軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27-47 閑話56 月、その後

アルスの月、ユニーの謎も解け、一息ついた仁は、自らユニーへ行きたくて堪らなかった。

「どうだろう、老君?」

そこで、老君に尋ねてみる仁。

『そうですね、ここ数日で安全性の確認も出来ましたし、礼子さんが一緒でしたらよろしいかと思います』

「おお」

『但し、まずは 転移門(ワープゲート) で『アドリアナ』の中央艦橋に移動し、次いで転送機でユニー内部へ赴くという方法で、でしたら』

「……まあ、いいか」

面白くも何ともない移動方法であるが、老君も礼子も、この点に関してだけは頑固一徹を貫いているので仁も折れざるを得なかった。

「……なら、私も行く」

「エルザ?」

『そうですね、エルザさんが一緒でしたら、 御主人様(マイロード) も万が一にも無茶はなさらないでしょうし』

「……信用無いんだな」

「いえ、お父さま、老君はお父さまに万が一のことがないようにと考えているだけです。それはわたくしも同じです」

「……わかったよ」

ということで、仁はエルザと礼子、エドガーらと共に月……ユニーを訪れることになった。

『 御主人様(マイロード) 、装備は厳選して下さい』

最低でも、真空に耐えられるような宇宙服は必須である。

これは、先日来試験を続けていた 地底蜘蛛樹脂(GSP) 製の軽量宇宙服を着込むことにした。

気圧差で膨らんだ場合は行動が阻害されるが、窒息するよりはましです、と老君に言われた仁は、もっと性能の良い宇宙服を開発しようと心に誓った。

当面の対策として、空気を逃がさない結界を備えているので、仮にいきなり気圧が低下した場合には、まずそちらが作動することになり、いきなり真空に曝されないようになってはいる。

その間に、空気供給装置を備えたヘルメットを装着する、という流れが想定されていた。

「そんな事態が起きる可能性はどのくらいなんだ……」

『限りなく0に近いと言えども0ではありませんので』

言ってのけた老君に、仁としては何も言えなかった。

その他に、ペルシカジュースと、生のペルシカも持って行く。

700672号ではないが、ミロウィーナにもきっと気に入ってもらえるだろうという考えからだ。

その際、地上から病原体を持ち込まないよう、細心の注意を払う必要もある。

「私が一緒だから、大丈夫」

そういった気配りは、エルザがいるのでかなり安心だ。

「もう忘れ物はないかな……」

『 御主人様(マイロード) 、マーカーをお持ち下さい。何か足りないものがございましたらお送りできます』

こうして準備を整え、仁、エルザ、礼子、エドガーは出発した。

* * *

まず移動したのは『アドリアナ』の中央艦橋。

空気も重力もアルス地表と同じにしてあるので、何の違和感も感じない。

窓もないので、宇宙空間やユニーを映し出すモニター( 魔導投影窓(マジックスクリーン) )が無ければ、ここが既に宇宙空間であるとはわからない。

「……ほんとに宇宙にいるの?」

エルザのセリフも無理からぬことだろう。

『ようこそ、 御主人様(マイロード) 、エルザ様、礼子嬢、エドガー殿』

『アドリアナ』を統御する管理頭脳、『大聖』が一行を迎えた。

「『大聖』、様子はどうだ?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。『アドリアナ』の調子は上々です。宇宙基地の建造も順調に進んでいます』

「ごしゅじんさま、ようこそ宇宙へ」

そこへアンもやって来た。

「お迎えが遅れて申し訳もございません。建設中の基地について検査をしておりましたもので」

「アン、気にするな。良くやってくれていると思ってるよ」

「ありがとうございます」

「早速だが、ユニーに行くから、案内を頼む」

「はい、わかりました。帰還用の転送装置はお持ちですね?」

老君から事前に説明を受けていたアンは、再確認を行う。そして、問題がないことがわかると、『大聖』は一行を転送機でユニー内部へと送り込んだ。

「ここがユニー内部です」

アンの説明に、仁たちは周囲を見回す。

『 分身人形(ドッペル) 』仁Dの視覚を通じ、見ていたとはいうものの、やはり肉眼で見ると一種の感動がこみ上げてくるものだ。

「ここはまだ、隔離施設よね?」

エルザも、仁Dの視覚を 魔導投影窓(マジックスクリーン) 上で見てはいたが、念のためアンに確認した。

「はい、エルザ様」

《ようこそいらっしゃいました、ジン様、そしてお連れ様》

管理頭脳『ジャック』が挨拶してきた。

「『ジャック』か。直接話をするのは初めてだな。俺は仁だ。必要な処置を行ったら、ミロウィーナさんのところに行くつもりだ」

《わかりました。 殺菌(ステリリゼイション) と 浄化(クリーンアップ) を行います》

『ジャック』による処置の後、エルザも確認する。

「『 診察(ディアグノーゼ) 』……大丈夫、と判断する」

これにより、『ジャック』は転移魔法陣へと一行を導き、ユニーの最奥部へと転移させた。

『白い』施設を、アンが先頭に立って一行を案内した。

「こちらがミロウィーナさんの居室です」

《ようこそいらっしゃいました。ミロウィーナ様はお待ちかねです》

『ジャック』から連絡が行っていたのだろう、看護しているゴーレムが現れ、一行を迎え入れた。

部屋の中では、ミロウィーナがベッドに半身を起こし、仁たちを迎えた。

「いらっしゃい、ジンさん」

「生身では初めてお目に掛かります。二堂仁、ジン・ニドーです。この子はエルザ、俺の婚約者です」

「まあ、可愛らしい方ね。エルザさん、よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

「この子は礼子、そちらはエドガー。アンはご存知ですね。皆、 自動人形(オートマタ) です」

「まあ、可愛い子たちね」

一通りの紹介を終えると、さっそく用件に入る。

一番の目的はミロウィーナの健康だ。

「エルザは優秀な治癒師です。お身体を診察させて下さいませんか?」

「あら、お願いしようかしら」

ミロウィーナはベッドに横たわる。エルザはそんな彼女の枕元に近付き、

「『 診察(ディアグノーゼ) 』『 診察(ディアグノーゼ) 』『 診察(ディアグノーゼ) 』……」

まずは診察を行った。頭、胸部、腹部、と個別に詳細に診察していく。

「……わかりました。概ね健康ですが、少し腎臓と脾臓が弱っています。『 治療措置(ハイルフェルファーレン) 』」

内科の高度治療を行うエルザ。淡い光がミロウィーナを包む。

「それから、骨密度が低下していますので、カルシウムとマグネシウム、リン酸などをバランスよく摂取することが、大事、です」

「まあ、そうなの?」

ミロウィーナには、エルザの説明が理解できたようだ。大したものである。

「まずは低重力下で運動を始めるのもいいと思います。動かなければ骨も筋肉も弱くなってしまいますから」

「そうよね、ご忠告ありがとう」

ここで仁は持って来たペルシカとペルシカジュースを出した。

「これは栄養豊富な果物とジュースです。召し上がって下さい」

室内にはペルシカのいい香りが漂う。

「ああ、いい匂い。このユニーにも農園はあるのだけれど、ペルシカ? は無かったわね」

やはり農園はあるようだ、と仁は思った。

後で聞いてみたところによると、このユニーの施設は、当初は1000人、その後拡張したおかげで5000人までの人間を養えるとのことだった。

作物は小麦と大麦、 丸豆(ダイズ) 、 赤目豆(アズキ) 、 黒目豆(ササゲ) 、葉野菜、根野菜類。

動物性タンパク質は、魚ではマスの類、鳥ではコカリスクを養殖しているとのことだった。

今はミロウィーナ一人なので、作物は種、動物は受精卵を冷凍保存しているらしい。

『 始祖(オリジン) 』のバイオテクノロジーにはさすがの仁も兜を脱いだ。

「ああ、美味しいわ」

礼子が手早くペルシカの皮を剥き、差し出すと、ミロウィーナは美味しそうに全部平らげてしまった。

「なんだか食が進むわ。これもエルザさんのおかげかしら」

治癒魔法により、内臓全般の調子もよくなっているようだ。

「それはよかったですね」

持って来た仁も嬉しい。

その日は、調子の良さそうなミロウィーナと1時間ほど会話を交わしたあと、仁たちは一旦引き上げたのである。

* * *

「ありがとう、『ジャック』」

《いいえ、いつでもお越し下さい》

「ああ、それから、宇宙航行に関する情報はあるのか?」

元『天翔る船』の管理頭脳であった『ジャック』であるから、仁は期待していた。

《いえ、私は『管理』といいましても、主に生活面担当ですので詳しい情報は持ち合わせておりません》

「そうなのか?」

《はい。そして航行担当の頭脳は、小型の『天翔る船』に移植されて、1400年ほど前に宇宙へ旅立ち、そのまま戻って来ておりません》

「そうだったのか……」

少し残念であるが、それはそれで仕方ないと仁は思う。

そちらは自力で少しずつなんとかしよう、とも。

「それから……亡くなった人々は、埋葬されたのか?」

聞きづらいことではあるが、気になるのでこの機会に聞くことにした仁である。

《はい。レナード王国の人々と、『天翔る船』に乗っていらっしゃった方々の亡骸は、皆様、このユニー地下に眠っておられます》

「なるほどな……」

ここへ落ち着いた『 始祖(オリジン) 』たちも、少しずつ数を減らし、いなくなってしまったというわけだ。

そして、旧レナード王国の人々も、ミロウィーナを最後に……。

それを思うと、この世の無常を感じてしまう。

とはいえ、亡骸を原子に分解、などではなくて良かった、と思った仁であった。

それを最後に、一行は転送装置で『アドリアナ』に戻った。

「ああ、なんとなく疲れたな」

「……私も」

仁とエルザは互いに顔を見合わせ、微笑みあった。

「アン、済まないが、もう少しここに留まって、基地建設の監督を頼む」

「はい、精一杯努めます」

宇宙への興味は尽きないが、足元を固めることも重要である。

仁は、一歩一歩確実に進んでいこう、と、己を戒め直し、エルザと共に蓬莱島へ戻ったのであった。