作品タイトル不明
27-36 新型身代わり人形
翌朝、仁は朝食もそこそこに、新型身代わり人形の検討を開始した。
「五感を備えた 自動人形(オートマタ) を作るのは難しくない」
まずは前提だ。
仁の前には礼子、アン、ロル、レファ、そしてエルザがいる。老君ももちろん参加している。
「重要なのは感覚の共用と身体の制御だ」
これが難しい、と仁は説明を始めた。
「操作者である俺が感じる感覚は上限を低く抑えるのに、俺からの制御命令は上限を設けないとすると、矛盾が生じる」
「ごしゅじんさま、どういうことでしょうか?」
アンが質問してきた。仁としても、今の説明はわかりづらかったという思いがあるので、改めて考え直してみる。
「俺としても、理論に100パーセントの自信があるわけじゃないけどな。……力を出すためには、どのくらいの力を出しているか、その力が相手にどんな影響を及ぼしているか、を知る必要がある」
「それは、わかります」
触覚を初めて持ったときのことを思い出し、礼子が大きく頷いた。
「でも、わたくしめなどは、触覚がなくとも、動作に支障はございませんでしたが……」
不思議そうにアンが言うが、その訳は簡単だ。
アンや礼子たち 自動人形(オートマタ) やゴーレムは、その超反応により、触覚が無くても、対象物の挙動を感知して力を加減することができる。
例えば物を持ち上げる際、極度に弱い力から始め、それでは持ち上げられないことを検知し、少しずつ力を加えていくわけだ。これをコンマ1秒以下で行ってしまえるのが彼女たちである。
これをしないで、最初からフルパワーを出すとどうなるか。
『重いと思って持ち上げたら軽かった』状態。
つまり、力余ってひっくり返ってしまったり、物をすっ飛ばしてしまったり、握りつぶしてしまったりすることになる。
「難しいよな……」
「あっ、それでしたら、強くなるほど感度を下げたらいかがですか?」
ロルからの提案に、仁は衝撃を受けた。
「……」
「あの、ご主人様、わたくしめ、何かいけないことを申し上げたでしょうか?」
不安そうな表情で、ロルが仁に尋ねる。仁はそれを否定した。
「ああ、いやいや、そうじゃない。逆にいい考えだったから感心したんだよ」
1が2になるのと、1001が1002になるのを同列には語れない、そういうことだ。
試してみる価値はある、と、仁は作業を開始した。
* * *
ボディを作るのは、もう目を瞑っていてもできるほど、何度も繰り返した作業だ。
「力は10人力くらいまでだな」
それ以上になると、仁に制御出来なくなってしまうだろうから。
「その代わり、特殊なモードを増やす」
例えば視覚。通常モードと望遠モード、暗視モードなど、切り替えられるようにしておく。
聴覚も、超音波モードを設けておく。普段は可聴域にとどめる。
普段から超音波まで聞いていたら、きっと鬱陶しいだろうからだ。
「最後は、『 魔力による繋がり(マギリンク) 』だな」
これを密にすることで、仁自身が人形に乗り移ったようになる……はずである。
仁側の『操縦装置』は、ヘルメット状にし、頭から被る形式にした。
操縦装置を被ってゆったりとしたシートに横たわる形式である。
「ジン兄、大丈夫?」
心配そうなエルザ。
「ああ。同調率は低いところから始めるから大丈夫だ。万が一、声を掛けてくれても俺が返事しないようだったら操縦装置の魔力を断ってくれ」
「……ん」
「よし、じゃあテストを始める」
仁はシートに横たわり、操縦機を被った。
まだ外装を付けてはいないので、 自動人形(オートマタ) ではなくゴーレムに見える仁の新型身代わり人形。それがゆっくりと起き上がる。
そしてぎこちなく歩き始めたかと思ったら停止。
「うーん、これじゃあ駄目だ」
操縦装置を外し、仁は再調整する。そして再度実験。
まだ動きはぎこちない。そして再度調整。
こんなことを繰り返すこと3度、ようやく動きが滑らかになってきた。
『オオ、こんどハ大分いいゾ』
初めて身代わり人形の口から言葉が発せられた。少し声が歪んで聞こえたが。
「あと少しだな」
それから更に2度、調整を行った仁。
『やった! これなら思った通りの動きをする』
身代わり人形は軽く走ったり、飛び上がったり。
『よし、外で試してみよう』
仁は、身代わり人形を研究所の外へと歩かせた。
礼子とエルザは付いていく。そしてアン、ロル、レファは工房に残った。
研究所の前庭に歩き出た身代わり人形は、そこで全力疾走や跳躍を行った。
「すごい」
エルザが感心するのも道理。とても人間には出せないほどの速度で疾走していたのだ。
飛び上がれば5メートルくらいはいく。
『まあ、こんなものか。礼子、ちょっと相手してみてくれ』
「はい、お父さま」
礼子と組み手めいた疑似戦闘をしてみようというのである。
『行くぞ!』
一気に距離を詰めた身代わり人形は、目にも止まらぬ速さで拳を突き出した……かに見えたが、礼子は落ち着いてそれを捌く。
連続で繰り出される拳、時折放たれる蹴り。それらを礼子は全て 躱(かわ) し、捌き、受け止めた。
『よし、上出来だ』
一旦距離を取る身代わり人形。本体のスペックは高いが、それを扱う仁の技量が足を引っ張るため、この程度が限界のようだ。
『礼子、とりあえず最後のテストだ。2パーセントの力で殴ってくれ』
「え? それは……」
「ジン兄、大丈夫?」
躊躇(ためら) う礼子と心配するエルザ。
『ああ。いつかはしなきゃならないんだ。礼子の2パーセントなら壊れないはずだし。頼むよ』
「……わかりました。行きます!」
礼子は意を決し、踏み込みつつ拳を繰り出した。
「ぐっ」
ぐわん、という鈍い金属音がし、身代わり人形は20メートル程吹き飛んだ。
「お父さま!」
「ジン兄!」
殴られた瞬間に仁が漏らしたであろう、くぐもった呻きが気になり、礼子とエルザは研究所に向かって駆け出した。
「おねえさま、ごしゅじんさまはだいじょうぶです」
文字通り飛び込んできた礼子を安心させるようにアンが言った。
「ああ、礼子。心配させたな。俺は大丈夫だ」
「あのお声は……?」
「ああ、やっぱり殴られるっていうのは嫌なものだな。痛くはなかったんだが、反射的に声が出てしまったんだよ」
「そうでしたか、安心しました」
そこへ遅れてエルザも駆け込んできた。そして、仁が何ごともなくシート上に身を起こしているのを見て、
「……ジン兄!」
一声叫んで仁に飛び付いた。
「お、おい、エルザ……」
「……無事で、よかった」
少し涙声なのは、余程心配だったのだろう。仁はそんなエルザの背中を優しく叩いた。
「大成功だ。殴られた感触はあるが、痛みは全然感じない。これなら、文字通り『身代わり』になってもらえるだろう」
この後、新型身代わり人形は再整備され、外装を施されて、すっかり仁らしくなる。
外装を付けた後も様々なテストを行い、ほぼ思い通りの性能であることがわかった。
この新型身代わり人形は、体力において仁を上回るが、ただ1点、『工学魔法』に関しては、 職人(スミス) ゴーレムと同程度しか使うことができなかった。
「それでも、全力で工学魔法を使う場面なんて滅多にないだろうしな」
仁はこの新型身代わり人形に合格点を出した。
そして、『 分身人形(ドッペル) 』と新たに命名されたのである。