軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27-46 長周期惑星の新事実

アルスの月、『ユニー』内部に設けられた施設を受け継いだ仁は、これからどうするか考え込んでいた。

やりたいこと、知りたいことは多い。それらをいっぺんに、というのは無理なので、優先順位をつけなければならないのである。

その時、管理頭脳『ジャック』が報告してきた。

《大型隕石接近中です。どういたしますか?》

『大型隕石? それがユニーに向かってきているのか?』

《はい。衝突コースではありませんが、2万キロほど離れて軌道の外側を通過します》

『今まではどうしていたんだ?』

《危険がないものは放置し、危険があるものは破壊して収容しております》

『収容?』

簡単に説明をさせたところ、宇宙空間で隕石を破壊しても危険度はほとんど下がらないので、適当な大きさに砕いた後、ユニーに引き寄せてそのまま月面上に堆積させておくそうだ。

《稀少な資源が手に入ることもあります》

『ミティアナイトとかか?』

700672号から、エルラドライト=ミティアナイトが隕石であったことを聞いている仁は、仁Dの口を借りてそう言ってみた。

《ミティアナイトですか? それは、魔力を増幅・圧縮する効果のある鉱石をそう呼んでいると解釈してよろしいでしょうか?》

『ああ、そうだ』

700672号は隕石だといい、そこから命名したと言った。だが、『ジャック』は別の名称で呼んでいるらしい。

《我々はユニバシウムと呼んでいます》

地上ではなく、宇宙を漂う隕石から発見されたゆえの命名だという。

他にも、アダマンタイトやミスリルなどを含む鉱石が採れることもあるという。

もっとも、一番多い資源は鉄とニッケルだそうだ。他にはかんらん岩が多いという。

『今までと同じ処理をしてくれ』

《わかりました》

* * *

「ふうん、隕石の始末の仕方としてはいい方法なんだろうな」

蓬莱島では仁が感心していた。

『はい、 御主人様(マイロード) 。そこで提案ですが、今後、宇宙航行中に大きな隕石に遭遇したら、月……ユニーへ転移させてしまってもよろしいでしょうか』

「……どうだろうかな?」

そうした隕石の質量が増えすぎた場合、ユニーの軌道維持に支障が出ないとも限らない。仁がそう言うと、

『それでしたら、重力魔法を使い、どこかの宇宙空間にまとめてしまったらいかがでしょうか』

と別案を出す老君。

要は『ゴミ集積場』である。

現代日本では、ゴミが海の埋め立てに使われたこともあることを聞いて知っている仁は、それをベースにした宇宙基地を作れないだろうかなどと空想していた。

その方がいい、と仁は答えたが、どこに集めるべきかはすぐに結論を出すことは出来なかった。

これは継続的な課題とする。

『 御主人様(マイロード) 、もう1つ提案があります。ユニーの『裏側』に、簡易的な宇宙基地を作ったらいかがでしょうか』

老君は魅力的な提案をしてきた。

確かに、月面に基地があると、宇宙へ出るのが非常に楽になる。

因みに『裏側』というのはアルスに向いていない面=太陽セランに向いていない面であるから、強烈な可視光や紫外線は気にしなくてもいいわけだ。

「そうだな、確認してみるよ」

* * *

『『ジャック』、ユニーの『裏側』に、俺の配下に命じて簡単な宇宙船用の基地を作らせたいんだが、どうだ?』

《一向にかまいません。資材がお入り用でしたら、先程説明しました隕石をお使い下さい》

『ああ、そうさせてもらう』

これにより、宇宙基地をわざわざ1から建設する必要が無くなったことは大きい。

また、真空室を作らずとも真空環境を得られるというのも好都合だ。

例えば、水銀温度計を作る際に、この月面基地で行えば簡単に空気を抜くことができる。

魔法瓶なども同様だ。

『それからもう1つ。『ジャック』は、天体観測はしているのか?』

《はい、しております》

アルスからでは大気が邪魔をするので、真空の宇宙空間から観察する方が遙かに精密な観測ができるので、仁としては宇宙基地を作ったら観測所を設けたいとも思っていたのである。

ところが、既にあるというなら、そのデータをもらえば済むわけである。

『ならば、長周期惑星のことも知っているな?』

《公転周期1204年の、長楕円軌道を持つ惑星のことでしたら把握しております》

『いつ頃接近するか、掴んでいるか?』

《はい。今のところ、アルス上でいう10月20日に、最接近すると思われます》

やはり、宇宙空間で観測しているだけあって、管理頭脳『ジャック』は把握していた。

《今までよりも非常に近傍を通過しますので、アルスやこのユニーにもなにがしかの影響があると思われます》

『だろうな』

管理頭脳が危惧するほどであるから、やはり何らかの対策は必要なのだろう。

とはいえ、ユニーは人為的に軌道を維持しているのでその点での心配は少ない。

《そして、既に判明していることがもう一つあります》

『それは?』

《今回、その長周期惑星が、5番惑星の近傍も通過します》

『何だって?』

説明によると、セラン太陽系には9つの惑星がある。

内側の第1番惑星はモノロード、第2惑星はジパート、第3惑星がアルスとヘール。この2つは同一軌道を周回している。

軌道順で第4惑星がテトロドス、第5惑星がペンゴルタ、第6惑星がペタフォルス。第7惑星はヘスプタンで一番外側の第8番惑星がオクロートス、と名付けられているそうだ。

その5番惑星、ペンゴルタが長周期惑星とニアミスする可能性があるという。

《衝突する可能性はほとんどありません。ですがいずれにしろ、互いに重力で引き合い、軌道に影響を与え合うのは間違いないでしょう》

それを聞いた仁は悟った。

『つまり、5番惑星の軌道を通過したあとについて、今の予測が当てはまらない可能性もあるということか』

《その通りです。長周期惑星の軌道がどう変化するかまでは今のところ予測できません》

『そうか……』

《更に言いますと、長周期惑星の速度は異常です。一定していないようにも見えるのです》

それを聞いて仁は、長周期惑星ももしやこのユニーと同じように、何者かに操られているのではないかと思ったが、さすがに1204年という周期を考慮して、それはないだろうと思い直した。

『ということは、もう少し接近して来れば、より詳しいことがわかると言うことだな』

《はい》

『よし、引き続き観測は続けておいてくれよ』

《はい、わかりました》

こうして仁は新しい力を手に入れた。

それは、10月に接近する長周期惑星による影響に対抗するために役立つであろう。

* * *

「……まずは、成功、かな」

「ジン兄、お疲れ様」

『 分身人形(ドッペル) 』の操縦装置を外した仁とエルザは、司令室で礼子に淹れて貰ったお茶を飲みながら寛いでいた。

仁Dはユニーの施設に残り、エルザDは『アドリアナ』の中。

このあと数日かけて、月面に簡易基地を建設する予定なので、それが済むまでは2体とも帰還しない。

「でも、月の謎が解けて、ほっとした」

「ああ。思っていたものとは違ったけど、やっぱり悲劇があったんだな」

「ん。……同じ間違いは、犯さないようにしないと」

「そう、だな……」

宇宙船開発の目処がつき、仁の心労も随分減った。

6月を迎えた蓬莱島には爽やかな風が吹いている。

「まだまだやること、やりたいことは多いけど、一つ一つこなしていこう」

「うん、精一杯、お手伝い、する」

「お父さま、私も頑張ります」

『 御主人様(マイロード) 、お任せ下さい』

「頼りにしてるよ、エルザ、礼子、老君」

仁は正面の 魔導投影窓(マジックスクリーン) を見つめた。

そこには漆黒の宇宙を背景に、無数の星々がきらめいていた。