作品タイトル不明
27-41 ユニー
『ジン兄、やっぱり……』
エルザDが悲しそうな声を出した。
『いや、まだわからない』
今、『忍部隊』は更に2階層上にまで達していた。
その間には、娯楽施設らしき場所や、図書室、資料室もあった。
それらは後ほどゆっくり調べてみたいと思う仁である。
『おお? ほら、ここには生活感があるぞ』
埃が積もっていなかったのである。
『……住民に会えるかな?』
エルザDが少し期待を込めて呟くが、それはどうだろう、と思っても声に出さない仁D。
少し行くと、丁字型に廊下が交差する場所に出た。この施設では初めてである。
左右どちらへ行くか、検討するが、左右を見ると、交差している廊下は緩くカーブしていた。
そのカーブの様子からすると、正面には円形をした巨大な部屋があるらしい。
ということはつまり、周囲をぐるりと廊下が取り巻いているということなので、左右どちらへ行っても同じということだろう。
それで、より近くに扉が見えたので右へ行くことにする忍部隊。
『よし、その扉を開けて、部屋の中を見てみるんだ』
かすかな期待を込めて、仁Dが指示を出した。
ここの扉は、また違う方式のロック機構だったようで、なんと12分もかかり、ようやく開くことができた。
そして、その部屋の中にあったものは。
『……やっぱり、か』
直径30メートルもある円形の部屋にあったのは、これも巨大な魔法陣であった。
『これが、もしかして、転移魔法陣?』
エルザDも気付いたようだ。
『だと思う。……老君、しっかりと記録しておいてくれよ』
『承りました、 御主人様(マイロード) 』
転移魔法陣。
転移門(ワープゲート) ではない、転送機でもない、新たな転移の可能性。いずれ役に立つかもしれない、と思った仁は、老君に念を押したのである。
『こっちにあるのは受け入れ側なのかもしれないけどな』
それにしても、解析の助けにはなるはずだ、と仁は考えている。
その部屋には、他にめぼしいものもなかったので、忍部隊は一旦外へ出て、廊下を1周してみる。
すると、右へ90度ほど回り込んだあたりに、魔法陣の部屋と反対側の壁側に扉があった。
他に先へ進めそうな扉もないので、その扉を開けて進むことにする。
こちらは、これまで通ってきた多くの扉と同じ形式のロックだったので、2分掛からずに開くことができた。
その先にあったのは、小広い部屋で、下へと続く 垂直の縦穴(シャフト) があった。
『重力魔法みたいなもので行き来するのかな?』
映像を見ながら仁Dがそう結論したのは、他に動作する部材も無さそうだからだ。
しかし、今までは上へ上へと上ってきたのに、ここへきて、下へ行く通路である。
『 御主人様(マイロード) 、動力室が一番深い場所にあったのは間違いないと思います。そして、転移魔法陣は、最も浅い階層に作られたのではないでしょうか。そして居住区はその中間に広がっていると考えられます』
老君が、今まで忍部隊が踏破してきたルートを、3次元的に処理し、仁に見せてくれた。
一時的に操縦装置を外して、それを確認する仁。
確かに、動力室と転移魔法陣室は水平距離がかなり離れているようだ。そして、転移魔法陣の下には、まだ確認していない空間があることもわかる。
「なるほどな。……うん? 待てよ……」
仁の頭にとある思いつきが閃いた。それがきちんとした形をとるまで、仁は考え込む。
老君は、そんな仁の邪魔をしないよう、無言を貫いた。
そして考えがまとまった仁が口を開く。
「老君の意見を聞きたい。……月の施設だが、転移魔法陣で転移した人間は拒まれないのではないだろうか?」
『……そういうことですか』
転移魔法陣から何者が出てくるかはわからないはずだが、警備がまったくされていなかったことを仁は訝しんだのである。
そして、今口にした結論に達したというわけである。
『その可能性は高いですね』
「だろう?」
『…… 御主人様(マイロード) 、もしやご自分で行こうと思ってらっしゃいませんか?』
「いや、自分で、というか、『 分身人形(ドッペル) 』で」
『それならいけるかもしれませんが、人間でないと認められない可能性もありますよ?』
「そのリスクは仕方ないな。『転送装置』を持って行きいざとなったら帰れるようにするよ」
『そうして下さい』
こうして仁は、『 分身人形(ドッペル) 』を使い、転移魔法陣室へ転送機で移動することを決めたのである。
『ジン兄、大丈夫?』
『ああ。俺自身が行くわけじゃないからな』
むしろこういう時のための『 分身人形(ドッペル) 』である。
『私は行かなくていい?』
心配そうなエルザD。
『ああ。生身じゃないからな』
『ごしゅじんさま、でしたら、わたくしめを是非お連れ下さい。礼子おねえさまには及びませんが、それなりにお守りできます』
ここでアンが名乗りを上げた。確かに、アンの戦闘能力は高い。それこそ、仁の 分身人形(ドッペル) の何倍も。
『うーん、そうだな。じゃあ、アンに頼むか』
『はい!』
そこで仁Dとアンは出発準備を行う。
忘れてはならないのが帰還用の『転送装置』だ。万が一のことを考え、2個ずつ持って行くことにする。
『 御主人様(マイロード) 、必要な物資を後から送り込むこともありえます。マーカーもお持ち下さい』
仁Dの 制御核(コントロールコア) もマーカー代わりにはなるのだが、仮に蓬莱島からの支援を行う場合、38万キロという距離があることを考え、専用のマーカーを持つことを進言したのである。
『よし、わかった』
『大聖』からの進言に、仁Dは頷いて必要な装備を調えていく。マーカーはボディ内の予備スペースにセットした。
アンは『 超高速振動剣(バイブレーションソード) 』と『 麻痺銃(パラライザー) 』を持った。
『よし、準備完了。『大聖』、頼む』
『わかりました。転送します。3……2……1……0!』
『アドリアナ』の中央艦橋から仁Dの姿は消えた。
エルザはエルザDの操縦を一旦打ち切り、蓬莱島の司令室で仁Dから送られてくる映像を見ることにした。
当然、座る椅子は仁の操縦席の隣、である。
* * *
寸分の狂い無く、転送魔法陣室に仁Dは転移。それも当然で、引き返してきた『忍部隊』がそこにいてマーカーの役目を果たしたのだから。
「ゴ主人サマ、コレヨリワレラ忍部隊ハ、ゴ主人サマノ護衛ニマワリマス」
甲高い声で忍壱はそう言うと、即姿を消した。
『よし、行ってみるか』
「ごしゅじんさま、わたくしめが先に立ちます」
そう言うが早いか、アンが一歩を踏み出した、その時。
《ようこそ、ユニー基地へ》
部屋中に声が響きわたったのである。
『誰だ!?』
《ワタシはこの月、『ユニー』に設けられた基地を管理する者です》
月の名前はユニーというようだ、と仁は考えながら返答をした。
『俺はジン、この子はアンだ。我々はどうすればいい?』
《道を開きます》
その言葉が終わるか終わらないうちに、転送魔法陣の脇に、小さな魔法陣が浮かび上がった。
『転送魔法陣……だな。それも送り出し専用の』
《その通りです。さあ、どうぞ》
罠かもしれないと思いつつも、ここは乗らなければ先へ進めない。
仁Dはアンを伴い、転送魔法陣へと足を踏み入れたのである。