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作品タイトル不明

27-48 閑話57 始祖の系譜

アルスに戻った仁は、礼子を連れて700672号を訪れていた。

「ようこそ、ジン殿」

700672号はいつものように仁を迎えた。ルージュとネージュは仲良くそんな700672号の世話をしている。

「ご無沙汰してます。お元気そうですね」

「うむ、ペルシカジュースのおかげでな。まったく、あの果実は正に『奇跡の実』だな」

その言葉を聞いた仁は、ミロウィーナもペルシカで元気になったことを思い出した。

「今日は報告があります」

「ほう、聞かせてもらおう」

700672号は仁に椅子を勧めた。

仁は、宇宙船『アドリアナ』を完成させたこと、それを使って月……ユニーを調査したこと。

その結果、ユニーには『 始祖(オリジン) 』の一派が過去に訪れていたこと。

旧レナード王国の人々が病を恐れて避難し、その子孫は一人しか残っていなかったこと、等々、今回わかったことを詳しく報告したのである。

「ふうむ、興味深い話だ」

700672号は口を挟むことなく、最後まで話を聞いた。

「ジン殿には話していなかったことだが、吾の『主人たち』には派閥が存在した」

700672号の『主人たち』、すなわち『 始祖(オリジン) 』は、太陽セランを挟んでアルスと対極にある惑星ヘールの出身で、爛熟した文明、衰えた生命力、そして枯渇した資源という問題を抱えていた。

それを解決するために、『天翔る船』、つまり惑星間航行ができる宇宙船を造り、このアルスにやって来たのである。

「派閥、つまり主義主張が異なる集団があったということだ。大きく分けて、このままヘールでゆっくりと滅びの時を迎えようという人々と、新天地を求め、新たな故郷を作ろうという人々と」

それについては、仁にもわからなくもない。

「もちろん、このアルスに来たのは新天地を求めようという『主人たち』だけだ。だが、その中にも派閥は存在した」

700672号によれば、派閥というよりも、特定の小グループ、という区分けらしい。

始祖(オリジン) は、群れることを好まない、個人主義者が多かったようだから。

「当然、『天翔る船』も1隻ではなく、何隻も存在した」

1隻あたりにはそれぞれ10人から1000人まで、異なる人数が乗船したということだ。

「月が、元は小惑星だったとはな。ヘールにも同じような月があったので、不思議とも思わなかったのだ」

『 始祖(オリジン) 』たちはヘールにも同じような『月』を作っていたようだ。

生まれた時から見ていれば、そういうものが無い方が不自然なのだろう。

「そもそも、吾の『主人たち』が乗った『天翔る船』はそういった幾つもの船の中では後から出発したものであったのでな。吾らがアルスに着いたときにはもう月は今の場所にあったと記憶している」

当時の『主人たち』はそういった副次的なことに頓着しなかった、と700672号は言った。

「もう、気力も萎えておられてな……」

そう言った彼は、少し辛そうな顔をした。彼の『主人たち』はあまり行動的ではなかったようだ。

「済んでしまったことだがな」

700672号の顔には諦観が見て取れるようだった。

「と、ところで」

少し重くなった雰囲気を変えようと、仁は別の話を始めた。

「『天翔る船』に乗って、また宇宙へ出た方々もいると聞いたのですが」

「それは初耳だな。吾の『主人たち』は、先程も言ったが行動的ではなかったので、そういった積極さは無いに等しかった」

「そうですか……」

少し残念であった。

「だが、人工冬眠による恒星間旅行の可能性は議論されていたと記憶しているから、そういう人々がいたとしても不思議はない」

地球でも、長期間に渡る宇宙旅行にはそういった処置が必要であると検討されていたことを耳にしたことのある仁は、科学と魔法技術が同じような結論に辿り着いたことが少し意外でもあり、また興味深い思いであった。

「しかしだな」

重い口調のまま、700672号は続ける。

「吾の『主人たち』の間で囁かれていた説の一つに、『 種(しゅ) の終焉』というものがあってだな、 種(しゅ) としての寿命が尽きた種族はゆっくりとその数を減少させ、滅びに向かう、というものだ」

誰のことを言っているのかは明らかであるが、『サーバント』である700672号の口からは、それが『主人たち』のことであるとは明言できないようだ。

「おそらく正解は、原住民と血を交えることだったのだろうと思う」

700672号の『主人たち』はその道を選び、現在の魔族としてその血は生き続けていた。

「その『旧レナード王国』の人々も、系統は違うが、『主人たち』の血を引いているのではないだろうかな」

「そういうことですか」

仁は頷いた。

エルラド山の地下に暮らしていた600012号はそうした『主人たち』に仕えていたのであろう。

残念ながら、彼の『主人』もしくは『主人たち』の情報は、『ロクレ』との2重『 知識送信(センドインフォ) 』の干渉によりデータが破損してしまっていたのである。

地球でも、土地が違うと肌の色が違うように、このアルスの原住民も、土地によってそうした外見に違いがあったのかもしれない、と仁は推測を立てた。

いつか、他の土地に隠された『天翔る船』の情報を知ることができたら、そうした過去の疑問にも答えが出るのかもしれない。

「ううん……」

考え込む仁に、礼子が声を掛けた。

「お父さま、考え悩むのは後になさって、今はお聞きになりたいことを質問された方がよろしいのではないでしょうか?」

「あ、ああ、そうだな。礼子、ありがとう」

仁は頭を切り換えることにした。

「それで、先程説明した、魔法陣を使った転移技術というものをご存知ですか?」

ユニーにあった技術。700672号は知っているのか、という疑問は当然だろう。

「いや、知らなかった」

「えっ」

まったく違う一派なのか、それともユニーで開発されたからなのか、700672号はその技術に関しては耳にしたこともなかったという。

「興味深いな。ジン殿の解析が終わったら、吾にも教えてもらえるだろうか?」

「ええ、いいですとも」

仁は笑って請け合った。

「あと、受精卵の冷凍保存とか言ってたのですが」

この機会に、疑問点を確認しておこうと考えた仁。

「おお、そういうことをしようとしていた一派がいたことは聞いている。吾の『主人たち』は行わなかったようだが、ヘールにあった植物の種子や動物の遺伝子を保存しているようだ」

やはりそういう考えの者もいるのか、と仁は妙に納得してしまった。

「だが、この世界の生物は強いぞ。いつも貰っている『ペルシカジュース』だが、このような果実はヘールにはなかったからな」

「そうなんですか」

地球でも、古代中国の仙人譚では『仙桃』として描かれる『桃』。それに良く似た、というよりそのものである『ペルシカ』。

仁は改めてこのアルスの生物相を思い直してみる。魔物も、地球にはいないほどに強力である。

「この星の生物は生命力が強いのでしょうか?」

「うむ、そう思う。ゆえに、原住民と血を交えたことは正しかったと思えるのだ」

「……最後に、あなたの『主人たち』の身体的特徴、といいますか、外見はどのようだったのか、教えていただいていいですか?」

なんとなく聞きづらくて今まで確認したことがなかったのだが、今日の仁は、疑問点を洗いざらい聞いてみたい心境であった。

「うむ、肌は白かったな。髪はいろいろだが、明るい金色の方が多かった。茶色い方もいらっしゃったがな。瞳は水色から緑、すみれ色と、淡い色の方がほとんどだった」

大昔は黒髪や黒い目、褐色の肌といった人々もいたらしいが、700672号が作られた頃には、今説明したような外見の方ばかりだった、と締めくくった。

「そなたの婚約者、エルザ殿は正に典型的な外見をされているな」

「そうなのですか」

魔力過多症が治ったエルザは、保有魔力が格段に伸び、世界トップレベルになっている。

こうしたことも、もしかしたら 始祖(オリジン) の血が濃いからなのか、などとちらりと考えたが、エルザはエルザだ、と思い直す。

「いろいろと、貴重なお話をありがとうございました」

仁としても、多くの疑問に答えが出て、かなりすっきりしていた。

「いや、いつでも来てくれてかまわない」

700672号も、こうした話題で語り合えることは嬉しい、と言う。

「それでは、また」

『白い部屋』を出た仁は、外に設置した 転移門(ワープゲート) で蓬莱島に戻ったのである。

「 始祖(オリジン) ……か」

仁に限っていえば、その血を引いていることは有り得ない。

が、この世界の人類は、大なり小なり血を引いているのだろう。

「ジン兄、お帰りなさい」

「ただいま」

出迎えてくれたエルザの顔をじっと見つめる仁。

「な、何?」

普段と違う仁の挙動に、首を傾げるエルザ。

「いや、なんでもない。エルザは、……綺麗だな、と思ってさ」

「……!」

仁からの予期せぬ言葉に、エルザの顔が真っ赤になった。

「俺たちはこのアルスで、生きていくんだから」

「ど、どうした、の?」

顔を赤くしながらも、仁の様子がいつもと少し違うことに気がついたエルザである。

「ああ、全部話すよ」

そして仁は、ゆっくりと説明していくのであった。

夏を間近に控えたある日のことである。