軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27-43 過去の悲劇

蓬莱島では6月3日になった。

仁は午前6時には起き早めの朝食を済ませると、早速司令室へ行き、『 分身人形(ドッペル) 』仁Dの操縦装置を被った。

『 御主人様(マイロード) 、特に何ごともありませんでした』

仁が休んでいる間、仁Dを管理していた老君が報告する。

向こうでも仁Dはベッドに横たわり、眠っているふりをしていただけであった。

「ごしゅじんさま、おはようございます」

アンが挨拶してくる。

「忍部隊が調べた内容を報告いたします」

仁が寝ている間、5体の忍部隊は施設内の調査をしていたのである。

それを老君が一旦まとめ、アンの口を通じて報告する、という流れである。

というのも、忍部隊の肉声(?)は甲高くて聞き取りにくいからだ。

『わかった。聞かせてもらおう』

* * *

蓬莱島時間で、前日の午後10時頃から、忍部隊は活動を開始していた。

警護が優先事項だったので、仁Dが部屋に戻って寝たふりをしてから1時間以上警戒していたのだが、特に何も起こらなかったので、警護はアンに任せ、彼等はそっと施設内に出ていったのである。

(まずは、許可された施設内の調査を行う)

リーダーである忍壱が全員に向かい、方針を説明した。

(次に、あの案内役ゴーレム28号とその周囲を調べてみることだ)

その際、行動は一緒に行うことにした。効率は悪いが、未知の天体、未知の施設、未知の相手、ということを考慮し、リスクを避ける方を選んだのである。

図書室には見るべきものは無かったので、娯楽室へ行ってみる。

(これは、何かのゲームだろうか)

四角い板にマス目が刻まれており、コインのような丸い石が付属している。石は黒と白があるようだ。

(『それは『碁』というゲームですね』)

老君が情報を送った。

(『 御主人様(マイロード) が元いらっしゃった世界にあったというゲームです。もしかしたら『 賢者(マグス) 』シュウキ・ツェツィが伝えたのかもしれませんね』)

正式には、囲碁は19掛ける19の盤面、連珠(五目並べの正式名)は15掛ける15だった、と仁の記憶にある。

ここにある盤は19掛ける19、囲碁なのだろうか、と老君は推測するが、それは2次的な問題であり、突き詰めることではない。

隠し戸棚なども見つからず、娯楽室にはこれ以上見るべきものもないと判断し、忍部隊は次の部屋へと向かった。

談話室は簡素な椅子とテーブルがあるだけ、ここにも見るべきものは無かった。

そして医務室。

ベッドがあり、小さな棚が一つ。だが、棚の奥に更に隠されたスペースがあって、そこに薬品が隠されていたのである。

(これは……?)

忍部隊の解析機能では、薬品の正体はわからなかった。

(『どうしましょうかね……』)

これには、老君も悩むところである。この薬品を蓬莱島に持ち帰った場合、もしも在庫管理がなされていたらすぐにばれてしまう。

中身を別容器に入れ替えても、量が減っていればばれてしまうだろうし、水などで薄めても、絶対にばれないとは言いきれない。

逆に、中身を解析することのメリットは小さい。

結局、現段階で薬品の正体を知るために無理をする必要はないという結論を出した。

忍部隊たちは更に別室を探りに向かった。目指すは食堂である。

(ほう、パンがあるな)

カビも生えておらず、傷んでもいない。焼き上がってから1日経っていないようだ。やや硬めなのは単にイーストなどを使っていないからだろう。

(『つまり、最低でも小麦粉の備蓄があるということですね』)

老君は、もしかすると麦畑もどこかにあるのではないかと推測していたのである。

何せ、同じようなことを宇宙船内で行おうとしているのだから。

その他、調味料としての塩、砂糖が見つかった。

普通に飲めるレベルの水が出る、蛇口に似たものがあった。

その他には、特にめぼしいものは見つからない。

居住室も、仁Dがいる部屋の他に9室あった。

* * *

「ですが、知りたい情報は得られませんでした」

アンも残念そうだ。

「案内役ゴーレム28号はどこを探しても見つからなかったそうです」

『うーん、どういうことだ? 俺たち付きの案内役じゃないのか?』

「何か条件があるのかもしれませんね。例えばこの部屋を出ると現れるとか」

アンは何気なく冗談めかして口にしたが、意外とそれが正解なのかもしれない、と仁は思っている。

転移魔法陣という、特殊な魔法技術を有しているのだから、そんなこともやりかねないだろう、と。

因みに、今いる部屋に盗聴装置や監視装置の類が仕掛けられていないかは、忍部隊とアンとで調査済み。少なくとも彼等には発見できなかった。

「やはり、ここは新参者を試すようなエリアなのかもしれません」

『試すエリアだとすると、失格になることもあるんだろうかな?』

その場合どうなるのか、見当も付かない。やはり、ここは案内役ゴーレム28号に直接聞いてみる必要がありそうだ。

『報告は終わりか? ならば、まず部屋から出てみよう』

扉を開け、仁Dとアンが廊下に出ると、目の前に魔法陣が浮かび上がり、案内役ゴーレム28号が現れた。

やはり、転送魔法陣で移動してきたようだ。

〈お目覚めですか。何か御用は御座いませんでしょうか〉

『聞きたいことがあるんだが』

〈何でしょうか〉

『ここに、俺たち以外の住民はいるのか?』

老君と打ち合わせをして決めた質問である。いきなり核心を突いたことを聞くと警戒されるのではということで、この内容になった。

〈…………いえ、ジン様とアン様だけです〉

やや間を置いての返答に、仁Dを通じて情報を得ている老君は、28号が 魔素通信機(マナカム) のようなもので上位存在に確認をとったのではないかと推測した。

『では、過去には?』

これも、打ち合わせで決めた質問内容である。

〈………………いらっしゃいました〉

先程よりも長い間の後、返答があった、

『今はいない、ということか』

〈はい〉

『その理由を教えてもらえるか?』

〈……病、のせいです〉

今度の間は僅かであった。そして更なる情報が追加された。

〈魔力性消耗熱、という病が、アルスからもたらされたのです〉

『何だって……』

蓬莱島で仁Dを操縦している仁、その様子を見ているエルザはその事実を聞いて愕然とし、同時に納得もした。

『旧レナード王国の人々が逃げ出したことは無駄だったのですね』

老君のその言葉は、端的に事実を表していた。

病気を恐れて、アルスを捨て、月へ逃げたものの、病原菌も一緒に持ち込まれたのであろう。

潜伏期間というものがあるのだから、一見健康に見えた人間が、転移後に発症したのだろうと思われる。

そして、今度こそ逃げる先が無かったのだ。

思っていたのとは違う形ではあったものの、過去に起きた悲劇に、仁とエルザはしばし言葉を失ったのである。