軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27-35 バリアクッション・カー

「バリアクッション・カー?」

「ああ、そうさ。地面の凹凸にならうように 障壁(バリア) の強度を下げて、車の下に展開させるんだ。だからタイヤも無限軌道も脚もいらない」

そう言いながら仁は試作車を作っていく。

礼子とエルザは興味津々でそれを手伝った。

研究所前広場に運び出した試作車へ、論より証拠、とばかりに乗り込もうとする仁。それを止めたのはやはり礼子だった。

「お父さま、試運転ならわたくしにお任せ下さい」

これまでも、仁が作った乗り物の多くは礼子がテストを行ってきた。今回も自分が、と言って、礼子は操縦席に乗り込んだ。

《では行きます》

外部にスピーカーも付いているので、礼子の声がよく聞こえる。

魔導機関が動き出し、車体底面に 障壁(バリア) が形成された。

仁はちょっと調べてみたが、 障壁(バリア) 硬度が少し高すぎ、乗り心地が悪そうだった。地面も少し 抉(えぐ) れている。

「礼子、 障壁(バリア) 硬度をもう少し落とせ」

《はい、お父さま》

路面に応じて、硬度を変えることで、衝撃の吸収力が変わる。今度は地面を 抉(えぐ) らずに済みそうだ。

また、『強度』を変えることで、おおよそ10センチから1メートルの範囲で、車の浮き上がる高さを変えることもできた。

それらのテストを行った後、走行試験を開始する。

「よし、礼子、ゆっくり走ってみてくれ」

《はい》

推進には 力場発生器(フォースジェネレーター) を使う。

試作車は滑るように動き出した。地面にもほとんど跡は付いていない。

「おお、成功だ!」

「すごい」

エルザも素直に感激している。

車輪も脚もない自動車が、地面から30センチほど浮き上がって走っていくという光景は初めてであろうから。

時速20キロほどで広場の端まで行き、そこでくるりとUターン。

帰りは倍の時速40キロで戻って来て急停止。

力場発生器(フォースジェネレーター) だからできるのだ。

車体全体、つまり構成している分子や原子1つ1つに『力』を及ぼしているので、どんなに加速してもGは感じずに済むのである。

「よし、後は飛行性能だな。頼むよ、礼子」

《はい。それでは……行きます!》

今度は垂直に浮き上がっていく試作車。

こちらに関しては、礼子は操縦のベテランであるし、補助用の 制御核(コントロールコア) も搭載しているので安心して見ていられる。

《およそ、時速100キロくらいは余裕で出せます》

「よし、ご苦労さん」

長距離を飛ぶなら専用の偵察機を使えばいいのだから、これで十分だろう、と仁はその性能に満足した。

* * *

なんやかんやでもう夕方である。

「今日も充実した1日だったなあ……」

心地よい疲れを感じながら、仁は家へと向かった。

温泉に浸かり、手足を伸ばせば、肩から首筋に溜まった疲れが流れ出していくよう。

「楽しみだな」

あと少しで月へ行けるかと思うと、仁はわくわくしてくるのだ。

「……それにしても、宇宙服、か……」

「お父さま、『 身代わり人形(ダブル) 』でご満足いただけたら一番いいのですが……」

仁の呟きに、礼子が反応する。礼子としても心配で仕方がないのだ。

「宇宙船にお乗りになるのはもうお止めしませんが、月を探索するなら、 身代わり人形(ダブル) にお任せ下さい」

かつて『 統一党(ユニファイラー) 』の本部を急襲した際も、仁は『ペガサス1』にいて指示を出し、突入時は 身代わり人形(ダブル) に任せていたのだから。

「うーん……」

「ご不満でしたら、もっと優れた『身代わり人形』をお作りになれば……」

そんな礼子の言葉に、仁は、

「そうか! その手があったな。礼子、わかったよ。やってみよう!」

と、なにやら製作意欲を刺激されたらしく、陽気な声を上げたのであった。

「……うーん、感覚を共有すると、ダメージも受けてしまうよな……」

夕食の時も半ば上の空、夕食が済むと完全に無我夢中状態となった仁。

「……レーコちゃん、何か言ったの?」

心なしか、厳しめの口調でエルザが尋ねた。

「……申し訳もございません。お父さまに、危険を冒して欲しくないため、宇宙服ではなく性能のよい『身代わり人形』をお作りになったらいかがですか、と申し上げました」

「……納得」

仁が飛び付きそうなテーマである。

「……だったら、これもみんなで協力して、素晴らしいものを仕上げられるようにしてあげよう?」

「……エルザ様……、はい!」

少ししょげていた礼子だったが、エルザの言葉に俯いていた顔を上げた。

「ごしゅじんさま、ポイントはリミッターだと思います」

「ああ、そうだな」

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。それぞれを操縦者に伝達するが、一定以上の感覚はシャットアウトする。

そうでないと、例えば『痛み』(=痛覚)をそのまま送られたら、仮に攻撃を喰らった場合、身代わり人形は作り物ゆえに平気なのに、操縦者である仁の方がダメージを受けてしまうことにもなりかねないのだ。

「感覚を共有するのは必須だ。そうでないと臨場感が感じられないからな」

自分で探査の対象地を訪れられないなら、できるだけそれを感じられるように、というのが仁の望みである。

「ですが、ボディは可能な限り丈夫にして下さいましね」

「丈夫なだけでなく、力や素早さも最高のものに」

アンが、ロルが、レファが、知恵を貸してくれる。

どんどんと仕様が決まっていき、どんなものを作ればいいか、仁の頭の中に設計図が出来上がっていく。

「ジン兄、実際に作るのは明日。……ね?」

心配そうなエルザの目に気づいた仁は、素直に頷いた。

皆の協力があったので、まだ午後10時である。

「ありがとう。おおよその仕様が決まったよ。そろそろ、寝る」

「わかりました。ご主人様、お休みなさいませ」

「お休みなさいませ」

ロルとレファは一礼して引き下がった。

「ごしゅじんさま、お休みなさいませ」

アンは、隣室へと下がり、

「ジン兄、お休みなさい」

エルザも自室へと戻っていった。

残ったのは仁と礼子である。

「ああ礼子、お前のおかげで、いい物が作れそうだ。ありがとうな」

「いえ。……余計なことを申し上げたのではないかと心配していました」

だが、仁はそんな礼子の頭をなで、

「いや、本当にありがたかったよ。これで、安全に宇宙を楽しめそうだ」

そして布団に潜り込む。

「おやすみ、礼子」

「ごゆっくりお休み下さい、お父さま」

魔導ランプの明かりが落とされ、部屋が暗くなる。

明かりといえば、窓から差し込む月明かりだけ。

「……もうすぐ、あそこの謎を解いてやるぞ」

ちらと月に目をやった仁は、心安らかに目蓋を閉じたのである。

その夜、仁はいい夢を見られたようであった。