作品タイトル不明
27-37 エルザの分身人形
月が変わり、6月になった。
『 分身人形(ドッペル) 』が完成したので、仁は早速『アドリアナ』に乗り込ませてみた。
そしてとりあえず、アルス周回を楽しんでみる。
「おお、これは快適だ!」
シートに横たわっているのに躍り上がらんばかりの仁。それほど臨場感がある。
そんな仁を見て、エルザは、
「ジン兄、私も宇宙へ行ってみたい」
と頼み込んだ。つまり、自分の『 分身人形(ドッペル) 』を作ってくれ、ということだ。
「ああ、そうだな」
二つ返事で引き受けた仁は、早速製作を開始した。場所はエルザの工房である。
「ここはこうしようか」
「ん、わかった」
2人は順調に製作を進めていった。
……ところが。
「……」
ボディを作るまでは良かったのだが、外装を取り付ける段になり、耐えられなくなった。仁が。
「あ、あとはエルザがやってくれ」
「う、うん」
エルザも真っ赤である。
婚約者同士とはいえ、裸体をさらすようなもの。それを見る側の仁も、見られる立場のエルザも、まだまだ純情であった。
* * *
礼子と共にエルザの工房を出た仁は、地下の司令室へとやって来た。
ここには、アン、ロル、レファも詰めている。
「老君、ちょうど良い機会だから、蓬莱島の部隊に、新しく『 宇宙軍(スペースフォース) 』を作ろうと思う」
すぐに老君は賛同する。
『 御主人様(マイロード) 、それはいいですね。メンバーは『コスモス』たちですね?』
「そうだ。コスモス1がリーダーで、後の組織構成は『 空軍(エアフォース) 』に準ずればいいだろう」
『わかりました』
こうして、蓬莱島には、『 空軍(エアフォース) 』『 海軍(ネイビー) 』『 陸軍(アーミー) 』に続き、『 宇宙軍(スペースフォース) 』が誕生した。
「ごしゅじんさま、提案があります」
アンが挙手をして発言してきた。
「うん?」
「そういたしましたら、『マーメイド』もきちんと組織化することをお勧めします」
マーメイドは人魚型のゴーレムで、水中活動専用だ。
「そう、だな。だったら……『 海中軍(マリナー) 』かな?」
『それでよろしいかと』
これで、蓬莱島を守る5つの軍団が出来上がったことになる、などと仁が考えていた時。
「ジン兄、調整をお願い」
エルザがやって来た。外装を取り付け、服も着せたそうだ。
「わかった」
ということで、エルザの工房へ向かう仁。礼子だけでなく、アンやロル、レファも付いてきた。
「おお、可愛い」
「……ありがとう」
工房には、エルザそっくりの顔立ちをした 分身人形(ドッペル) が横たわっていた。但し、髪の毛の色がプラチナブロンドではなく、完全な銀白色だった。
「そう、か。こうすれば見分けがつくな」
仁としては、見分けがつかないように、とばかり考えていたが、身代わりとして宇宙船に乗せるだけなら、本人に似せる必要はないことに、今更ながら気付いたのである。
とはいえ、体格は同じにした方が動作の癖などを同期させやすいという利点があるのだが。
仁も、あとで髪の毛を茶色か濃いグレーにしてみよう、と思った。
『 魔力による繋がり(マギリンク) 』の緊密化は、以前700672号から譲られた『精神触媒』を、ほんのごく僅か、それこそ使ったのか使わないのかわからないほど少量 制御核(コントロールコア) に『 添加(アッド) 』することで可能になる。
「私の病気を治してくれた精神触媒」
そう、エルザの『魔力過多症』は、 自由魔力素(エーテル) の制御が下手、というような理由から起きていたわけで、それを治療するために精神触媒を100万分の1グラム摂取することで完治したのだ。
「あれを1000万分の1グラム 制御核(コントロールコア) に添加するんだよ」
まだ10分の1グラム弱くらいは残っているので、使う上で問題はなかった。
* * *
「……」
シートに横たわり、操縦用の ヘルメット(ヘッドセット) を被るエルザ。
「最初は、同調率低めで始めるからな」
「ん」
ゆっくりと起き上がるエルザの『 分身人形(ドッペル) 』。
作業台から降りようとして、みごとにひっくり返った。
『あぅ』
痛くはないだろうが、思わずそんな声が漏れる。
「もう少し同調率を上げよう」
仁はエルザの被っている ヘルメット(ヘッドセット) を少し弄った。
「これでやってごらん」
「うん」
床に座り込んでいた 分身人形(ドッペル) が立ち上がった。
『ア、今度ハ大分イい』
歩くには支障が無さそうだが、声を含め、まだどこかぎこちない。そこで仁は再度調整し直した。
『うん、いい感じ』
動作が、見るからに軽い感じになった。
「よし、あと少し上げてみるぞ。そうしたら外に出てみよう」
「ん」
今度の調整はかなりうまくいっているようで、操縦しているエルザ自身が『違和感がほとんど無い』と言った。
そして、研究所前庭に出、仁と同じように走りだした。
「おお、いい調子だな」
それこそ、100メートルを5秒以下で走るほどの速さである。
『ジン兄、調子いい』
Uターンして戻って来たエルザは、その場で4メートルほど飛び上がってみせ、1回転して危なげなく着地。
「どう? ジン兄」
「う、うん、調子良さそうだな。……だけど、動き回るならスカートはやめておいた方が良かったんじゃないか?」
「……!!」
頬に手を当てるエルザの 分身人形(ドッペル) 。
さすがに顔色を変える機能は付けなかったが、エルザが恥ずかしがっているのはよくわかった。
「……見た?」
「いや、そう聞かれても、なあ……」
答えに困る仁であった。
そして、2度の微調整を経て、エルザの 分身人形(ドッペル) も、十分な実用性を獲得した。
「あとは非常時の一時引き継ぎだな……」
「ジン兄、どういうこと?」
「今回の 分身人形(ドッペル) は、本人との『 魔力による繋がり(マギリンク) 』が緊密だから、他者がいきなり操縦しようとしてもうまく動かない可能性があるんだ」
例え老君であろうと、ぎくしゃくするだろうというのだ。
「で、操縦するのは人間である我々だ。お腹も空けば眠くもなる」
「……納得」
睡眠、食事、トイレなどで、短時間制御を明け渡すこともあるだろうというわけである。
「その際の対策として、老君や大聖にも一部の制御を任せる必要があるだろうな」
「確かに」
こうして、非常時用の『 魔力による繋がり(マギリンク) 』を老君および大聖との間にも接続し、綿密な調整をした上で、2人の 分身人形(ドッペル) は準備が万端整ったのである。