軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27-28 送別会

25日の朝、仁はまずハンナの所へ行った。

「あ、おにーちゃん、おはようございます!」

「おはよう、ジン」

「ジン様、おはようございます」

「おはようございます」

ハンナ、マーサ、ミーネとそれぞれ朝の挨拶を交わし、仁は早速用件に入った。

「今夜、ラリオ村から来た女の子たちの送別会をします。村長さんにはもう話をしてあります」

「もう、そんな季節なんだねえ」

マーサも感慨深げだ。

「帰ってしまうのは3人。あとの子たちはこの村に住み着いてくれるそうですし」

「ほんとにね。リックやジェフ、スレイにも春が来たようだねえ」

「え? おばあちゃん、もうすぐ夏だよ?」

ハンナが可愛らしく小首を傾げた。仁はそんなハンナの様子を、目を細めて見つめる。

「ええと、それで、午前中、俺は暇なんですよ。そこで、『コンロン3』の試乗会をやろうかと思って」

ハンナは何度か乗っているが、他の子供たちはまだだ。

ハンナは仁の『特別』であることは村中が知っているが、ここらで他の子供たちにもサービスしておこうと考えたのであった。

「ああ、それはいいねえ。大人でも乗りたい人は多いだろうよ」

* * *

マーサが言ったことは正しかった。

実に、カイナ村住民の9割以上が二堂城前広場に集まったのである。

「すごいな……」

「おー、ジン! その乗り物に乗せてくれるんだって!?」

「一度空飛んでみたかったんだよな!」

ロックやライナスといった父親連中までが少年のように頬を紅潮させている。

やはり、空を飛ぶというのは人間の憧れなのだろう。

「えーと、いっぺんに全員は無理なので、抽選をします」

こんなこともあろうかと、5色ゴーレムメイドたちに抽選箱を用意させておいたのが功を奏した。

箱の中には1から3までの番号が書かれた紙が入っており、その番号順に『コンロン3』に乗れることになる。

「おー! 1だぜっ!」

「2か、まあいいか」

「あー……。3か……」

賑やかな抽選を経て、およそ30人ずつのグループ分けが完了した。

「では、番号1番の人たち、どうぞ」

駆け込む……こともなく、整然と『コンロン3』に乗り込む村人。それを見た仁は感心する。

(民度が高い、っていうんだったっけか? カイナ村の人たちは本当に立派だな……)

「みんな乗ったかな? では、しゅっぱーつ!」

最後に乗り込んだ仁が扉を閉めると、寄り添っていた礼子から、内蔵 魔素通信機(マナカム) を通じて、操縦士のヒースに指示が出された。

「おおー! 浮いた、浮いた! いや、飛んだ!」

ふわりと地面を離れた『コンロン3』は、30人を乗せて軽々と空へ舞い上がった。そのまま一気に高度を上げる。地上からの高さはおおよそ100メートルくらいだ。

地上を眺めるにはちょうど良い。

「あ、あれ、うちの屋根だよ、お父さん!」

「ほら、エルメ川が良く見える。きれいだね」

「麦の穂が光っているよ」

大人も子供も夢中で窓にかじりついている。

自分の村を空から眺めるのはまた違った雰囲気なのだろう。

仁は、昔ハンナと山菜を採りに小山へ登ったことを思い出した。

「ジンにーちゃん、もっと高く飛べないの?」

物想いに耽っていた仁に、ジョナスの子、パティが話しかけてきた。

「うん? できるよ。そろそろ高度を上げてみるか」

仁は、今度は操縦席に向かって声を掛ける。

「高度を上げろ!」

「うわあ!」

仁の声に応じ、『コンロン3』は高度を一気に上げた。『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』のおかげで、加速Gはまったく感じられない。

「すごーい!」

高度4000メートル。カイナ村の背後に聳える山々よりも高い。

「わあ、雲が下に見える!」

雲を突き抜けると、どこまでも広がる青空。

ところで、『コンロン3』はヘリウムガスで浮遊しているわけではないので、船体内部にも入れるわけだ。

「さあ、交代で上に行ってごらん」

「うん!」

船体上部には展望室が設けてあり、定員10人くらいなので、交代で上らせる仁。

そこからは、地上では見られないほどの紺碧の空が、どこまでも広がっているのが見えるのだ。

「すごいなー……」

写真などで見ていた仁でさえ、こうした景色を初めて自分の目で見たときは感動したものだ。

ましてや、生まれて初めて空を飛んだ子供の心情は推して知るべし。

「さあ、落ち着いたら飲み物でもどうぞ」

「おお、こりゃ有り難い」

備え付けの冷蔵庫から、冷えたシトランジュースを配る仁。

乗り物酔いしやすい人には柑橘系は厳禁というが、『コンロン3』はまったくといっていいほど揺れないこともあって、不安は少ない(現に、誰も酔っていない)。

こうして、およそ2時間ほどの遊覧飛行を行い、『コンロン3』は地上へ帰還した。

* * *

交代で3組、およそ6時間半に渡って、仁はカイナ村住民たちへのサービスを行い続けた。

朝9時から始め、途中1時間ほど昼食を挟んだので、時刻は午後4時半である。ちょうど、5色ゴーレムメイドたちによる宴会の準備が終わった頃だ。

「さあみんな、大広間へ集まってくれ」

疲れを顔に出さず、仁は陽気に声を掛けた。

午後5時半、夕闇が迫り始めた頃、二堂城大広間に明かりが灯った。

「皆さん、ラリオ村から来てくれていた女の子3人が、故郷の家族の元に帰ることになりました。それで本日は、小麦の収穫を控えた慰労会も兼ね、彼女たちの送別会を行います」

小麦の収穫を控えた慰労会、というのは、彼女たちに遠慮させないための建前である。

「もうすぐ麦の刈り入れで忙しくなります。その前に思いっきり楽しんで下さい!」

仁の演説に応え、おー、という歓声がそこかしこから上がる。仁も、焦らすのは好きではないので、演説は手短に済ませることにした。

「皆さん、毎日のお仕事、ご苦労様です。そしてラリオ村の女の子たち、今日までありがとう」

そして宴会は始まった。

仁が各国から買い込んできたワインが惜しげもなく振る舞われる。

昨年秋に作った燻製肉が供出される。

獲れたての肉や魚が並ぶ。

ホットケーキ、クレープ、わたあめ、あんころもちなどの甘味も出された。

皆それぞれ、好みの飲み物で喉を潤し、好みの料理に舌鼓を打つ。

仁は、まず本日の主賓である3人の少女に労いの声を掛けた。

「フェナ、ラルゥ、ジュニ、今までご苦労さん。元気でね」

「ジン様、本当にお世話になりました!」

「勉強までさせていただいて、お世話になりました!」

「助けていただいて、ありがとうございました!」

3人は、それぞれ6人、7人、6人兄妹の末っ子である。であるがゆえに、家へ帰ることを選んだようだ。

「この村に残ってくれる子がいて嬉しいよ」

「そうですね、あなた」

村長ギーベックと治癒師サリィは養子にしたルウにお酌をしてもらいながら、少し離れたところから、賑やかな宴会を眺めていた。

「ベルタ、君が残ってくれて嬉しいよ、俺は」

村に残る8人の1人ベルタは、スレイと仲良くなっていた。そしてもう1人。

「セーマ、幸せにすっからな」

「はい、ジェフさん」

セーマという少女はジェフと結婚の約束を交わしていた。

「みんな、元気でね!」

「うん、大丈夫。ジン様が、時々はラリオ村に連れて行ってくれるっていうし」

「そうよね、ジン様にお願いすれば、また会えるわよね!」

今日の遊覧飛行は、このように将来的な交流もできる、ということを知らしめる意味もあったようで、これが今生の別れではないと、少女たちは寂しさの中にも明るさを無くさずにいた。

「ルルナって、おとなしくて可愛いよなあ」

「……お前、狙ってるのか?」

「俺はクーネの方が」

「リタは……どうするんだろうか」

ロックの弟分で、残る3人……ビル、トム、ヤンも、気になる子がいるようだ。

盛り上がる宴会を見て、彼等も似合いの相手が見つかるといいな、と願う仁であった。

そして、リタ。この村に残るのか、それともフリッツを追っていくのか。

いずれにしても幸せになってもらいたいと、仁は願う。

カイナ村の夜空には月と星が輝いていた。