軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28-02 悩んだ末に

「国家が推進する事業によって、雇用を生み出そうというんだろう?」

ラインハルトの考えを察した仁が先んじて言葉を発した。

「その通りだよ、ジン。仮に君が一から十までやってしまったら、長い目で見たらそれは人々のためにならない」

それは仁も感じていた。そう、ミツホとフソー、そしてニューエルを 経巡(へめぐ) ってきたがゆえの認識である。

単に既製品を与えるだけでは、人々はそれに慣れてしまい、怠惰になり、結果、文明は衰退する。

それをうまくコントロールする、というのはおこがましいが、仁としては、できるだけ人々のためになる形で展開していきたいと思ったのである。

「ちょっと今更な面もあるんだけどな」

「いや、それでもやるべきだと思うよ」

ロドリゴが真っ先に賛同した。彼も、できるだけ己の才覚で船を開発していきたいと思っているのだから。

「では」

仕切り直す仁。

「誰が作るにせよ、長所と短所は変わらない。思いつくままに挙げてみるから、意見を聞かせて欲しい」

そう前置いて、仁は説明を始めた。

「一番心配しているのは事故なんだ」

今までに無かった乗り物を作るわけであるから、仁が心配しているのは人身事故である。

「トラックだと、当然、対人衝突事故やトラック同士が。鉄道だと踏切事故や脱線事故がある」

高速輸送には付き物とはいえ、いきなり世に送り出した場合、民衆がすぐに適応出来るとは思えない。

「それから、維持の問題だ。鉄道、トラック、どちらにしても、整備したり、故障の修理をしたりする必要がある」

整備要員は必須なのだ。

「国境の問題もあるな」

流通であれば、各国を結ぶ必要があるだろう。国家間の行き来ができるのが理想だ。これには、間もなく開始される、ショウロ皇国と異民族……『ミツホ』の国交も念頭にある。

「あと、心配なのは戦争に使われることかな」

戦争となれば、兵士や武器の輸送に転用されることになるだろう。

「……ざっと思いつくことといえばまずはこのくらいかな」

仁は説明を終え、皆の意見を聞きたい、と言って一同を見渡した。

「事故だけどね」

サキが真っ先に口を開いた。

「今だって、馬車に轢かれたり、馬にはねられたりという事故はあるからね。心配しすぎじゃないのかい?」

「いや、今回のような交通機関の場合、事故が起きてしまったら惨事になりやすいということもある」

仁は、鉄道における踏切事故がどれほどのものかを簡単に説明した。

「そうなんだね……いや、ジン、ボクの認識が甘かったみたいだ」

「いや、サキのように思いついたまま言ってもらう方がいいんだ。考えすぎると自由な発想ができなくなるからな」

「ジン兄、踏切事故が心配なら、踏切を作らなければいい」

「うーん、そうなると、高架線か地下鉄だな。工事が大変だが……何とかなるかな?」

魔法がある世界なので、現代地球よりは工事が楽だろう。

「その場合、荷物の輸送が今一つ不便じゃないかな?」

再びサキの発言。確かに、駅が地下もしくは地上の高い所にあると、積み降ろしの手間が発生するだろうと思われる。

「ふむ、トラックの場合はどうなんだろうね?」

鉄道系の話だけでなく、トラックについてはどうだろうか、とロドリゴ。

「その場合でもまずは道路の整備が必要でしょうね」

仁は、馬車がやっとすれ違えるような道路では不十分だ、と説明する。

「少なくとも、今の倍は必要になるだろう」

「それはそれで大変だねえ」

トアも難しい顔をして腕を組んだ。

「それに、大量輸送を考えたら、高速移動か大型化を考えるわけだけど、それには路面が平らであればあるほどいいわけだ」

そんな仁の説明に、ラインハルトが相槌を打つ。

「その通りだな。そしてそれにはかなりの時間と費用が掛かる」

「ああ、それでは、どれもこれも一長一短があって、使いものにならないじゃないか!」

嘆かわしい、とばかりにマルシアが少し大声を上げた。

「だからこそ、なんだよ。俺が、みんなに相談しているのは」

仁も少しばかり沈鬱な表情をしている。

「蓬莱島の力を使えば、鉄道だって道路だって、短期間で整備できる。ゴーレムを使えば、事故だって極力減らせるだろうし、回復薬があれば事故の被害だって軽減できるだろう」

だけど、と仁は一息置いて続ける。

「そんなのって発展じゃないよな。俺が言うのも今更だけどさ」

今まで、この世界に無いものをいきなり登場させ続けてきた仁だが、ミツホやフソー、それにニューエルで色々見てきたがゆえの心境の変化だ、と正直なところを口にする。

「難しいな。なあ、ジン。期限がまだ先だったら、どこかでテストケースとして試験運用してみたらどうだろう?」

なかなか結論を出せそうもないので、ラインハルトが別の提案をしてきた。

「なるほど、テストケースか。例えば、蓬莱島でタツミ湾から研究所まで鉄道を敷く、とかかな?」

「いや、それはあまりテストにならないだろう。できれば、人々の生活がある土地がいいと思うな」

「生活か……」

更に、エルザも意見を出してきた。

「ジン兄、ジン兄の故郷では、どういう状況だったの?」

「地球でか……」

エルザの意見にも一理ある、と仁は思った。

「地球での普及は、まずは鉄道、そしてトラック輸送だったな」

だが、それにも問題がある。エンジンだ。

地球では蒸気機関がまず普及した。そして、蒸気機関は、自動車に載せるよりも、列車に向いていたのだ。

「そういえば、鉄道馬車というのもあったな……」

機関車の代わりに馬が牽く路面電車みたいなものである。

「それを言ったら、人力車とか駕籠もあるな……」

仁はますます混乱してくるのを感じた。

「ああ、まったく!」

それも致し方ないだろう。正常な発展段階を飛ばして、いきなり数百年も進んだ技術を提示しようとしているのだから。

「くふ、ジン、少し頭を冷やした方がいいよ」

「そうですわ、ジン様」

「ジン、あまり考えすぎない方がいいと思うよ」

サキ、ベルチェ、マルシアが、それぞれの言葉で仁を宥める。

「そうそう。いっそのこと、原点に帰るのもいいかもしれないなあ」

それは何気ないトアの一言だったが、仁はぴくりと身を震わせた。

「……原点、か……」

「ジン君、それって?」

ヴィヴィアンからの質問に、仁はゆっくりと説明を始めた。

「要するに、人や荷物を短時間で大量に運びたい、というのが目的だ、ということだな」

「それならよくわかるわ」

頷いたヴィヴィアンに、仁は苦笑を向けた。

「それを俺は、固定観念に囚われた考えしかしなかったなあと反省していたところだ」

仁の言う固定観念、というのは、魔法のあるアルス世界において、鉄道とトラック輸送の二択を持ち込んだこと。

「もっと柔軟な考えをすべきだったんだよ」

これにはステアリーナが反応する。そんなところは、やはり 魔法工作士(マギクラフトマン) である。

「目的を叶える手段を限定せずに考え始めるべきだった、ということね?」

「そういうこと。その上で、今現在、世界に存在する技術を使えたなら一番いいだろうと思い直したんだ」

「うーん、それもまた一つのやり方かもな」

仁の考え方をラインハルトも支持してくれた。

「……俺は知っての通り、この世界の生まれじゃないから、みんなの意見を聞きながら詰めていきたいんだ。いいかな?」

「もちろんだとも」

「異議なし」

「くふ、任せておくれよ」

メンバー皆、笑って同意したのである。