軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27-21 意外な人物

一方、こちらは首都ロイザートの露天商が店を出しているエリア。

「……ふう、見破られてしまいましたね……」

誰にも聞こえないような小声で、溜め息と共に呟かれた言葉。

「あれが、『地底蜘蛛』から採れた糸と見破る人がいるとは、この国の人間もなかなか優秀ですね……」

だが、周囲に誰もいないように見えてはいるが、すぐそばに、老君が派遣した『 第5列(クインタ) 』の遊撃担当、レグルス46、通称『デック』がその呟きを聞いていたのである。

『ふむ、興味深い呟きですね』

蓬莱島でそれを聞いた老君は、その呟きの持つ意味を考えてみた。

『この国、という言い方からすると、ショウロ皇国出身ではないのでしょうかね。それに、優秀ですね、という言い方は上から目線ですね……』

そんな考察をしてはみても、情報が少なすぎて結論を出すには至らない。

『今のところ強引に、というわけにも行かないですし、もうしばらく様子見ですね。……それから、グース殿に関しては、カペラ7にもっと注意させるよう連絡するとしましょう』

* * *

「……暗い階段だな。おまけに狭い。長い」

ぼやきながら、グースは階段を下りていく。

そのぼやき通り、階段は暗く、狭く、長かった。まるで地の底へと続くかのように伸びている。

小さな魔導ランプしか無いため、ようやく足元が見える程暗いその階段を、グースは一歩一歩降りていくのだった。

(グースさんは危機感が足りませんね……)

その5メートル後ろを、 第5列(クインタ) の一員であるカペラ7、通称テラルが付いていく。

(行動力があるといえば聞こえはいいですが、やや無鉄砲といえます。もちろん、知識欲がそうさせているのでしょうが……)

地下へと続く階段は、およそ200段ほどもあった。

途中で何度か引き返そうかと思ったグースであるが、サキが真相を知ったらどんなに喜ぶだろう、と思うと、足を止めることはできなかった。

また、彼自身も、ここまできてそれはもったいない、と思わないでもない。

結果、40メートルほどの地下まで降りてきたグースなのである。

「扉、か」

束の間、その取っ手に触れるのを躊躇ったものの、結局グースは扉を開いた。

そこには……。

「ようこそ、好奇心溢れる学者殿」

という言葉と共に、グースの首筋にナイフを突き付けた男がいたのであった。

「な、何をする?」

だが返ってきたのは質問への答えではなく、奥にいた男からの、

「身体検査をしてみたまえ」

という言葉であった。

「了解や」

首にナイフを突き付けた男は、空いている手でグースの服のポケットを探った。

「特に何もあらへん」

「そうか。……とりあえず、ナイフを下ろしたまえ。……が、一応警戒を、な」

奥にいた男が、数歩近付いて来て、軽く頭を下げた。

「失礼した。だが、たまに、布の出所を調べて、独占しようと企む輩が来るのでね」

近付いて来たので、男の顔がはっきり見えるようになる。

四十少し前くらいで、線が細く、荒事には向いていないような男だ。

だが、それを補うように、隣には黒い色をしたゴーレムが護衛のように立っていた。いや、実際に護衛なのだろう。

「……私の名はテンクンハン。元工芸家、今は……しがない錬金術師、かな」

どこかで聞いたことがある名前だな、と思いつつ、グースも名乗る。

「俺はグース・ミナカタ。博物学者だ」

博物学者、という肩書きを聞いたテンクンハンは少し考え込んだあと、

「君は……ショウロ皇国の人間ではないね?」

と質問してきたのである。

「ああ。今はショウロ皇国に帰化したが、出身は『フソー』だ」

「ほう?」

「そっちの……俺にナイフを突き付けてくれた奴はミツホの出身ではないのか?」

「ほほう……なるほど、ミツホ訛りを聞かれたかね」

* * *

蓬莱島では、カペラ7から送られてくる情報を受け取った老君が、とりあえず安堵していた。

『当面、グースさんの安全は保証されそうですね』

ナイフを突き付けられたとき、扉はまだ閉まっていなかったので、カペラ7は素早く部屋に侵入し、グースに危害が加えられそうならば、部屋にいる人間をまとめて気絶させる準備をしていたのであるが、それを解除させる老君。

『しかし、テンクンハン、ですか……ようやく、ご本人に巡り会えたわけですね』

最初はハタタの町、最近では異民族のカリ集落などでその名前を聞いた工芸家。謎に包まれていたその本人が目の前にいた。

『見たところ、まともな人のようですね……』

狂気や傲慢さは感じられないようだ。もっとも、そういった負の面は外に出さず、内に秘めている者も多いので、今の段階で断定はできないが。

『カペラ7には、いつでも介入できるよう待機してもらいましょうかね』

* * *

「私は、若い頃は工芸家として名を売ろうと考えていた。工学魔法が使えたからな」

グースに椅子を勧めたテンクンハンは、自分も座ると、突然身の上話を始めた。

「だが、私の美的感覚は少しおかしかったらしい。一部の好事家には受けたが、一般的には受けが悪かった」

その辺の事情は、グースはよく知らない。

「それで、そのうち自分に嫌気が差して、自暴自棄になり、たまたま立ち寄っていたイスマルの町から、こっそりと異民族の国を目指したのだよ」

グースは知らなかったが、この時、テンクンハンはカリ集落で故障した自転車を見せられたものの、修理することはできずにいたのである。

「工芸家としてだけでなく、 魔法技術者(マギエンジニア) としても役立たずであるとわかり、私は落ち込んだ。一時は自殺さえ考えた」

「……」

まあわからなくもない、とグースも内心頷いた。

「そんなとき、ミツホの国で、『木紙』という紙を知った。これは凄いと思った。それで、そういった新しい素材を開発することはできないかと、勉強し直すことにした」

何にせよ、向学心のある人物らしい、とグースは少し感心もした。

「そんな時、とある洞窟で、面白い虫を見つけてね。蜘蛛の一種なんだが、こいつの出す糸はえらく品質がいいのだ」

それで織った糸があの布だ、と、多少途中を飛ばした感があったが、テンクンハンの説明は終わった。

* * *

『なるほど、要は、彼、テンクンハンが、失意のうちに訪れたミツホで見つけた蜘蛛が出す糸で織った布だったわけですね』

カペラ7の中継により、老君もまた事情を知った。

『それで彼は、世話になったミツホのために外貨を稼ごうと、こうして布をこっそり売っている、というわけですね』

しかし、と老君は考える。

『こんな方法では、たいした稼ぎにもならないでしょうし、第一危険過ぎます。テンクンハンという人は、本当に残念な人のようですね……』

その理念は高いのに、と、顔があったら苦笑しているであろう老君である(移動用端末の老子は、今は宇宙船の方で忙しいのだ)。

* * *

「うーん、言わんとすることはわかるが……」

グースも、老君ほどではないが、このテンクンハンという人物が残念系であることを薄々勘付いていた。

「まもなく、ミツホとショウロ皇国は正式に国交を結ぶことになる。そうしたら、正規ルートで布を売れると思うんだが」

「何!? そんな話は初耳だ!」

驚くテンクンハン。

「こんなところに潜んで、こっそり商売をしようとするからだよ」

そう言いながら、この話は誰に持って行くのが一番いいかと考え出すグースであった。