軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27-44 過去の真相

今から235年前、旧レナード王国に未知の疫病が流行った。それは『魔力性消耗熱』と名付けられ、恐れられた。

疫病は国の北から始まり、次第に南下。

死亡率が高く、防ぎようがない状態であった。遺体は灰になるまで焼かれ、王国の人口は半減したほどである。

この状態を免れるために計画されたのが移民……脱出である。

行き先は月。レナード王国には、いつからのものかわからない、一つの魔法陣が遺されていたのである。

まず王が、王族が、そして貴族が、一般庶民が。

次々に転移していき、1人として戻ることはなかったと言われている。

これは、昨年夏、旧レナード王国へ調査旅行に行った際、地下室に遺されていたメッセンジャーから聞いた話である。

『俺は、旧レナード王国の過去を、地上で聞いたことがある。『基地を管理する者』と、直接話がしたい』

答えは無かった。

長い沈黙の時間が流れる。そして、案内役ゴーレム28号のものではない声が響いた。

《貴殿は何者か? 自動人形(オートマタ) の身体を持つが、その精神はまぎれもなく人間のものだ。そんな存在には初めて出会った》

口調は異なるが、仁Dが転移してきたときに聞いた声。『基地を管理する者』だろう。

『俺はジン・ニドー。『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』であり、地上の人間です。今話をしているのは俺が作った『 分身人形(ドッペル) 』です』

《『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』……? 察するに、魔法技術の第一人者、ということだろうな。『 分身人形(ドッペル) 』……? それも初めて聞く名だ》

『そちらは『基地を管理する者』、でいいのかな?』

《その通り。私は、かつて『天翔る船』の管理頭脳であった。『天翔る船』がその役目を終えた際、アルスへ移り住んだ『主人たち』より、この月の地下で、この基地を管理する役目を新たに授かったのだ》

驚くべき過去が語られた。

『基地を管理する者』は『主人たち』と言った。それは、700672号が言う『主人たち』と同じ人々を指すのであろうか。

『その主人たち、というのは、宇宙の彼方からアルスへとやって来た人たち……で合っていますか?』

《その通り。よく知っているな。それも『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』だからか?》

『いや、どうだろう……? やはり、そうなんでしょう』

確かに、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) であるからこそ、旧レナード王国へ行き、地下室のメッセンジャーから話を聞く事ができ、また、魔族領で700672号という従者と知り合えた、といえなくもない。

仁Dは、簡単にこれまでの経緯を話して聞かせた。

《なるほど。貴殿は、話をするに値する者のようだ》

『基地を管理する者』は、仁D、ひいては仁を、対話の相手として認めたようである。

《ならば、ここへどうやって来たのか、聞かせてもらえるだろうか》

『転移で来ました。転移と言っても、魔法陣ではなく、転移の魔道具で、ですが』

《ほう、興味深い。受け入れ側を必要としない、ということか?》

『その通りです』

《この施設内には転送機はない。よって当然の帰結である》

『確かに』

《もしかして、『天翔る船』……いや、宇宙船を持っているのか?》

『持っています。それを使って月……ユニーへ来たのです』

《やはり。…………貴殿は『主人たち』ではない。だが、『主人たち』に匹敵する技術を持っているようだ》

『それはいいですが、言葉だけで信じるのですか?』

《言葉だけではない。この施設の一部は、かつて『天翔る船』であった。そこには様々な計測機器も残っている。それを使い、ユニー周辺を調べたところ、貴殿の言う『宇宙船』を確認したのだ》

仁は内心、『基地を管理する者』の持つ能力に舌を巻いた。自分が持たない、あるいはまだ開発していない技術も持っているようだ。

それからしばらくの間、仁Dは『基地を管理する者』と対話を行い、情報を得ていった。

最も有意義だったのは、何といっても『転移魔法陣』だろう。

『 失われた(ロスト) 魔法技術(マギテクノロジー) 』である転移魔法陣は、時間は掛かるものの、 転移門(ワープゲート) の5分の1程度の消費魔力で物体を転移させられるようだ。

これも、円形の魔法陣により魔力を増幅するからだろう、と仁は推測している。

ただし、受け入れ側は、対になる魔法陣である。どこへでも転送できるというわけではない。

仁としては、この転移魔法陣を改良し、任意の場所へ送り出せるようにしたい、と夢を抱いた。

そしてもう1つの、核心に触れる話題になる。

『……旧レナード王国から移動してきた人たちは、病で全滅したというが、本当なのですか?』

《99パーセント、真実である》

99パーセントとはどういう意味か、と仁Dが尋ね返す前に、説明がなされた。

《生き残った人たちがいたのだ》

それももっともである。

もとより、『魔力性消耗熱』は、魔力の少ない者ほど重篤になる病気である。数万人の中には、保有魔力が高いおかげで生き延びた者もいたであろう。

この『魔力性消耗熱』がこのアルス特有の病気だったがため、『基地を管理する者』が対処するのが遅れたことも、この悲劇の一因だったようだ。

《生き残った人はおよそ1200人いた。それから、およそ9世代……約230年が経ち、1200人は2人に減ってしまったのだ》

どの夫婦にも、子供が1人しか生まれなかったのだという。それでは確かに、9世代も経てばほとんどいなくなってしまうはずである。

まして、男女比が1対1で生まれてくると限ったわけでもない。

《そのお二人のうちお一方は先日お亡くなりに。最後のお一人もご高齢となった》

『そうだったのか……』

病と、出生率低下による人口減少、いや、最早『滅亡』といっても過言ではないだろう。

魔力性消耗熱から逃れ、月へきたわけだが、滅びの運命からは逃れられなかった、ということだ。

『しかし、旧レナード王国の人々は、よく月……ユニーへ逃れようと思ったものですね』

《そもそも、あの国は、最もここからの恩恵を受けていた国であるからだ》

また新たな事実が出てきた。仁Dはそのことについて詳しい話を聞いてみる。

《この『天翔る船』に所属する『主人たち』が降り立ったのがレナード王国なのだ》

どうやら、魔族領に降りた人々とは別系統の人たちだったようだ。

確かに、『天翔る船』が1つだけと限ったわけではないだろうから、頷ける話ではある。

(旧レナード王国は周囲の国との交流も少なかったらしいから、血が濃くなりすぎた結果、滅びの道を歩んだのかもしれないな……)

蓬莱島の仁は、聞いた話から一つの推測を立ててみる。それが正しいかどうかは検証する術もない。だが、仁の気持ちに、なんらかの区切りはつけられたようだ。

『話は変わるけど、居住区を厳密に分けたのは、やはり病気対策からなのでしょうか?』

《その通り。生き残った人々は、『もうどこへも行かず、どこからも受け入れず』を実践し、出入り口のない区画に引き籠もった。行き来するには転移しかない》

究極の引き籠もりだな、と仁は思ったが、口には出さない。

『その方は、この運命を甘んじて受け入れてらっしゃるのですか?』

ただ、そんな疑問を口にする仁D。

《はい。……………………ジン殿、たった今、そのお方から指示が下りました。お会いしたい、ということです》

いきなり『基地を管理する者』の口調が変わった。

そして、少し感じられた間は、その者とやりとりをしていたらしい。仁はすぐに了承した。

『会ってくれるというなら、いつでも』

こういう時、『 分身人形(ドッペル) 』であるということは非常にありがたい。仮に罠であったとしても本体には何の影響もないのだから。

『アンはどうすればいいでしょうか?』

《そちらも 自動人形(オートマタ) なので同道してもらってかまわないとのことです》

『では、行きましょう』

《そこから真っ直ぐ進み、突き当たりの部屋に入って下さい》

仁Dとアンは指示通りに進む。

また、操縦している仁は、『基地を管理する者』の口調が変わったのはどういう影響なのか、などと、本筋とは関係ないことを考えていた。

突き当たりの部屋の床には魔法陣が描かれていた。

(忍部隊は見つけられなかった部屋だな……)

そこにも何か施設の秘密があるのだろうか、と仁は想像する。そして仁Dとアンは魔法陣の中央に立つ。

《では、移動します》

魔法陣を起動するトリガーとなる魔力が加えられ、数秒後、仁Dとアンは別の部屋に転移していた。

《ここは別の施設の中です》

確かに、仁Dのセンサーにも感じられるほど、環境が違う。

まずは、重力。先程までいた場所ではほぼ1Gであったが、ここは0.8Gほどだ。

次に気温。これも、摂氏20度くらいであったものが27度にほどに変わっている。

湿度も、非常に乾燥していたものが、50パーセントくらいになっているようだ。

(おそらく、高齢という最後の1人のためなんだろうな)

仁がそんな推測をしていると、ゴーレム28号によく似たゴーレムが現れた。

仁Dとアンを案内するようだ。

《こちらへおいで下さい》

(鬼が出るか、蛇が出るか)

そんな時代劇めいたセリフを胸中に抱く仁。

言われた通り、仁Dとアンはそのゴーレムに付いていった。