作品タイトル不明
27-40 内部調査
忍壱から伍まで、5体の『忍部隊』が送り込まれることになった。
仁DとエルザDは、忍壱の目に連動した 魔導投影窓(マジックスクリーン) で観察することになる。
『 忍部隊(しのびぶたい) へ。最悪の場合、『転送装置』でこちらへ呼び戻せますが、基本は各自で危険回避をするように。……では、送り出します』
忍部隊が内蔵している『転送装置』は、マーカーを目印にして対象を送り込んだり呼び戻したりできるものだ。
一番の長所は自分自身も転送できること。短所はマーカーがない場所には転送できないことである。ゆえに今回は転送機で送り出すのだ。
カウントダウンもなく、5体の『忍部隊』は『アドリアナ』から月世界地下へと移動した。
『ふむ、まだ稼働しているようだな』
送り込む目印となった 自由魔力素(エーテル) 凝集体は、仁が思った通り、 魔導機(マギマシン) であった。
「 魔素変換器(エーテルコンバーター) みたいだな」
視覚情報だけであるが、仁はそう判断した。
『あそこは、地下施設の心臓部かもしれない』
* * *
転移した『忍部隊』は、まず人の気配がないことを確認し、それから周囲を見回した。
薄暗いが、魔導ランプと思われる明かりが灯っている。
更に、空気があることを報告する。
(酸素と窒素、僅かな二酸化炭素、それに希ガス。呼吸可能な空気のようです。重力はほぼ1G)
分析機能をフルに使い、そう報告した忍伍は、仁たちに周囲の様子をその目を通じて映して見せた。
古くなってはいるが、巨大な金属製の筒が立ち並んでいる。仁が見て『 魔素変換器(エーテルコンバーター) 』と判断した 魔導機(マギマシン) だ。
20基が立ち並ぶそこは、埃が厚く積もり、長いこと人が訪れた気配は無い。
( 力場発生器(フォースジェネレーター) を使え)
(了解)
埃に足跡を付けることを避け、5体は浮き上がった。そのまま天井まで移動する。
(このまま移動する。後に続け)
忍伍を先頭に、5体の『忍部隊』はそっと移動を開始した。
* * *
『おお、天井を移動していくのか』
映像が動き出した。
俯瞰する画面なので、内部の様子がわかりやすい。
『埃が溜まっている、ということは人が来ていないということだな』
映像を見ていた仁Dはそう推測した。
そして行き止まりになる。そこには扉が付いていた。
『うーん、あそこが動力室なら、当然区切りがあるわけだが』
問題はどうやってその向こうへ行くか、である。
これほど人がいないと、いくら 不可視化(インビジブル) で姿を消していたとしても、ドアの開閉は目立ちすぎる。
* * *
と、そこに、老君が発言してきた。
『 御主人様(マイロード) 、今忍部隊がいる付近を中心に、 魔力素探査機(エーテルレーダー) で詳細な調査をお勧めします』
「ん? どういうことだ?」
操縦装置を頭から外し、仁が尋ね返した。
『はい。『太白』からの進言ですので、直接お聞き下さい』
「わかった」
そして老君は、『太白』の音声を繋ぐ。
《 御主人様(マイロード) 、お忙しい中、失礼致します。私見を述べさせていただきますと、『 魔力素探査機(エーテルレーダー) 』を使えば、月にある施設内に人間やゴーレムがどのくらいいるのかもわかるのではないかと存じます》
「おお、確かにそうだ!」
その場合、移動することも含めて、その存在を検知できるはずである。
仁は礼を言い、再び操縦装置を被って、『大聖』にその指示を伝えた。
『わかりました。早速行います』
『アドリアナ』は、探査に最適な位置へと少し移動した。
そして探査すること10分。
今度はかなり詳細な探査が行われた。
そして衝撃的とも言える結論が。
『今のところ、内部に動くものはありません』
『何だって……』
少ないだろうとは予測していたが、さすがにそこまでとは思わなかった仁である。
『とはいえ、寝ている可能性もありますが』
『うーん、さすがになあ……』
その可能性は低いと仁は思った。ゴーレムなども動いていないようだからだ。
『よし、忍部隊は扉を開けて進め』
最終的に、進まなければ始まらない。
仁Dの指示を受け、忍部隊は苦心惨憺して扉を開き、通路を進み始めた。
『あんなに扉が開けづらいとはな……』
5体掛かりで5分も掛かってしまったのだ。
『おそらく、人間大の大きさだったらちゃんと反応したのでしょうね』
とは、見ていた老君の感想である。
それでも、その先にはしばらく扉らしきものはなく、5体は順調に進んだ。
(このあたりは倉庫のようです)
鍵が掛かっていない扉を開け、中を覗いて見ると、完全に干涸らびた穀物のようなものや、保存食料 だった(・・・) ものなどが発見されたからだ。
更に別の倉庫には、合成物と思われる食糧らしきものまであったのだ。
『いずれサンプルが欲しいな』
今はまだその時期ではないと、忍部隊は先へ進む。
そしてまた、扉に行き当たった。
* * *
『これもエアロックの役割をしているんだろうか?』
送られてくる映像から、仁Dはそう判断を下した。
倉庫の扉に比べ、頑丈で、開閉機構が複雑なのである。
宇宙空間にある施設なのだから、こうした小区画に区切れるようになっているのは当然だろう。
そして、この扉も開けるのに3分を要した。
扉の先は階段であった。一つ上の階層に通じているらしい。
階段の上にも扉。ここは開けるのに2分、大分慣れてきたようだ。
『おお、居住区画かな?』
明らかに、今までと異なる雰囲気が見て取れた。明るさも増し、普通の室内くらいの明るさになったようだ。
殺風景だったこれまでと違い、何となく明るく感じられる。だが。
『ここにも埃が溜まっているな……』
ということは、使われなくなって久しいということであろう。
魔力素探査機(エーテルレーダー) での調査でも、動くものがいなかったのであるから当然といえば当然なのだろうが。
『……なんとなく、もの悲しい』
映像を眺めていたエルザDが呟く。仁も同感だ。
人が住まなくなった廃屋や、うち捨てられた廃墟に通じるもの悲しさがある。
『やっぱり、人がいないのだろうか』
だとすると、どうしたことだろうと、仁は考える。
ここには空気があった。食糧庫もあった。なのに人がいない。
旧レナード王国から、万単位で人が移住したはずなのに、この有様は……。
その答えを求め、忍部隊は更に先へと進んでいったのである。