が。
「ご苦労様」
礼子は2人を労うと、3人掛かりで昼食の仕度を始める。
ルーナが持って来た小荷物からは折り畳み式のテーブルと椅子が出てきた。
ソレイユのバスケットにはサンドイッチが、水筒には冷えたシトランジュースが入っており、グラスまで並べられた。
「用意がいいな」
感心する仁である。エルザも嬉しそうだ。
柔らかな潮風が吹く海辺で口にするランチは格別だった。
* * *
海辺で昼寝までした仁とエルザは、少々のんびりしすぎたと、帰りは 転移門(ワープゲート) を使って研究所へ戻ってきた。
因みに、バリアクッションカーはエドガーの運転でこちらへ戻って来てもらっている。
「さて、改めてモノレールの仕様を決めないとな」
今後、各国間で規格が異なったりしないよう、最初が肝心、というわけだ。
「まずは車両の大きさ、軌道の巾、それに高架の高さなどかな」
モノレールは大型化が難しいため大量輸送にはあまり向かないのだが、人口の少ないこの世界ではさほど問題にならないだろうという前提で、色々な値を決めていく。
魔法があるがゆえに、現代地球とは条件も異なってくるのだ。
高架の高さは、大型トラックがない今、低くてもいいのだが、将来を見据える必要もある。
そうした案を、仁は手元の紙に書きとめていく。紙はミツホ特産の『木紙』である。
「……よし、こんなところか」
1時間ほどかけて、エルザと共に要点を検討し、それらをまとめ終わった仁は、紙を老君に見せた。
「この内容を簡単にシミュレーションしておいてくれないか」
仁の願いは『人身事故0』である。
実際に0は難しいだろうが、それを目指し、限りなく目標値に近づける努力は怠らないつもりだ。
『運転は専用のゴーレム、管制担当もゴーレムですね』
ヒューマンエラー(人間のポカミス)を避けるため、仁もこれは譲れなかった。
一通りの作業を終えて、のんびりとお茶を飲んで寛ぐ2人。エルザはふと、向かい合わせに座る仁に向けて、
「ジン兄はやっぱり 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 。モノ作りに携わっている時が一番生き生きしてる。そんな顔が、好き」
と、心に思い浮かんだままの言葉を投げかけた。
「え?」
危うく咽せそうになる仁。いきなりエルザからそんな言葉が出てくるとは思っていなかったからだ。
「あ、あう」
口にした当の本人であるエルザも面食らっている。
頭を使った作業のあと、リラックスした空気に誘われて口が軽くなったようだが、言ってから赤面するあたり、まだまだ奥手である。
「……」
しばらく無言で見つめ合う……かと思われたが。
「お父さま、月から報告が入っています」
絶妙のタイミングで、2人の気が別方向に逸れた。
月=ユニーには、アンがいて、簡易基地の建設を推進していた。
「お、そうか。何だって?」
『月面基地が完成したそうです』
報告は老君からだった。
『10キロ四方を整地し、管制塔、格納庫兼整備工場、それに居住区を作りました、とのことです』
「すごいな。戻って来たらアンを褒めてやらないと」
簡易基地とは思えない。
『資材は全てユニーにあるもので賄ったそうです』
ユニーにも、蓬莱島にある以上の資材が保管されているという。
基地を作った以外、手を付ける気は仁にはないが。
「あとは長周期惑星の観察、というか監視だな」
正直なところ、仁としては宇宙に関しての興味よりも、モノ作りの方がウエイトが高かった。
月……ユニーに関しては、中途半端な情報があったがために優先して調査したものの、それが終わってしまい、仁ファミリー皆で宇宙旅行……というか宇宙散歩? をしてきた今、仁の興味はまた別の方面へ移っていたのである。