作品タイトル不明
27-26 ラリオ村の少女たち
地底蜘蛛にまつわる一連の騒動が収まった5月24日、仁は『コンロン3』の試運転を兼ねてカイナ村を訪れた。
同乗者はエルザと礼子。操縦担当はエドガーと、新蓬莱島 隠密機動部隊(SP) の『ポトス』『ヒース』である。
仁としては、この2人を『コンロン3』担当にするつもりであった。
それはそれとして、この日カイナ村を訪れたのは、現在カイナ村で預かっている少女たちの身の振り方をはっきりさせるためである。
リタ、ソニア、ルウ、カナの4人は、家族もいないので国に帰らないことは既に決めていたが、残る7人は、まだはっきりとした答えを出していなかった。
「そろそろ答えも出ただろう」
6月になったら、故郷のラリオ村に帰りたい子は帰してやるつもりだった。
今日はその下調べである。
* * *
村長のギーベック宅に集められた11人の少女たちは、皆、健康そうな姿になっていた。
ぱさぱさだった髪は艶やかに輝き、荒れていた肌はしっとりとし、痩せて肋が浮いていた身体は、少女らしい丸みを帯びた体型に。
そして何より、その表情が生き生きとしていたのである。
「さて、みんなにもう一度確認しておきたいんだが」
仁が口を開いた。
「君たちをラリオ村に連れて行ってあげると約束した。その後、どうするかということことをはっきりさせてもらいたいんだ。……リタ、ソニア、ルウ、カナは、ここに残ってくれる、でいいのかな?」
「はい、私たち4人はそのつもりです」
ソニアが代表して返答した。
「あ、あの、私とセーマは、残りたいと思っています!」
と発言したのはベルタ。セーマとベルタも孤児で、村に帰っても居場所が無いのだという。
それだけではなく、セーマはジェフと、ベルタはスレイと仲良くなっているらしい。これはギーベックからの嬉しい情報である。
「と、なると、5人か……」
だが、その5人も。
「あの……、一度、村に帰ってから、どうするか決めては駄目でしょうか?」
と、こちらに住みたそうな顔をしている。
「構わないよ。察するに、君たちは家族がいるんだろう?」
「は、はい」
要は、故郷に家族がいるため、一応話をしてから、カイナ村に移住するか、故郷に戻るかを決めたいというのである。
「それなら、これから一度ラリオ村に行ってみようか」
こういうことは早い方がいいし、仁としてもこの先宇宙船関係で忙しくなりそうなので提案してみたところ、
「は、はい!」
「是非お願いします!」
彼女たちも喜んでくれたのである。
* * *
『崑崙君』としての仁は、同行者を含め、各国への出入り自由という特別通行権をもらっている。
少女たちは元々セルロア王国の国民であるし、ここカイナ村は仁の自治領であるので、何ら問題は起きない。
ということでその日、仁は少女たち11人と共に、『コンロン3』でセルロア王国東部、ラリオ村へと向かった。
カイナ村に残ることが決まっている者も乗せていくのは、故郷の様子を見せてやるためである。
『コンロン3』の速度は速い。200キロほどの距離を1時間でこなした。
「わあ、あれがあたしたちの村よ!」
「あ、あの大きな湖、もしかしてセドロリア湖?」
「懐かしい、セドロリア平原だわ……」
「あ、あれ、きっとフトークス砦じゃないかしら?」
離陸してからずっと、窓に釘付けだった少女たちだが、故郷の地形は、空から見てもすぐにそれとわかったようだ。
見慣れた地形、馴染んだ風景を見つけ、声を上げている。
「さあ、着陸するよ」
仁が一声掛けると、『コンロン3』は高度を下げていく。操縦する『ポトス』の腕は確かだ。
眼下では、村人たちが見慣れぬ飛行物体を見上げ、大騒ぎしている様子が見て取れる。
「だけど、あれは……?」
村人に混じって、武装した兵士らしき者も数名混じっているのだ。
「念のため、『 障壁(バリア) 』を張って着陸だ」
「はい、チーフ」
そして村外れへと着陸する『コンロン3』であった。
「みんな、着陸したけど、村にいた兵士の正体がわかるまで降りないでいてくれ」
安全第一で念を押す仁。だが、その心配は杞憂だったようだ。
「ジン殿!」
5名の兵士を引き連れ、現れたのは誰あろう、『カーク・アット』。
元セザール王太子の専属護衛で、王太子が即位した後は親衛隊隊長に昇進している。
「カークさん」
セザール王太子の即位騒動で、仁とカークは顔を見知った仲であった。
加えて仁は『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』であり『崑崙君』でもある。
カークのみならず、配下の兵士5名にとっても、仁のことは周知の事実であった。
「本日はどのような御用ですかな?」
カークからの、当然の質問。だが、仁の後ろにいるリタの顔を見て、
「うん? そなたの顔はどこかで……」
と考え込む素振りを見せた後、思い出したとみえ、ぽん、と手を叩いた。
「おお、そうだ、お前は確か、フリッツ殿が救った、奴隷だった少女だな」
「は、はい……」
少し怯えたようなリタに、カークは微笑みかけた。
「そんなに恐がらなくていい。我々は、陛下の命によりこの春の作柄を確認するために各地を回っているのだ」
と、説明されて、リタや他の少女たちもようやく少し安心したようだ。
「そうだったんですか。ええと、俺は彼女等を保護していたんですが、故郷の様子を見せるため、ここに連れてきたんですよ」
「ほう、そうだったか。うむ、なんとか、昨年の飢饉は乗り切ったようだ」
確かに、上空から見ても、麦畑は青々と成長していたし、放牧されている羊の数も思ったより多かった。
草原の草も十分に繁茂しているようで、この春から夏にかけての食糧事情は問題無さそうである。
「それで、その子たちは全員帰郷するのかな?」
「いえ、希望者だけです。あとは俺の領地に移住してもらいます」
仁のその答えはいささか不用意である。住民を他国へ移住させようということは、聞く者によっては敵対行為とも捉えられかねない。
だが、相手がカーク・アットであったことは幸運であった。彼は事情に通じている。
当時王太子だったセザールが、奴隷売買されていたリタの境遇に憤ったことはよく憶えている。
そして、仁がリタと同郷の少女奴隷を救ったという話も当然知っていた。
非公式とはいえ、彼女等は仁のもの、ということも言える。
セルロア王セザールが承知の上であることも。
「うむ、わかった。その子らのことはジン殿にお任せする」
「ええ。移住してもらうことが決まり次第、セザール陛下にその旨断りに伺います」
亡命ではないのであるから、きちんとしておこうと思った仁であった。
* * *
結論からいうと、3名の少女がラリオ村への帰郷を申し出た。
3名とも家族がいるので、帰郷を望んだのである。
「わかった。荷物もあるし、カイナ村で送別会も開きたいから、今日のところは一緒に戻ってくれるかな?」
「ええ、もちろんです」
こうして、カイナ村には7名ないし8名の少女が移住してくれることとなった。
因みに、『ないし』というのは、リタが宙ぶらりんなためである。
カイナ村で数ヵ月を過ごした結果、彼女は、カイナ村に定住するか、フリッツの下へ侍女として仕えに行くか、決めかねていたのである。