軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28-01 新時代の始まり

「うわあ、これが宇宙空間か! ジン、これはすごい!!」

「……綺麗。ベルベットの上に散りばめた宝石のよう」

「……言葉も御座いません……」

「くふ、すごいね。こんな景色を見られるなんて夢みたいだ」

「すごいわ! 伝説の『天翔る船』、その再現ね!」

「まったくだね。こんな世界があるなんて、思ってもみなかったよ」

「ああ、素晴らしいわ! 人の叡智はどこまで行くのかしら!」

「これも宇宙『船』なのか。船はどこまでいくんだろうな」

「素晴らしい眺めだ! 生きていてよかった」

時に大陸暦3458年、6月10日。

仁は、試験飛行、そして『 分身人形(ドッペル) 』を乗せて、の2度に渡る月への飛行を成功裏に終えた『アドリアナ』に、仁ファミリーを招待していた。

身重のベルチェを除き、ラインハルト、エルザ、 ミーネ、サキ、ヴィヴィアン、トア、ステアリーナ、マルシア、ロドリゴらを乗せての遊覧飛行である。

全員、最新型の簡易宇宙服を着て、乗艦している。

この簡易宇宙服は、 地底蜘蛛絹(GSS) に軟質魔導樹脂を含浸させたシートが主な素材で、セットされた 制御核(コントロールコア) により、真空に曝されても気圧差で膨らまず、動きを妨げないよう設計されていた。

頭部は 地底蜘蛛樹脂(GSP) 製のヘルメットで、こちらにも遮光結界が施されていて、危険な光線や電磁波を通さないようになっていた。

呼吸に対しても魔導具により、呼気の二酸化炭素を酸素に変換するようになっている。

無重力状態での行動は考えられていない。あくまでも船内用で、万一の事態に備えて、のものである。

言うなれば『救命胴衣』的なものだ。

今回、展望室はまだ試験中なので開放されていないが、中央艦橋から 魔導投影窓(マジックスクリーン) で外を眺めるだけでも感動ものの光景が広がっていた。

「ジン、君は凄い! 正に世界一の 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) だ!」

感極まったようにラインハルトが絶賛する。

「いや、それほどでもないよ。故郷で得た知識と、先代から受け継いだ魔法技術、そして蓬莱島の資材があったればこそだ。それに、みんなからの協力も……」

「そんなことはないよ。やはりジンだからこそ、さ。もっと胸を張っていいと思うよ!」

「ありがとう、マルシア」

マルシアは仁の背中を力強く叩き、称賛を口にした。

「ジン殿は我々の目標ではあるが、一生到達できそうもない高い頂だな」

そう言ったのはマルシアの父、ロドリゴである。

「くふ、エルザの旦那様は世界一だね」

「……あり、がとう?」

サキはサキでエルザをからかっているが、その内容は心からのものであった。

「ねえあなた、わたくしたちの住む星というのはやはり青いのですね」

「うむ。ジン君の故郷、地球だけが青いのではないのだな」

「ねえジン君、あの青いところって空? それとも海かしら?」

「海ですよ。アルスも水の星なんですね」

トアとステアリーナも、宇宙から自分たちの母星であるアルスを見て感動している。

仁の故郷である地球のことは知識として知っているのだが、目にしたものをそれと関連づけるには至らなかったようである。

「新たな時代の『天翔る船』……。新時代の伝説が、今作られているのね……」

ヴィヴィアンも宇宙の眺めにうっとりとしている。

乗船している面々は、みなそれぞれの想いを抱いているだろうが、今日この日のことは一生忘れないだろうことは想像に難くない。

「……ジン兄が宇宙に行きたがったのも、わかる」

先日、月……ユニーを訪れたエルザであったが、宇宙『飛行』は初めてなので、やはり感動はひとしおであるようだ。

「……この光景を目にしたら、地上での争いなんて馬鹿馬鹿しくなるよなあ」

しみじみと、ラインハルトが呟いた。

* * *

仁ファミリーを乗せた『アドリアナ』は、月……ユニーをぐるりと巡り、蓬莱島の宙港に降り立った。

「いやあ、ジン、ありがとう! 君と知り合えたことを誇りに思うよ!」

降りてからもラインハルトは、興奮未だ醒めやらず、といった風であった。

時刻はちょうど正午。

皆食堂に集まって昼食とした。

「お帰りなさいませ、皆様」

そこにはラインハルトの妻、ベルチェが待っていた。妊娠7ヵ月になろうとする彼女のお腹はかなり目立ってきている。

「わたくしもちょっとだけお手伝いしたんですの」

安定期なので、少しは身体を動かしたいという彼女の要望を入れて、準備を手伝ってもらったのである。

「ベルチェさん、無理はいけないよ」

既婚者であるトアが声を掛けると、

「ええ、ありがとうございます。お手伝いといっても、ほとんどはソレイユさんとルーナさんがしてくれましたので大丈夫ですわ」

とにっこり笑って答えるベルチェであった。

昼食は焼きたてのパンに、ベーコンや目玉焼き、ハム、卵サラダ、ワイリージャム、シトランマーマレード、メープルシロップ、バターなど、好きなものを載せたり塗ったりして食べる形式である。

飲み物はペルシカジュース、シトランジュース、アプルルジュース、クゥヘ、カヒィ、紅茶などから好きなものを選べるようになっていた。

要はビュッフェ形式に近いものである。

「くふ、こういうのもいいね」

サキはお気に入りのメープルシロップを塗って食べている。

「食べ過ぎて太りそうだわ」

ステアリーナは卵サラダをパンに挟んでいる。

「ああ、クゥヘのいい香り」

マルシアはまずは喉を潤そうとクゥヘを口にしていた。

他の面々も、それぞれの好みに合わせた組み合わせで昼食を楽しんだのである。

その際、宇宙船の感想を聞いたのだが、『素晴らしかった』という答えしか返ってこなかったのである。

食後、ゆったりと寛ぎながら、仁はもう1つの相談事を口にした。

「実は、セルロア王国からこういう依頼があったんだが……」

例の、『陸上輸送の改善案』である。

「ふうん、面白そうではあるし、世の中に役に立ちそうだな」

ラインハルトがまず乗ってきた。

「ポトロックでは、港から馬車や荷車で内陸に運ぶんだが、生魚は無理なんだよ。冷蔵庫に入れても数日が限度。魔法で凍らせたら生ではなくなるし」

ロドリゴも陸上輸送については期待したいという。

そこで仁は、トラックと鉄道、という2つの案を説明した。

「なるほどね、専用の道を敷いて、そこを走るのが鉄道」

「で、自動で走る荷車がトラックなんだね」

ファミリー内では最も現代地球の知識に乏しいマルシアとロドリゴも理解してくれたようだ。

「それぞれに長所と短所があって、一概にどちらがいいとは言いきれないんだ。それでみんなの意見も聞きたいと思っている」

これを受け、まずは発言したのはラインハルトだった。

「ジン、最初に確認しておきたいんだが、これは全部を君がやるつもりじゃないんだろう? ああ、全部、というのは鉄道なら線路、トラックなら道路工事、という意味で、だ」

「もちろんさ」

「それならいい。こうしたことは国家事業とするべきだからな」

「ん? ラインハルト、どういうことだい?」

意味がよくわからなかったらしいサキが質問した。

「ああ、それはな、こうした流通を急激に興すと、失業者が大量に出ることになるんだよ」

荷馬車を使い、流通を担っていた者たちが一夜にして職を失うことになりかねない、と説明するラインハルト。

こう言われればサキもわかったようだ。

「ああ、なるほど。急激な変化は良くないというんだね」

「そうだ。そして、もう1つ」

ラインハルトの説明はまだ続いていく。