作品タイトル不明
27-42 就寝
転送魔法陣を使った転移で移動した先はこれもまた小広い部屋であった。
《ここで待っていて下さい。案内役を送ります》
『案内役?』
仁Dの質問が終わらないうちに、転送魔法陣が輝き、いずこからか、1体のゴーレムが送られてきた。
《案内役です。以降はその者にお尋ね下さい》
それきり、『基地を管理する者』は沈黙した。
〈ワタシは案内役のゴーレム28号です。あなた方のお名前を教えて下さい〉
『俺はジン、こっちはアンだ』
〈ジン様とアン様、ですね。記憶しました〉
仁もアンも人間だと思っているのかどうかはわからないが、案内役ゴーレム28号は当面、2人の下に付くことになったらしい。
『この施設のことを教えてもらえるか?』
〈ワタシの権限では簡単なものだけですが、よろしいでしょうか〉
『ああ、それでいい。頼む』
* * *
こうした仁Dと案内役ゴーレム28号とのやりとりは、仁とエルザ、そして老君が見聞きし情報としていった。特に老君は情報を整理し、蓄え、発展させていくことができる。
それによると、
※ 転送魔法陣があった部屋とこちらの区画は繋がっておらず、転移でのみ行き来できる。
※ 案内役ゴーレムが付いていないと、施設内は歩き回れない。但し、一定の条件を満たせばその限りではない。
※ 『 殺菌(ステリリゼイション) 』と同等の魔法が使われた形跡がある。
ということなので、施設についてはこれ以上のことを聞き出すことはできなかった。
また、転送魔法陣のあった部屋から向かった先は全て罠となっているらしい。
図らずも、仁の判断は正しかったのである。
そして、3つめの『 殺菌(ステリリゼイション) 』と同等の魔法が使われた、ということは外からの病原体を持ち込まれないように、という処置であろうと思われた。
* * *
新参者は、ごく限られた範囲内しか歩き回れないようだ。
居住施設、食堂、医務室、談話室、娯楽室、図書室。
食堂の設備はまだ稼働していた。定期的な整備がされているらしい。
医務室の設備は、仁やエルザから見たらお粗末なものであった。
『ベッドがあるだけか』
あとは治癒魔法の使える者がいないと話にならないようだ。
談話室、娯楽室は、他に居住者がいないので使い途がない。
そして、図書室。
何か有効な資料でもあるかと思いきや、娯楽小説めいた本が20冊ほど置いてあるだけであった。
『新入りの待遇はあまり良くないな』
とは仁Dの感想である。
また、
「ジン兄、いつもより言葉づかいがぶっきらぼうだった」
とエルザに指摘され、なんだかんだいって緊張していたのか、明日はもう少し言葉づかいを考えよう、と反省する仁であった。
そして、仁Dとアンは与えられた部屋で休むことにした。
本来は2体とも休息は必要無いが、操縦している仁本人は休憩や睡眠を必要とする。
「気が付けばもう9時だ。軽く食事してから風呂に入って寝よう」
同時に仁Dもベッドに横たわる。アンは眠る必要がないのでその間の見張りと警護だ。
万が一の時は仁Dは老君に操縦してもらうことにする。
といっても仁Dには『寝たふり』をさせ、仁自身は食事や休息をするのだ。
「アン、あとは頼む」
「はい、お任せ下さい」
『 分身人形(ドッペル) 』の操縦はそれなりに疲れる。
途中からは操縦していなかったエルザも、少し疲れた顔をしていた。
ほとんどの時間、横たわっていただけとはいえ、空腹にはなる。
「美味い」
「……美味しい」
「恐縮です」
夕食は、ルーナがちゃんと準備してくれていた。
* * *
「あー、いい気持ちだ」
蓬莱島温泉に浸かり、手足を伸ばす仁。
「お父さま、概ねうまくいってますね」
仁の背中を流しながら礼子が話しかけてきた。
「ああ、そうだな。俺……じゃなくて仁Dと一緒に転移した忍部隊が夜の間に調査を進めてくれるだろうから、明日はもう少しいろいろなことがわかるだろう。旧レナード王国の人たちがどうなったのかとか」
「そうですね。それこそ、お父さまが一番お気になさっていたことでしたね」
「……ふう」
エルザもまた、温泉で寛いでいた。
付き添っているのはエドガーではなく、ソレイユである。
自動人形(オートマタ) とはいえ、男性……少年ではあるが……との入浴に、特に最近、抵抗が出てきたのだった。
「ジン兄……」
想い人の名を呟いてみる。それだけで胸の中がほんのりと温かくなるのが感じられる。
「私、ちゃんと支えられている、かな?」
「はい。お父さまは、エルザ様をとても頼りにされてらっしゃいますよ」
呟きにソレイユが答えてくれた。
「そうだと、嬉しい」
湯船の中で目を閉じ、息を吐き出すと、疲れも一緒に抜けていくようだった。
* * *
「……おやすみなさい」
「ああ、お休み」
風呂から上がった仁とエルザは、それぞれの部屋に引き上げるのだが。
「あ、ちょっと、エルザ」
「?」
エルザが身を翻して歩き出す前に、仁が呼び止めた。そして、手をエルザの頬に向けて伸ばしてきた。
その手はエルザの頬にそっと触れ……。
「ジ、ジン兄?」
「……ああ、取れた。ほら、髪の毛がくっついていたんだ」
エルザの頬にくっついていた抜け毛をつまみ取り、差し示す仁。
「……ありがとう」
お礼を言ったエルザであったが、なんとなく釈然としない。
自分はこんなに意識してしまっているのに、仁ときたら……。
そう思うと、少し癪に障る。
それで、思い切った行動に出た。
つと歩み寄ると、仁の頬に、軽く唇を触れさせる。
「エ、エルザ!?」
この不意打ちに狼狽する仁。
それを見て、してやったりと思う……のではなく、自分も真っ赤になってしまったエルザである。
「お、おやすみなさい」
改めてそんな言葉を投げ付けるように言い、駆け出して行くエルザであった。
もちろん、彼女が自室で布団を被って悶えていたのは言うまでもない。